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戸倉
2024-06-29 02:34:32
22053文字
Public
終わらない牧台シリーズ
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終わらない牧台⑤
【ニコラス・D・ウルフウッドと秘密のボックス編】
・現パロ W23歳 会社員 × V 23歳 売れない役者
・4年前に失踪したVと再会して同居5か月目
・リヴィオやミリィが出てきたり
・キスに関する暗黙の了解でもちゃもちゃするふたり
・付き合ってない
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とある平日の夜、メリルとの打ち合わせから帰宅すると、寝室の隣にある小部屋への扉が半分開いていて、なんとあのボックスが開いていた。思わず声が出そうになって、ヴァッシュは口元を手で覆う。扉が開いているのを見逃さなかったのは、この家で暮らし始めてからずっとその中身が気になっていたから。
一度も開いているのを見たことがない
――
いつも固く閉ざされているその箱。ヴァッシュは何食わぬ顔で普段通りにウルフウッドへ帰宅の挨拶をし、リビングのソファ横に黒のショルダーバッグを下ろした。
ちらりと視線だけで後ろを確認し、先に食事を済ませたウルフウッドが食器を片づけているのを盗み見る。残念ながら今は行動できない。
ヴァッシュの予想では、あのボックスにはエロ本の類が入っている、もしくは貴重品。普通に考えれば後者だが、貴重品だけを入れるにしては大きすぎる気もするし、簡素なこの家の中でどこか浮いた存在感を放っている。
別に中身を見て揶揄しようってわけじゃない。何系が好きとか、どういうプレイが好きとか、誰だって多少のこだわりはあるだろう。知ってどうなるわけではないけれど、施設育ちで基本的にプライベートゾーンが広いウルフウッドが鍵までかけて守る見せたくないもの。それはヴァッシュの興味をそそるには充分だった。それに隠されると余計に気になってしまうのは人間の性だ。
「ウルフウッド、先風呂入ってきたら? おれ今から夕飯食べるし、ついでに君の分も片づけておくよ」
「いや、ええで。おどれ明日朝早いとか言うとらんかったか? 食べるんそんな時間かからんやろ。食べて先入り」
邪念通りに事を進めようと思ってもそう上手くはいかない。このままウルフウッドの言う通りに先に風呂に入れば、あのボックスが開いているところに遭遇するなんてことはもう二度とないかもしれない。ヴァッシュは何か策はないかと必死で考えた。
「あー、あの、今日見たい配信があってさ、後のほうが助かるんだけど」
「
……
さよか。ええで。ほんならこれだけ片づけて先入ってくるわ」
ウルフウッドはテーブルの上の皿とコップをシンクへ運び軽くすすいで食洗器に突っ込んだ。空調の効いている部屋だというのに、緊張からくる汗がヴァッシュの背に滲む。
ウルフウッドが洗面所へ消えていくのをしっかりと見届けてから、深く息を吐き勝利の拳を突き上げた。運は自分に味方してくれている。さて、一体どんなものが入っているのか。はやる胸のうちを抑え、わずかに開いた冷たい扉に触れる。後ろめたさを頭の隅へ追いやって、扉を手前に強く引いた。
「あれ?」
結論から言うと、そこは空だった。虚しいくらいにすっからかん。どこからどう見ても何も入っていない。中身を移動させたあとだと気づき、ヴァッシュは子どもですらしないような地団駄を踏んだ。見たい配信があるなんて嘘をついてまでウルフウッドを先に風呂に入らせたのに、あれこれ考えたのもすべて水の泡だ。虚しい。扉を元の位置に戻し、ヴァッシュは特大の溜息を吐く。
何も入っていなかったということは、見るべきではなかったということなのかもしれないが、ついこの前まではそこにあったはずのものが隠されているのはやはりどうしても気になる。
勝手にエロ本の類が入っていると決めつけていたけれど、いまどき紙の本を使うだろうかという疑問が今さらになって湧いて出てくる。お手軽さから考えればネットにお世話になっている可能性の方が高いし、最初から何もかも自分の思い過ごしだったのかもしれない。
すべてが空振りに終わった。失意によろめきながら部屋を出ようとしたところで、扉の裏にそっと置かれた見慣れぬ箱に気づく。膝立ちで歩きながら近寄って、ヴァッシュは両手でそれを持ち上げてみた。てっぺんに小さな十字架のついたそれが教会を模していることは分かる。しかし、この手作り感たっぷりのミニチュア教会が何故こんなところに? その答えを教えてくれそうな人物は今はここにはいない。扉の裏にそっと置かれていたということはあまり見せたくない物のようだが、隠すには大きすぎる微妙なサイズ感。
