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カメタ🐢とフジサワ🗻
2024-08-13 11:40:59
42953文字
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Action
〜カメタ(@kmt9993)とフジサワ(@fujisawa135)の本編軸ちさたきリレーSS企画〜
*こちらのPrivatter+にて全編公開しております!
『Action』
【目次】
①Prologue(カメタ)
②Scene#1(フジサワ)
③Scene#2(カメタ)
④Cut & Break(フジサワ)
⑤Reaction(カメタ)
⑥Epilogue(フジサワ)
1
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4
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6
Reaction
雲の隙間を縫ってようやっと現れた陽光を、キラキラと乱反射する湿ったアスファルト。雨上がりのしっとりした匂いを感じながら、レンタル自転車のタイヤをカラカラ鳴らし、店長の後ろをゆっくり着いて歩く。
2、3歩ほど前を歩く店長の影が、わたしの足下に向かって小さく伸びている。その影をタイヤの前輪で踏んでしまわないよう、少し視線を伏せたまま歩き続ける。
カフェを出てからというもの、店長もわたしも特に言葉を交わさずにいる。けれど、二人の間にある沈黙に気まずさなどはなく、むしろ穏やかな空気が流れているような気さえした。
『君たちにはまだ、交わせる言葉があるだろう』
先ほど言われた言葉を思い返しながら、店長の背をじっと見つめる。店長は、千束にとっての父親であり、わたしにとっての上司であり恩師のような存在だ。
錦木千束の運命を捻じ曲げたのは"井ノ上たきな"かもしれない。けれど、錦木千束の命を救うために"新たな心臓"を運んできたのは、間違いなく彼自身だ。
店長は一体、どんな言葉を吉松と交わし、どんな気持ちで娘の未来を手にしたのだろう。もしかすると、彼らにはもう、交わせる言葉すらないのかもしれない。
大きな背中とは反対に、足下に短く伸びる小さな影を見つめながら、思う。
真実が語られることは、きっとこの先、ずっとないのだろう、と。
キッチンカーにたどり着いたときには、夕陽が沈み始めていた。店長はそのまま車内へ向かったけれど、わたしはレンタル自転車を元の場所に返してから、少し遅れてキッチンカーへと戻った。
「ただいま戻りました」
「たきな戻ったか〜、おかえり〜」
気の抜けた声とともに、助手席の窓から細くて真っ白な腕がひょいっと生えてきて一瞬驚く。どうやら、クルミがヒラヒラとこちらに手を振ってきたようだった。先ほどの雨で、看板娘は雨宿り先に助手席を選んだらしい。
「へいらっしゃ〜い、濡れネズミども〜
…………
ん?」
大きめのタオルを手にしたミズキさんがやれやれといった感じで車内から出てきたけれど、わたしと店長を交互に見ると途端に首を傾げた。
「なによ、あんな大雨だったのに、おっさんもたきなも全然濡れてないじゃない」
「ここからちょっと離れた喫茶店の前で、配達帰りのたきなに会ってな。少し雨宿りしてから帰ってきたんだ」
「すみませんミズキさん、お店番任せきりで
……
」
「いーわよ別に。店番ったって、大雨でお客なんてひっとりも来なかったし。ま、千束のヤツはしっかり濡れネズミになって帰ってきたけど。ほんと、日頃の行いの差ね〜」
ミズキさんはそう言って、わたしと店長に一枚ずつタオルを渡してからキッチンカーの奥へと戻って行く。わたしは受け取ったタオルを髪にあてながら、結んでいた髪を下ろした。
「おや
……
千束はどこにいったんだ?」
「あ〜、アイツなら一回お家帰る〜つって出てったっきりよ」
ミズキさんはなんでもなさそうな声音でそう言ったけれど
……
そうなると、千束は雨に濡れて帰ったあと、雨が上がった今もここに戻っていないということだ。
「
……
体調、崩してたりしないですかね」
「ん〜、それはたぶんだーいじょうぶ。そういう感じじゃなかったし、それに
