戌丸アット
2024-05-15 20:56:14
50816文字
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きっとお前は

🔞ナギカン。嘘予告の世界観。オメガバース。



「は?本気で言ってるのか、ソイツらは!」
「さぁ?しかし向こうも承諾したんだから良かったんだろう」
「良い訳あるか!俺は辻斬りナギリだぞ!?」
「でも決まったものを変える事はなんであれ難しいものだぞ?ギリギリ君」
「なっ……ま、まさか!前に何か言ってた事はコレか、クソ砂!?」

そんなに怒るなら私に任せるべきじゃなかったねー!とドラルクは笑って血の香りがする紅茶を優雅に飲む。
そんなドラルクに苛立ちを覚えて、確認する羽目になった書類の束をナギリは机に叩きつけた。
ドラルクが勝ち取ってきたものは、ナギリの保護を兼ねた監視生活だ。
人から吸血鬼になってしまった者はダンピールから吸血鬼になった者も含めると意外と多い。
曰くそこに便乗してナギリの辻斬り行為に対して一部には同情の余地もあり、更生する機会を貰いたいと言葉巧みに勝ち取ったらしいのだ。
ドラルク曰くなにか償いをするにしろ好きなことをするにしろ、今は少しでも自由が必要だと思ってのことだそうだ。
ただナギリからすると監視やら更生やらは別にどうでも良かった。
人から散々どうでもいい事を押し付けられるのは今も昔も変わらない。
何も無いから辻斬りなんて行為に手を染めたのだ。
今更、ほかの誰かに指図されてもナギリは気にしなかった。
寧ろナギリがキレた理由は別にある。

「番だからねぇ、あと監視の担当が彼じゃないのは私も何も言えん。向こうの都合もあるだろうし」
「黙れ!問題はそこじゃない事は分かってるだろう!」
「まぁまぁ!番の名前はカンタロウ君だっけ?良いじゃないか、一緒に住むなんて意外と許可出ない事も多そうだ」
「ふざけるな!一緒に住むならせいぜい監視の担当だろ、普通は!」

番の人が寧ろ監視の担当は難しいのでは?とドラルクは顎に手を当てて考える素振りを見せながら笑う。
その姿すら今は忌々しい。
そんな事はナギリからすれば勘弁して欲しかった。
いくら番だからといって被害者と加害者に対して共同生活の許可を出すなんておかしい、とナギリですら分かることだ。
ましてやカンタロウが理性的なまま共に暮らせるほどナギリを許しているなんて、ナギリには思えなかった。
そんな生易しい殺意を向けられてはいなかったし、ナギリも生半可な気持ちで刃で拳で殺意に答えてはいなかったのだ。

「俺とアイツは、そんなんじゃない!あ、あれは利害の一致、とかそんなので!」
「とか言って〜君、未だに番の契約を破棄してないんでしょ?まぁ、気持ちは分かるよウンウン」
「うるさい!知ったような口をっ!」
「分かるさ、私にだって誰にも譲りたくないものなんて沢山ある」

何処か重苦しいドラルクの言葉にハッとして、ナギリはいつの間にか下がっていた顔を上げた。
しかしドラルクは居らず、キッチンに行っていたのだろう。
ほんのり熱を帯びたクッキーの積まれた皿を持ってきている最中だった。
どういう事だ、嫌な予感がする。

「おい、お前なんで今更、菓子なんて出してっ!?」
「失礼します。こちらがロナルド吸血鬼退じ……何故ここに辻斬りが!?」
「わっぷ!おい、カンタロウ急に止まるな……ってコラ!なんでパイルバンカーを構えようとしてるんだ!?やめろ!!!」
「あぅっ!も、申し訳ありません、ヒナイチ副隊長!」

もうするなよ!と入り口の方からカンタロウを叱る可愛らしくも力強い声を聞きながらナギリは焦っていた。
まさか告げられた通告の紙を受けて、早々に番であるカンタロウと監視員であるヒナイチと対面するなんて聞いていなかったからだ。
否、すぐにわざと教えられていなかったのだと気付いた。

