MN*B
2024-06-20 21:56:43
18507文字
Public 蠱毒な夢術廻戦:pixivバックアップ
 

探りか指導か休日か。

この小説は【蠱毒な夢術廻戦】シリーズの番外編です。
番外編言いながら、実質本編と化しました。

時系列としては、『E.2 回復する指針』と『E.3 死赦處生』の間です。

アニメディスク1についていたオーディオドラマの内容を改変したものになってます。
それと、つまりノベライズ版を踏まえた内容ですので、読みにくい部分があるやもしれません。

雰囲気重たい話になりました。ふざけた話になるはずが、ガチの話になってます。

 
ちなみに書き手としては、あのメイド喫茶の概念ぐちゃぐちゃ具合がすごく好きです。
あえてそう書いてありますよね?センスあるな~って思いました。

 

【書き手の言い訳的な言い分】
※『E.3 死赦處生』での流れにて
「それは人によって異なります。ですが、非公式記録とはいえ青嶺くんは特級を祓っている実績がありますから」
「え…ええ、まぁ。元がつくとはいえ特級仮想怨霊も祓っていますし…もしかして、これって言っちゃいけませんでした…!?」
焦りながらこちらを見てくる伊地知さんだが…俺はその辺よくわかってねぇから、聞かれても困るな。
↑これ、青嶺がわかってないのは、非公式記録とか祓った呪霊とかの実績についてのことです。

 
表紙は、かんたん表紙メーカー様からお借りしました。



#オリ主 #夢術廻戦 #五条悟
2021年4月2日 23:27



なんでっ呪法についての課外授業先がゲーセンなんだよ!!」

苦痛を耐えるように顔を歪めた衛は、そんな悲鳴をあげた。

「君にとっては、物凄くうるさいのはわかるんだけどこれも経験だと思って」

彼はそんな僕の言葉に反論はせず、ただ後ろをついて歩いた。


 僕が先導してたどり着いたのは、ゲームセンター内のとある一画。
大型のアーケードゲームが立ち並ぶそこで、僕は彼のほうに向きなおった。

「用があるのはこの機体。君にはこれで訓練してもらう」

ガンシューティング。
コントローラーが銃火器を模してあるタイプのゲーム機体。

「エアガンとか実物も用意できなくはないんだけど。君の場合、それは適さないかなと思って」

 衛の呪法。呪力によって具現化された拳銃は、おそらく重みもなく、撃ったときに反動もない。空砲のようなもの。そうでなければ、片手でしかもあんな握り方では、手から吹っ飛んでるはず。
それなら、こちらのほうが体感的に近いのではないかとなったのだ。

衛は音のうるささにか、顔をしかめながら話す。

「なるほど。と言いたいが、文句が一つある家庭用じゃダメだったか、これ」

「例えば?」

サターンのあれとか」

「マニアックすぎ!!もっと新しいほうのセガで遊ぼうよ!」

ここゲーセンだし!と力説すれば、嫌そうな顔をされた。
それをあえて無視して、機体にコインを滑り込ませる。
ゲームがスタートし、彼は戸惑ったように僕のほうを見た。

「ほら、やって」

コントローラーを示せば、袖を捲りながら右手で銃を構えた。


 チュートリアルが流れ、ぎこちなくそれをこなしていく。
それを後ろから眺めながら、僕は彼に話しかけた。

「衛って、利き手は右?」

俺がどっちかっていう質問には答えられねぇ」

身体が覚えてるほうで色々こなしてるからなと言われる。
それじゃあなんて聞けばいいの?
そんな僕の思考を感じ取ったのか、彼は自分から説明してくれる。

「元は左、途中から右。つまり両利きだ」

「へー、なんで?」

知らねぇ。たぶんペンが分解されたりとか、不都合が多いからじゃねぇか」

ぶっきらぼうに話す衛。
しかも、ペンが分解って独特の視点だなぁ。
そんな理由でわざわざ変える?と思いながら彼のことを見れば、彼は横目でチラリとこちらを見て、ため息をついた。

「その辺の苦労は俺に聞くな。俺は基本右しか使ってねぇし」

なるほどね。


 その辺りでチュートリアルが終わり、本番に入る。
それなりにプレイをこなしながら、衛は怪訝そうに喋った。

「これで本当に訓練になるのか?ゲームだろ」

「でも君、呪法をまともに扱えないじゃん。出せないし、出せても練習で撃っちゃダメでしょ」

それを聞いた彼は、それもそうか。と納得して頷く。
僕は機体に寄りかかるようにして体勢を崩し、彼の顔を横から覗きこんだ。

「この間、指の回収しに行ったときなんで使わなかったの?使えなかった?」

基本的に呪法の使用は許可制だが、命の危険があるときは使っていいと言われているはず。
なのに彼は、危機的状況と言えたあのときですら使わなかったようだ。
失明して状況が把握しきれていなかったとはいえ、彼なら呪霊にゼロ距離まで近づいて撃つことだって可能だろう。そこまでの意識が残れば、だが。
アレを構えたとき、どこか脱力感すらある姿を思い出すと喋れただけマシな意識が残っているくらいだろうか。