……
」
唐突に言葉を切ったミズキさんは、しばらくじっと黙ったままわたしを見つめると、ふっと眉を下げて笑った。わたしは、向けられた笑顔の意味がよくわからず、首を傾げて切られた言葉の続きを促す。
「
…………
それに?」
「たぶん、エンジンかかってきてるわ。巻き込まれるわよ、嵐に」
「エンジン
……
嵐
……
?」
意味深なことを言っておいて、かなり満足げにしているミズキさんに、わたしはといえば首の傾く角度がクイッと増しただけで、全く訳がわからない。一体、誰が何に巻き込まれるというのか。
ミズキさんへ続けて尋ねる寸前、キッチンカーの出入り口に、見慣れた金色と赤いリボンが突然ひらりとはためいた。
「お! たきな帰ってきた!?」
「あ
……
千束、さっき戻りま、っ」
「おかえりぃ〜! そしてぇ〜、いってきまぁす!!」
手首をガッシリ掴まれて引っ張られたのち、瞬時に襲い来るおかえり&いってきますの波に呑まれそうになったが、両脚にギュッと力を入れて千束を引き留める。
「ちょっ、と! いきなりなんですか!」
「え? 行かんの?」
「ど、どこにです?」
「さつえーだよ、撮影! ショートムービーの!」
「さ、撮影?」
至極当然なように言ってのける千束の表情を見ていると、此方が連絡を見ていなかっただとか、スケジュールの把握ミスをしていたのだろうか
……
なんて勘違いしそうになる。が、多少の付き合いの長さが功を奏したと言うべきか、突然こういうことを言い出す人なのだった、とすぐに合点がいった。
「いや、でも
……
シナリオは? どうなったんです?」
「シナリオならぁ、ココにあーる!」
そう言って、千束は自分のこめかみを人差し指でトントンと自慢げに叩いた。わたしは瞼がだんだん重みを増していくような感覚と共に、ゆっくり目を細めていく。
「
…………
機材は?」
「んふふ、ぶいろぐかめら〜とやらを調達済みよ! ほい」
ベルトに挟んでいたのか、千束は背後から掌より少し大きいくらいの
……
ぶいろぐかめら、とやらを自慢げに見せてきた。わたしの目はますます、細くなっていく。いっそ目を閉じてしまいそうな勢いだ。
「
………………
キャストは?」
「えー? ココにいるじゃ〜ん♡」
千束は自身とわたしとを交互に指差して、ニコニコと笑いかけてくる。ここまで来るともう、ため息を吐かずにはいられない。
「はぁ
…………………………
では最後に。台本は?」
「ぁ〜
……
っと
……
ココにあったり?」
トン、とわたしのこめかみを突いてきた千束の人差し指をむんずと掴んで、思ったことを率直に述べる。
「あまりにも無計画です」
「あーん! そぉれが千束流よぉ! ほれ行くぞ相棒!」
「えぇ
…………
っ、ちょ、本当に今から行くんですか!?」
「思い立ったがハッピーデイ!」
「わけわかりませんよ
……
」
手を取られて、ビーチまで引っ張って連れて行かれる途中、困り顔でリコリコのメンバーを振り向けば、三者三様の笑顔で手を振られて、見送られてしまった。とりつく島もないとはこのことだ。まぁ、ここはハワイな訳だし、とりつく島もなにも、既に島の上である。
「まずは、ビーチを歩きまぁす!」
片手でポチッとぶいろぐかめらを起動した千束は、腕を伸ばして自身とわたしの姿をカメラ内に収めて歩いていく。いや、ビーチを歩くと言ったって、そんなの。
「いつもと変わらなくないです
……
?」
「んー? 日常を記録するのが、ドキュメンタリーの醍醐味でしょ」
「これ、ショートムービーなのでは?」
「あー
……
ジャンルはドキュメンタリーってことで?」
「テキトーですね
……
」
「そんなことなぁいって! じゃ、タイトルは〜情熱
……
いや『常夏大陸』でどーよ」
「
……
大陸じゃなくて島ですよ、ここ」
口から出まかせばかりな相棒は、それでも楽しそうにケラケラと笑っている。
千束の笑い声とか、笑顔とか。そういうの聞いたり、見たりするといつも、胸の奥が擽ったくなるみたいに嬉しくて。でも、それを口に出すのは難しくて、ただただ、カメラに映らないように気にしながら、砂浜に視線を落とす。
「お! 見てたきな、あの人めっちゃボード捌き上手い! あー、またサーフィンやりたいな〜