「ご明察〜っスナァ!」
「わぁっ!?大丈夫か、ドラルク!元の姿に戻ってから死にやすくなってないか!?」
「わざと俺を呼びやがったな!?もう許さんぞ、クソ砂!ぬっぉあ!?」
「おい、辻斬り暴れるな!ヒナイチ副隊長からの監視説明を大人しく聞け!」

ググっと肩を後ろから押されて苛立ちが収まらなかったが、ナギリは大人しく腰を下ろす羽目になった。
納得できなかったが文句を言うには知らないことが多すぎる。
笑いながら身体を再生させるドラルクは説明する気などないだろう。
ならば嫌でも話は聞かねば文句の一つも言いにくい。

「コホンッ!では早速、説明に入るが……ロナルドは?」
「下等吸血鬼の退治だよ。場所の提供については許可してもらった書類は既に作ってるから後で渡そう」
「そうか、ありがとう!何かと記録を残す為に書類が必要でな……早速だが、ナギリ」
……なんだ」
「お前用の書類は確認しているな?ロナルド吸血鬼退治事務所からの推薦と言う形もあってお前には番との同居が認められている。ただお前には報告義務が」
「え!?ちょ、ちょっと待って下さい!ヒナイチ副隊長!ど、同居?本官、聞いてないであります!」
……は?」

後ろから「今日は副隊長の補佐ではないのでありますか!?」とナギリの背後から驚きの声をあげているカンタロウに思わず振り向く。
まさかカンタロウが知らなかったとは思わず、ナギリがヒナイチとドラルクの方を向き直るとドラルクは笑いを堪えており、ヒナイチは困惑していた。

「すまない、カンタロウ。これはお前の監視も兼ねている」
「本官の?何かを違反した身に覚えは無いのですが……
「だってお前ヒートのせいで署内でさえ倒れたじゃないか。無茶はよせ、それに番と共に居た方が良いと推薦状にも書かれていたぞ!」
「はぁ!?おい、クソ砂!推薦状に何を書いた!」
「えぇ〜?ナギリ君まで怒鳴らなくてもいいじゃないか!それに推薦した理由はどちらかというと君の番くんの為だ、その子を死なせたくはないだろ?」

オメガの異常は番のアルファが側に居てあげるのが一番の特効薬なんだから、と話しながらドラルクは人向けの紅茶セットを手際良く準備していく。
しかし、そんなものを飲める雰囲気などではない。
書類でも確認はしていたが、まさかここに来てカンタロウと番である事に頭を悩ませる羽目になるとは思ってもみなかったからだ。
何より隣に座り直したカンタロウが渡された書類をパラパラとかなりの速度でめくる顔つきはどんどんページが進むと険しくなっていき、かなり怖い。
めくる度に険しくなっていった顔は最後にもう一度、読み直しが終ってようやく困り眉に落ち着いた。
ずっと見ていた訳ではなかったが、ナギリは隣から見つめられたので嫌でも分かる。
コイツも罠に嵌められたのだ、と。

「つ、辻斬り、今すぐ番の契約を破棄しろ!」
「なっ!?何言ってるんだ、カンタロウ!そんなことすればお前に何が起こるかっ!」
「副隊長、すいません……おい、辻斬り!お前だって分かってるだろう!俺と共に住むなんて笑いにもならない!」
……断る。お前に従う義理はない」
「そうだろ、契約を破棄に……なんだと!?」

ヒナイチが何か言いかけていたのを遮るように話すカンタロウに違和感を覚えたナギリは即座に断った。
お前、また自分の仲間にすら何か隠し事をしたんだろう?下手な誤魔化し方をしたな、と傷の男を睨む。
いつものしかめっ面な筈のカンタロウの瞳は何処か動揺したように瞳を揺らしており、ナギリは己の違和感に確信を持った。
カンタロウは恐らく、この場に居る誰にも話していない事がある。

「良かったナギリ、お前が断言してくれて私も少し安心した」
「ふん、貴様が安心したなんぞ知るか」
……お前たちがどんな風に番になったか分からないが番を破棄されたオメガは苦労するなんてもんじゃないんだ。身体への影響は勿論だが気持ちへの影響があるらしく私も傷付いて参って追い詰められたオメガを見てきたから分かる」
「副隊長!本官は番の解除くらいで落ち込んだりしません!番を解除しても問題なんて」
「騒音君、君ちょっと番の契約を甘く見過ぎじゃない?アレは我々、吸血鬼ですら翻弄される厄介な契りだよ」