聞かれた彼は、ゲームをプレイしながら、ポツリと呟いた。

頭になかった」

どこか呆然としているような雰囲気。
その様子からして、本当に選択肢として上がらなかったようだ。

「じゃあ尚更だね。形だけでもこうやって叩き込んでおくべきだそれに、自分の能力は意識しておかないと」

彼はあの力を使ったあと、おそらく精神が不安定になる。そしてそれを自覚している。
だから、人前で使いたくないという思いもあったんじゃないかと思ったのだがいや、それは確実にあるな。
なぜなら彼は今、誤魔化している。

僕はそれがわかったから、彼に揺さぶりとそして、現実を伝える。

「とっさにその選択肢を取れなきゃ死ぬよ」

判断を一つ間違えば、二度と判断することさえ出来なくなる。そういう世界に身を置いているのが僕たち呪術師だ。
僕の言葉を聞いた彼は、何も言わずにただ淡々とプレイし続けている。

「死ぬのが怖くないって、聞いたよ。それは君が人格のうちの一人でしかなかったから?そして今もそう思ってるからかな」

それで、彼の判断と動きが鈍る。
僕にまで話が回ってるとは思っていなかったからか、それとも図星を突かれたからか。
平静を装おうとしているが、返事ができない時点で、何か思うことがあるのは確かだった。

彼は喋らないまま、こちらを見ることもできず、作業をこなしていた。
話したくないのか、言葉にしきれないのかそれすらもわからない。
コミュニケーションとろうって言ったのにな。と、少し寂しくもあった。

「別に全部僕に話せとは言わないよ。君にだって言いたくないことくらいあるでしょ」

そんな逃げ道を示してあげてから、僕は彼から視線を外した。


 ゲームオーバー。そう表示してある液晶が、彼の目の前にあった。
リザルト画面リトライを希望するかの選択肢とそれの制限時間が出される。

タイムが着々と減っていくなか、彼は腕を下ろした。
僕のほうも見ず、それを眺めているだけ。
ゲームへの楽しげも悔しさも、再挑戦の気持ちも、何もない。きっとそれは訓練だからだとか、僕が話しかけたせいだけではない。

「衛君のその力は使うべきだ。反動は大きいけれど、使いこなすことが出来れば変わるかもしれない」

サングラスの奥で眉が寄り、目が伏せられる。

「そうなれば、助かるのは君だけじゃない。周りの人間だってそう」

「違う」

否定の言葉。強い口調なのに、どこか弱弱しい。

「これは、誰かを助けるためのものじゃない」

そう言って、顔を俯かせた。

「力はどう使うかだ。君にとってそれは、人を助けるものじゃないのならなら何?」

彼はそう尋ねられて、コントローラーを左手に持ち換える。そして空いた右腕を緩く掲げた。
降参ともとれるポーズと雰囲気。

「俺のこの腕から出る呪具は、呪霊を祓うためのものだ。でも、アレは違う」

深く息を吐く。そして顔を上げた。
そんな彼を視て、僕は再びコインを機体に滑り込ませる。

「殺すためのものだ」

そして俺も。

そう呟いた彼の瞳で、呪いが瞬いていた。


 ゲームがリスタートされる。
正確無比。
液晶に現れるエネミーを、寸分たがわず撃ち抜いていく。
不意打ちにすら動揺しない。
彼の胸そこに持たせた呪符が、ジリジリとその効力を発揮していた。


目を閉じて、疲れたように息を吐く彼。そのサングラスには、ゲーム画面が映りこんでいる。
僕は想定外の流れに迷った末、口を開いた。

このゲーム、2コインでクリアするもんじゃないよ」

ゲームクリアを称える文字が、デカデカと表示されていた。



 彼がペンや箸を右で使っているのは確認していた。彼が元々の身分を明かしたときと、彼の家を訪ねたときに。
それなのに僕がわざわざ、彼の利き腕を尋ねたわけ。

それは、彼は具現化した銃を、左手で使っていたから。

無意識なのかとも思った。だけど彼は「俺は基本右しか使ってねぇし」と答えた。
そしてその前に、「俺がどっちかっていう質問には答えられねぇ」とも話している。正しく言うなら、『答えたくない』ことだった。

最初に右手を使っていたのは彼にとって左手でそれを握るのは、避けたいことだったから。
そしてそれは、彼が呪法を使っているのを見ている僕にさえ、それでなお、できれば見せたくない姿なのかもしれなかった。
どうして彼が自分のこと、呪法のことをそう言うのかはわからない。そこまで踏み込むのは、今の彼と僕では憚られた。

嘘をつけないタイプだと思っていたが中々どうして、誤魔化すのは上手なようだった。自分を隠すのも。



 ゲームセンターを出て、また別の場所に向かう道すがら。

「あのゲームさー、初見殺しポイントがあって。さすがにそれを一発クリアするとは思ってなかったんだけど」

どこだ?」

「え、それマジ?」

心当たりがないです。って顔をする彼に、僕は少し引いた。
呪いに成りかけのせいで、驚くとかそういう情緒まで削れてるんじゃないよね?