……
え、向こうでビーチバレーしてるじゃん! いーね、今度チームリコリコで参加しちゃう? え、てか、あそこのハンバーガーデカすぎじゃない!? たきな食べたことある? 千束さんまだ行ってないわ〜」
よく喋るな、と視線を砂浜から千束の横顔に移せば、パッと目が合って、微笑まれる。
「あー、よく喋る人だな〜とか思ってたでしょ、今」
図星すぎて、少し目を丸くしてしまえば、千束はもっと面白そうに笑った。揶揄われそうな予感がしたので、とりあえず不機嫌を滲ませた顔で強がってみる。
「思ってません、別に」
「うっそだ〜、そーゆー顔してました〜! あ、巻き戻す?」
「やめてください。あと、カメラ近いです」
「近いったってしょーがないでしょーよ、キャストは私とキミな訳ですし
……
あ! あそこの砂浜、座ろ!」
「行き当たりばったりすぎでは
……
」
わたしの小言なんて聞こえてないのだろう、千束はわたしの手を引っ張って少し人気のない砂浜に座り込む。その隣に腰を下ろせば、千束は手にしていたぶいろぐかめらを、砂浜にギュッと突き刺した
……
かと思えば、カメラは倒れて
……
そしてもっとギュッとして突き刺した
……
今度は成功した。
「これでよぉーし!」
ニコニコでわたしの隣にどっこいしょ〜と腰を下ろした千束は、今度はいきなり握った拳をマイクに見立てて、インタビュアーの真似事を開始した。
「常夏大陸スタートしました! たきなさん、夏はお好きですか!」
「えぇ
……
」
もはやショートムービーでもドキュメンタリーでもない気がするが、ジャンルに関して考えることはもう放棄しようと思う。
「まぁ
……
冬よりは夏の方が好きですかね」
「おー! だったら、常夏サイコーだねぃ」
というか、貴女の居ない冬がサイテーだったんですよ。
なんて、わざわざそんなことは言わないでおいたけれど、すぐそばの砂浜に刺さっているぶいろぐかめらが、心まで見透かすみたいにこちらを見つめていて、なんとなく居心地が悪かった。
「
…………
たきなってさぁ」
千束は少しだけ声のトーンを落として、マイクがわりに握っていた拳をやんわりと下ろした。
「割と、表情に出るタイプよね」
「
……
そうです?」
わたしのとぼけたような返事に、千束はふっと微笑んだあと、両膝を抱えるようにして座り直す。そして、わたしの顔を覗き込んで、静かに口を開く。
「そういう表情、何度も見てたのに
……
ちゃんと、見てなかったわ」
「
……
どういう意味ですか」
「ん〜
…………
目を逸らしてた、って意味かな」
千束が、一体何を言いたいのか、ちゃんと尋ねたいのに。唇に力が入って、口を開けずにいた。すると、千束はぶいろぐかめらに手を伸ばすと、そのままスイッチを押し込んで、映像の記録を止めてしまった。
「え
……
」
戸惑って声を漏らせば、千束は手に取ったぶいろぐかめらを後ろ手でバックベルトに差し込んで、困ったように笑った。
「いやぁ、ドキュメンタリーって言えば、たきなが普段思ってることとか考えてることとか、口に出してくれるかなーって思ったけど
……
逆効果っぽいし、やめだやめ〜」
「ど、ういうことです
……
?」
「
……
たきな、飲み込んじゃうようになったじゃん? 思ってることとか
………………
私に、言いたいこととか」
ドクドク、と。鼓動が横隔膜辺りに響いて、じんわり額に汗が滲む。何故、そんな唐突に
……
と思う反面、ここ数日の自身の行動を顧みれば、辻褄は合うし、脈絡もある気がした。全ては、自分が蒔いた種なのかもしれない、と。
「それで
……
インタビュアーにでもなるつもりですか」
「たきなのこと撮りたいって思ったから、まぁそれはそうなんだけど
……
一方的に気持ちを聞きたい訳じゃなくってさ。腹を割って話す場〜ってやつが欲しかったの」
腹を割って、話す。貴女にずっと話せなかったこと、貴女にずっと聞けなかったこと。その全てを今、ここで明らかにするなんて。
正直、少し怖い。
「
……
今更じゃないですか」
「ちょいちょい
……
千束さんの人生救ったのはキミなんだぞ〜、だから"今更"とか言わない。私たち、まだまだ"今から"でしょーよっ」