フゥーと新しく淹れたらしい吸血鬼向けの紅茶を飲むドラルクに冷めた瞳で見つめられたカンタロウは驚きからなのか、固まってしまった。
そんな固まるカンタロウを見て、ドラルクはコップを置くと何やら自らの側にあった書類を取り出す。
枚数は少なかったがドラルクの表情は無く、カンタロウは頭の片隅で書類は見ない方が良いと強く思ってしまった。
ナギリの方も嫌な予感はまだ収まっていない。

「君のまじない、やっぱりヒートを無理矢理に抑えるものだった。御真祖様やお父様たち曰く本来の使い方は自分が狙っている獲物が成長するまで待ってから番の契約をする為に施す輩の術だそうだ」
「成長するまで?どういう事だ?」
「この場ではあまり具体的には言いたくないね……マイルドに言うなら、お気に入りを誰かに取られない印代わりとか、かな?どんな理由にしろ悪趣味、極まりない話だがね」
「そ、そんな!?本官はそんなもの付けられた覚えは無い!っあ……でありますっ!」

チラッとヒナイチを見た後、ドラルクは少し間を開けて考えながら話す素振りを見せた。
ヒナイチの前では言いにくい目的があると察したナギリは、より眉間にシワを寄せた。
成長するまでヒートが来ない。
つまり対象は子供、もしくは大人であろうと時間をかけて確実にオメガに転換させたり自分の好みに作り変えるといった人を完全に捕虜、オメガとして養殖するのが目的ではないのか?と予想した。
でなければヒートを抑える、と一言で気軽に言っているが見返りが無ければ、あまりにも手が込みすぎているまじないであった。
しかし当のカンタロウには余裕が無いのか、ドラルクに食ってかかる。
それでもドラルクは動じずに言葉を続けた。

「うーん、だとすると推測でしかないけど多分ギリギリ君の血の刃に斬られたせいとか?」
「なっ!?お、俺か!?俺はそんな小賢しい真似せんぞ!」
「あ、ごめんごめん!私も君がしたとは思ってないよ!?そんな目で見ないでくれる!?」

ドラルクは、あくまでも全て憶測に近いから!と言って数枚の書類を取り出して3人に見せた。
ナギリは人から吸血鬼へと変化したタイプの吸血鬼なわけだが、その大元となる吸血鬼が仕込んでいたまじないだったのではないか?とドラルクは考えたのだ。
まじないの発動条件は、血の刃によってオメガへと変化した獲物に対してのみ。
発動条件があると思った根拠はカンタロウだ。
ナギリが斬ってきた他の被害者たちとカンタロウを比べた際に一つだけ違っていた点が、被害者の中で唯一オメガへの性別変化した事だ。
カンタロウだけが他の被害者とは違い、オメガへと変異してカンタロウのみがまじないをその身に受けていた。
これは偶然ではないだろう。

「ベータ性をオメガにするなんて私も噂でしか聞いたことがないし憶測ばかりになってしまうが……少なくともまじないは確実に施されていた。まじないの内容がヒートを抑えようとしていた事もかなり問題があるよ」
「確かに、ヒートやラットは色々と大変ではあるが無理に抵抗すると健康を害して倒れてしまうそうだし……今後もちゃんと病院へ行くんだぞ?カンタロウ」
……報告義務があるなら従いますが何も同居しなくても」

心配そうな可愛い上司にカンタロウも流石に強くは言えないのだろう。
眉を潜めて、それでも頑なに同居に頷こうとはしなかった。
カンタロウはナギリとの決着を番の契りによって勝負が有耶無耶になりかねない状況にしたくはなかったのだ。
しかしドラルクは明るい声色ではあるものの、バッサリとカンタロウの言葉を切り捨てた。

