雨宮水月
2024-07-18 14:26:53
8154文字
Public 企画
 

第二回誰の文章だゲーム

参加者6名の中で、どの作品を誰が書いたのか当ててみよう!



【作品D】

ちょっとした油断だった。大丈夫だという慢心が、絶体絶命を招いたのは理解している。理解しているが、こんなところで死ぬのも癪だった。そもそも、今日一日、運が悪かったのだ。朝、起きたら楽しみにしていたプリンは相棒の腹の中におさまっているし、事務所を出た瞬間に大雨は降るし、近所の美猫のミケちゃまには引っ掻かれる。とにかく、何もかも運が悪かった。だから、あんな雑魚、自分一人で大丈夫だと、油断し、慢心し、突っ込んでいって、このざまだ。
妖怪退治など、令和の世の中でやるような職じゃない。それでも、目に見えないものによって涙を流す人たちは存在していて。そんな人を笑顔にするために、相棒と共に立ち上げた妖怪退治専門の『何でも屋』
ようやく風向きがよくなってきたのにこのざまだ。抉られた脇腹から溢れ出る血液は止まることはなく、地面を濡らしていく。激痛で意識が飛びそうだ。今日は、あいつと別々の仕事。あいつがこっちにやってくることはない。一応、街外れの朽ちた倉庫で仕事だと、教えてはいるが、それはそれだ。
がたん、と大きな音が鳴る。現実逃避していた意識を強制的に引き戻される。はぁはぁ、と粘っこい吐息が聞こえてくる。ヤツだ。気配を押し殺し、妖怪が立ち去るのを待つが、あいつらの執念は恐ろしい。追いかけると決めたなら、地獄の果てまで追って来る。一撃いれたのが運の尽き。おそらく、俺の息の根を止めるまで追い続けてくるだろう。
ずるり、ずるり、這うような足音が、近づいてくる。呼吸が乱れる。心臓が五月蠅いくらいに脈打つ。まるで耳の中に心臓があるような感覚。
ずるり、ずるり、ずるり。
緩慢な足取りが、逆に恐怖を掻き立てる。
気付くな、気付くな、気付くな!!
心の中で唱えているうちに、その足音が俺の後ろを通り過ぎていく。
ほっと一息ついたその瞬間。
「み つ け た」
頭上から聞こえる声。耳まで裂けた口が歪に笑う。バカッとあいた口に、鋭い牙。
あ、死んだ。
と、覚悟すると同時に妖怪の頭が吹き飛んだ。どす黒い液体が顔面にふりかかる。
「生きてる?ハニー」
「なんで
「嫌な予感がしたから、仕事片付けてすっ飛んできたのよ」
彼女はにこやかに笑いながら、対妖怪のバカでかい拳銃を妖怪へとむける。頭を吹き飛ばされても、その怪異は生きていた。バラけた肉片が残りの身体に集まっていく。うじゅるうじゅると不快な音をたてて再生しようとする怪異の身体に銃口をつきつける。
「あのね、ハニーをいじめていいのはアタシだけなの。妖怪はすっこんでろ」
引き金を引くと爆音が鳴り響き、妖怪の身体が吹き飛んだ。ばらばらになった肉片を見ながら、彼女は祓いの言葉を口にする。すると、肉片は灰となり消えて行った。
「ねえ、ハニーこれでさ、今朝のプリンのことチャラにして」
「は?」
「だって、ハニー、怒ってたでしょ。あれで嫌われちゃうの、嫌だもん、許して」
相棒はそういって、痛みに呻く俺に抱きついてくる。
嗚呼、そうだ、忘れてた。たとえ俺がどれだけの不幸を背負っていても、絶対に死なない。
何故なら俺は勝利の女神(ラッキーガール)を相棒にもっているからだ。
「べつに、いい、よ、それ、く、らい」
「やったー!愛してるわ、ハニー!」
俺の意識が途切れる前に見たのは、嬉しそうに微笑む相棒の姿だった。
相棒、とりあえず、俺の息の根が止まる前に救急車を呼んでくれ。
今日も今日とて、俺はなんとか生き延び、相棒と共にまた妖怪退治の日常に戻っていくのだった。