そう言って、千束は笑いながらわたしの左肩にドンッと肩をぶつけてきた。肩は、痛くはなかったけど、少しだけ、心が痛む。
「
…………
まぁ、まずは私からちゃんと話すべきか
――
あの日、病室から逃げた理由」
ドクン、ドクン、ドクン。ずっと知りたかった気持ちを、言葉の先を、聞くのが怖い。それでも。
『君たちにはまだ、交わせる言葉があるだろう』
店長のあの言葉が、わたしの背をしっかりと支えてくれている気がして。わたしは真っ直ぐに、千束の瞳を見つめ返した。目が合ってようやく、千束はゆっくりと口を開いた。
「
……
何も知らないまま生かされるのは
……
死ぬより怖かったんだよ」
ザザァ、と波の音に紛れて、千束が静かに囁く。わたしは無意識に、隣にある手に自分のを重ねていた。そして、祈るように目を瞑って、彼女の言葉に、耳を傾ける。
「目が覚めて、手術されたってのは、すぐ気づいた。10年も一緒に過ごした、自分の身体の一部だからさ。なんとなく、今までと違うなって、思った。でもね。生きてる実感とか、喜びとか、そういうの感じる前にさ。ここに入ってる心臓が
……
もし、私の望んだ形じゃなかったらって。"普通"じゃないやり方で、私が生きてるんだったらって
……
考え出したらさ、そんなん死ぬより全然
……
怖かったよ」
言葉尻は、波に掻き消されそうなほど、小さかった。いつの間にか、重ねていただけの掌は、千束にギュッと握りしめられていた。砂粒がザラつくのも構わず、わたしも同じ分だけ握り返した。
「
……
誰かの代わりに生きるなんて、私には無理。それが、たとえお父さんたちの願いでも
…………
たきなの、願いでも」
これを言われるのは二度目だから、わかっていた。あの日わたしは、千束が生きてさえいればいいと、そう思って、何度もトリガーを引いた。ただ、自分だけのために。彼女の気持ちなど、考えずに。
「私が生きてる理由も、この心臓の答えも、聞きたくなくてさ。だから、逃げた」
ごめん。と、千束は続けて謝った。わたしはゆっくりと瞼を上げて、千束の目を見つめた。紅くて綺麗な瞳は、傾いた陽光に照らされて、茜に近い色をしていた。
「
…………
宮古島で、正直に言ってくれればよかったのに」
「えぇ
……
そーゆー雰囲気じゃなかったじゃん! たきななんかめーっちゃ怒ってるし、いきなりめーっちゃ撃ってくるし
……
」
まぁ
……
確かに、あの時は「錦木千束を確保する」ことしか考えていなかったし、こっちは必死で探していたのに、呑気にお散歩なんてしているものだから、一発ぶちかましてやりたくなったのだ。
「
…………
そりゃ、怒りますよ。なんで逃げるんだろう、なんで帰ってこないんだろうって、ずっと考えさせられましたし」
「すまん
……
」
「
……
でも、居ない相手にずっと怒るのって、難しくって。結局、最後にはただ
…………
会いたいって気持ちだけが、残るんです」
ザザァ
……
と、さっきよりも近くで波音が聞こえる。少しずつ海面が上昇しているのか、寄せてくる波が足元まで近づいている気がした。
「
…………
私が、居ない間さ
……
本部復帰の話あったんでしょ」
「
………………
ええ」
いきなりの話題に少し驚いたけれど、恐らくミズキさんかクルミが千束に言ったのだろう。そういう話は、確かにあった。
「なんで
……
断ったん?」
「
…………
貴女の大切な場所は、わたしたちにとっても大切なので」
本当に、それだけですよ。と、本心を述べれば、千束は静かに「そっか」と呟いて、しばらく目の前の海を見つめていた。
「
……
千束」
「ん〜」
寄せては返す波の動きにつられて、貴女に言いたかった言葉を、真っ直ぐに投げる。
「
……
わたしは、貴女が生きてて嬉しい」
出逢ってまだ少ししか経ってないときに、噴水の前で貴女が言ってくれた台詞を、今でも覚えている。あの頃のわたしには、千束がどうしてそんなことを言ってくるのか、てんでわからなかったから、戸惑うしか出来なかったけれど。もし今、返事をさせてくれるなら、わたしだって「嬉しい」んだって、貴女に伝えたい。
千束は少し目を丸くして、わたしをじっと見つめる。千束の前髪が風にしゃらしゃらと揺れる。やがて、千束の薄い桜色が、ゆっくりと弧を描いて、微笑みを形づくる。