「アイツ、意外とヘンなところあるよな」
なんだか馬鹿らしくなってヴァッシュは手に取った得体の知れない箱を頭からすっぽりと被ってみる。上の方に作られた小さな丸い穴から天井照明の光が差し込んで、疑似的に教会にいるような感覚に感嘆の息を漏らす。
ウルフウッドと同じ神さまを信じているわけではないけれど
――
、と少しだけ罪悪感に駆られながらも「勝手にウルフウッドの秘密を暴こうとしてゴメンナサイ!」と心の中で声を上げた。そもそも秘密だと思っているのはヴァッシュだけで、ウルフウッドからすれば隠し事ですらない可能性もある。
「懺悔箱の使用料、高いで?」
「うわっ、おまえもう風呂終わったのかよ!」
上から降ってきた声に慌てて頭から箱を取り外す。首に白いタオルをかけ、まだ髪がしっとり濡れたウルフウッドが笑いを堪えて立っていた。
「いつから
………
」
「たった今や。呼んでも返事せぇへんかったおどれが悪い!」
「いってぇ!」
烏の行水を終えたウルフウッドに容赦なく手刀をくらわされ、ヴァッシュは呻く。なんの収穫も得られなかった上に手加減なしのチョップを叩き込まれるなんて散々だ。
「なんかの配信見るって言うてなかったか?」
「あー、あれ、えっと、明日だったみたい。勘違いしてた!」
苦し紛れの嘘に対し、ウルフウッドは、ふーんと興味なさげに鼻を鳴らす。
「
……
ほんなら、はよ風呂入ってき」
背中をトンと軽く押され、ヴァッシュは名残惜しい気持ちで白いボックスをもう一度見る。
「あのさ
……
」
「ん?」
あのボックスには何が入ってるの? なんて今さら聞けるわけがない。興味津々なことがバレるのも避けたい。ウルフウッドが訝し気に顔を顰めたところで渋々あきらめ、ヴァッシュは肩を落としながら洗面所と向かった。
ヴァッシュの姿が見えなくなってから、ウルフウッドは白いボックスの扉が数ミリ手前にズレていることにふと気づく。細かい事柄によく気づくせいで、高校の頃の進路指導の教師には警官になるのを勧められたこともある。
「アイツ、開けよったな」
何も言わずともヴァッシュがこのボックスの中身を気にしているのは以前から気づいていた。だからこそそろそろ潮時だと思い、ついこの間中身を分散させて移動した。
移動先は自分の育った施設とメリル宅。施設で世話になったメラニィおばちゃんには訳ありを察したように肩を竦められたし、メリルにはかなり渋い顔をされた。甘いものを奢るからどうにか! と言って頼み込んだが、「一緒にご覧になって褒めてさしあげたらどうですの?」と言われる始末。
この雑誌はヴァッシュと再会する前に購入したものだから、レムに聞いて毎回チェックしていたとはさすがに恥ずかしくて言いたくない。きっとヴァッシュの方だってそんなことを言われたら困るだろう。だが、どうして同居人が隠している箱の中身を見たいのか、ウルフウッドには甚だ疑問でしかない。配信があるなんて嘘をついてまで知りたいようなものだろうか。
「やっぱりアイツ嘘へったくそやなぁ」
呆れた声音が自然と漏れる。あんなにすぐに顔に出てしまうのに、別人の人生を生きるような役者を生業にしているのが未だに信じられない。もちろん今は完全なるプライベートなのだから仮面を被られては困るのだが。
ウルフウッドは用済みになった白いボックスの扉をゆっくりと閉め、浴室からシャワーの音が聞こえるのを確認してからベッド下の収納スペースを開ける。そこには一冊だけどうしても手元に残しておきたい雑誌があった。
珍しく大きめのカラー写真が数ページに渡って載っていて、コンセプトはよく分からないが陽の下で楽しそうに笑いながらテラス席でバナナサンデーを食べているヴァッシュの写真。笑った顔なんて毎日見ているけれど、それでもこの写真はいつでも見返せる場所に置いておきたくて、なんとなく自宅に残してしまった。今はベッド下の収納スペースに隠しているが、できれば場所を移したい。だってこれじゃあエロ本を隠している思春期の少年だ。そしてここに保管することに罪悪感をおぼえる理由がもう一つ。白いシンプルなデザインの小箱と液体の入ったボトル。数字と商品名が書かれた面を隠すように上から雑誌を置き、ウルフウッドはそっと引き出しを閉めた。
結局、数日後に決まった雑誌の隠し場所はリビングの本棚。時折、暇を持て余したヴァッシュに本を貸してくれと言われると肝が冷えるが、何食わぬ顔で本棚から適当にチョイスして渡してやればなんてことはない。木を隠すなら森の中
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