「え、ダメダメ!オメガのヒートは番のフェロモン無いとキツイからね?ましてや君たちお互いの発情期まともにケアして来なかったでしょ?」
「ま、まぁ……そうでありますが」
「はぁ……良い機会だから言わせてもらうけど!以前、警察署でカンタロウ君が倒れた時だって体調が落ち着いたのはナギリ君が運んでマントを与えたからだと分かっているのかね!?君たち!」

え、とコレにはカンタロウやナギリだけでなくヒナイチも目を見開いてキョトンとした顔になり、ドラルクは思わず額に手を当てて途方に暮れた。
ドラルク曰くアルファとオメガは互いにフェロモンの影響を強く受けやすい。
なので薬で誤魔化すことも可能であり、体調や身体の異変にも直結している。
しかし薬は所詮、薬だ。
服用を続けていけば悪影響は必ず出てくるし、仮に無くとも効力は薄くなるだろう。
しかし番は違う。
番とは身体が受け入れている、いわば天然のフェロモン剤だ。
ならば自然と対策をする一番の方法は、番のフェロモンを適度に摂取する事で体調を安定させる、と言うのがアルファだろうとオメガだろうと同じことだというのがドラルクの意見だった。

「確かに発情期であるラットやヒートは面倒なところもあるが同時に身体の正常さの表れだ。それに抗おうとする方法は私はオススメ出来ない、それと拡声器君」
「は、はい!本官でありますか!?」
「君、ヒートが怖いのかい?ヒートを抑えようと無理をしているんじゃないのかね、その目の隈はちょっと異常だよ」
「は……なんで」

なんで言ってしまうのでありますか?と呟いたのを隣に座っていたナギリは確かに聞こえた。
その瞬間ナギリは咄嗟にカンタロウを抱き寄せた。
カンタロウが暴れたり、逃さない為にだ。
しかし案の定と言うべきだろう。
逃げはしなかったが何処から出したのか分からない小さな注射器をカンタロウは握り締めていた。

「ぐっ!この、離せ!辻斬り!」
「すまない、カンタロウ!」
「ぅぐ!ひ、ないち、ふくた、ぃ……
「コイツやはり何か隠してやがったっ!くそっ!おい、なんなんだ?この注射器は!」

動揺して手が震えたがナギリは気を失ったカンタロウを抱き留めると、カンタロウを気絶させたヒナイチを思わず睨む。
しかしヒナイチも頭を左右に振ると何処か泣きそうな瞳でドラルクを見つめた。
まさかカンタロウが、ここまで無理をしていると思っていなかったのだろう。
そんな二人を見てドラルクはナギリが抱き寄せたままのカンタロウに近寄って顔色を見た後は、ナギリが今にも割りそうな注射器を受け取ってじっくりと眺めた。

「見る限り一般的なオメガ用のヒート抑制剤だが……注射器は濃度がマズそうだね。いつでも打てるようにしていたみたいだし使用していれば体調にも多大な影響がありそうだ……早々に医師に看てもらおう!」
「は、はぁ!?おい、ならもうコイツは……
「落ち着きたまえ!使うことは阻止できたろう?ただ君たちには、しっかりと向き合うべき時が来た、と言うことだ」
「お、俺は!向き合うと言ったって……何も、知らなくて……
「待った!私も君の相談に乗るが番との関係は一生ものだ。それは吸血鬼も変わらない、だからこそ話し合うなら先に君たちだ」

どうしても答えが見つからない時に来なさい、私も皆も誰だって話を聞くから!と肩を叩かれて自分の身体が強ばっている事に気付いて、ナギリは途方に暮れた。
カンタロウは、その間もスウスウと音を立てて眠るばかりで起きる気配は無い。
そんな様子がよりカンタロウが無理をしてきた事を際立たせ、その実感はナギリにカンタロウを支え抱き締めることを躊躇わない後押しとなった。
書類をまとめてファイリングする事も。
すぐに用意した部屋へとヒナイチに案内される間も。
結局ナギリがカンタロウを運んで離す事はなかった。
それなのにカンタロウはその日、目を覚ます事はなく。
ヒナイチは、そんな二人を見て吸血鬼対策課の制服の裾を強く握り締め。
それでも二人に何も声をかけることの出来ないまま、その日は終わってしまったのだった。