「
…………
うん。私、」
――
生きてて、よかった。
何気なく、笑いながら言われた台詞に、じんわりと視界が滲んでしまって、わたしは両膝の上に顔を伏せた。
ずっと、聞きたかった言葉だった。生きていて欲しい以上に、わたしは。彼女に「生きたい」って、「生きててよかった」って、そう思っていて欲しかった。だから、嬉しい。嬉しい、嬉しい。
スンッと鼻を啜りつつ、顔を伏せたまま目頭の熱を冷ましていると、わたしの状況を知ってか知らずか、千束は呑気に何の脈絡もない話を始めた。
「たきな知ってた? 海が満ちたり引いたりするのって、月のせいなんだと〜。凄くない? あんな遠くにあるのに、海引っ張っちゃうとかさぁ」
どんなに遠く離れていても、みんなを振り回す誰かさんに似ているな
……
なんて思うと笑えてきて、わたしはゆっくり顔を上げた。
「ちょっと、似てますよ」
「ん? なにに?」
「千束に」
「え、月が? いや〜、どっちかっていうと千束さんは太陽属性でしょ」
「
……
確かに、暑苦しいところとかはそうですね」
「ちょいちょい! 聞き捨てならんなぁ!」
ふふっと笑いが溢れれば、千束も嬉しそうにいししっと笑った。
「てか、海どんどん満ちてきてない!? あぶね、濡れる濡れる
……
ほれ、行くぞ相棒!」
伸ばされた掌を掴めば、グイッと引っ張り上げられた。本当に、ずるい人。なんでもお見通しみたいな顔で、いつも先回りしてくれて、手を引っ張ってくれる。
立ち上がるために掴んだはずの掌は、そのまま自然と繋がれてしまって、手を繋いだまま海辺を歩くことになる。千束のベルトに引っ掛かっているぶいろぐかめらが視界に入ってきて、そういえばと思い出す。
「結局、ショートムービー撮れなかったですね」
「あ
……
そーいえばそーだった! 撮れ高ナシで帰ったらプロデューサーになんか言われっかなぁ
……
」
やはり、ぶいろぐかめらの出資者はクルミだったらしい。それならば
……
と、とりあえず千束にずっとやってみたかったことを実行してみようと思う。
千束のベルトからスッとぶいろぐかめらを抜き取って、近くの砂浜にギュッと突き刺す。カメラ角度を確認して、千束の元に戻れば、突然のわたしの行動に、千束は首を傾げたまま戸惑っていた。
「ん、え、ど、どした?」
「あの
……
わたし、結構根に持つタイプみたいで」
「ん? え、全然話が見えなっ、ぬぁ!?」
千束の腰辺りに抱きついて、グイッと持ち上げたあと、そのまま「ふんっ」と力を込め、千束を思いっきり
――
海へぶん投げた。
ばしゃーんと水飛沫が上がって、わたしもサンダルが少し濡れてしまった。まぁ、この程度なら許容範囲である。
「ゲホッ
……
きっ、ケホッ
……
貴様ぁっ、いきなりなにすんじゃこらぁ!」
すっかりずぶ濡れになった千束をひとまず放っておいて、砂浜に突き刺さっているぶいろぐかめらを手にとり、メモリーを確認する。
「あ、千束、いい感じに撮れてますよ」
「だっから、ゲホッ
……
なんっでいきなり
……
こんっっな」
「仕返しです。宮古島のときの」
「なっ
…………
根に持ちすぎだろ!!」
「腹を割って話す場、なんでしょ?」
「そういう意味じゃねぇ! ぁこらっ、逃げんな!」
びしょ濡れの千束と、満ちていく海に背を向けて、わたしはキッチンカーへと駆けていく。
「ちょい待てぇーい!」
「戻ったら、ちゃんとシナリオ考えましょう!」
「え
……
おぉ、やる気あんじゃんたきなぁ!」
過去の思い出になる気なんて、未ださらさらない。現在進行形で、やりたいこと最優先を貫けば、きっと、もっと、月は燦然と輝いてくれるから。
「よぉーし、ショートムービーの"ショート"消して、たきなの出番たーっぷりの映画撮って、銀幕デビューさせちゃる!」
「絶対嫌です!」
「即答!? ちょいちょいたきなぁ〜!」
「まだまだやることはいっぱいあるんですから、長生きしてくださいよ!」
「あっはは、まかせろ相棒〜!」
胸を満たしていく幸せすら、追いかけてくる月のせいにして。
常夏色の思い出を、いつか貴女と、観れますように。
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