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戌丸アット
2024-05-15 20:56:14
50816文字
Public
94
きっとお前は
🔞ナギカン。嘘予告の世界観。オメガバース。
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「あれから大丈夫ですか?番になってても相手が側に居ないヒートは大変らしいですけど、アンタすぐ隠すでしょ」
なんとかなりましたか?と尋ねながら書類を渡してくるサギョウに、カンタロウは怪訝そうな顔で顔を横に振る。
「なんと言えば良いか分からないのでありますが、しいて言えば
…
」
「しいて言えば
……
え、なんですか?大丈夫なんですか?体調とか」
「うーん
……
落ち着かない、でしょうか」
「アンタそんなに仕事人間じゃないでしょ!?」
ちゃんと休めって言われたじゃないですか!今の仕事は本来なら休むことですからね!?と困惑した様子で狙撃銃の入ったケースを背負い直したサギョウに対して慌てて誤魔化して見送る。
どうやらデスクワークする事もサギョウとしては眉を潜める事らしいがカンタロウからすると仕方ないではないか、と言いたい。
落ち着かないのだ、本当に。
なんとか謹慎に近い初のヒート期間を終えたものの出動許可が貰えていない為、見送るしかないなんて。あまりにも自分の有様が情けない、とカンタロウは思ってしまっていた。
カンタロウが他のオメガよりも少し長めのヒート期間で苦労していた頃。
あんなにも闇に包まれていた世界が嘘のように月は上り、世界は太陽を再び受け入れたのだ。
何があったのか詳しく知る者は少ないそうだが、風の噂で退治人ロナルドが吸血鬼ドラルクと共闘の末に成し遂げたのだとは聞いた。
まさに歴史に残る偉業だ。
世の中も後押しするように吸血鬼たちによる被害はあるものの世界は存外、残酷ではなかった。
意外にも吸血鬼と共に歩もうとする人々の声が日々少しずつ力強く増えてきているそうなのだ。
その追い風を受け、吸対もまた新しい仕組みになろうとしている。
現にカンタロウが所属している吸対を含めた署内どころか世界の英雄である退治人ロナルドを含めた退治人ギルドたちも、どうにかこうにか吸血鬼を受け入れる方向で活動しつつあり、てんてこ舞いと聞く。
だから忙しい時期にヒートで輪を乱してしまうオメガは厄介だ。
勿論カンタロウの周りの人たちは、そんな事は言わなかったが世の中のリアクションは明らかだった。
特にヒートが終わりたてのオメガは下等吸血鬼との戦闘に出るのは危険だった。
カンタロウもまだ出るな、と吸対のメンバーたちに心配されて流石に素直に頷いた。
足手まといになるくらいなら別の仕事に専念するまでである。
ましてや吸対であろうとデスクワークは多い。
つまり戦闘に出なくても、人手は幾らでも欲しい状況なのは分かっていた。
だからこそカンタロウも、せめて力になれたらとデスクワークをしているのだが。
それでもカンタロウは辻斬りナギリを片時も忘れたことはなかった。
「
……
はぁ」
カチリ、カチリと未だに慣れないマウス操作ばかりで身体の筋肉が凝っているのが分かる。
肩を回して温かいお茶でも飲もうか、と腰を上げたカンタロウは自分の視界が急に変わった事に驚いた。
一度、経験があったので覚えはある。
しかし、さっき普通に、椅子から立ち上がって、湯呑み、を。
取ろうとしたけど、こんなに腹が、あついのに?おちゃなんて、のんでいられない。
「ぁ、ぐっ!?なん、で、腹がっ!ぅ、ぁ、ま、まって、くれっ!」
誰に何かを言った訳ではない。
でも待ってほしい、と思わず口にしていた。
だって仕方ないではないか。
ヒートは二週間と言う長期的な謹慎でしかない期間を休んだお陰で、落ち着いたのは一週間前なのだ。
流石に子を産むことに特化しているオメガの発情期と言えど、早すぎる事態だった。
本来のオメガのヒートは、一週間の間は強いフェロモンを出してアルファを誘惑して発情し、次のヒートは早くても三ヶ月以上四ヶ月未満が基本的なサイクルとなっている。
だというのにカンタロウは自分の腹がキュウキュウと体調不良ではなく、自分のアルファを求めて切なく身体を熱くさせ、股の間から愛液をこぼそうとしている現実に頭が痛くなった。
仕事どころではない、署内にも迷惑をかける。
いや、違う。
そんなものはヒートを嫌がる自分への言い訳だ。
ナギリとの番が解消された感覚が無いとはいえ、その愛しくて止まないと本能が求める男が自分に手を差し出すなんて事は無いと知っている。
こんなにやるせないと思う事自体、本当は捨て去るべきなのに。
どうしたって許せない癖に、どうしたってあの男が恋しいと痛みが言うのだ。
ふざけるな、俺の意思を無視しないでくれ。
そんな苦々しい気持ちで腹を抱えていた時、存在しない筈の男に声をかけられた。
「おいっ!なんでお前ヒートになってるんだ!?」
「
……
え?なん、で
…
辻斬り、が
…
署内にっ?」
「それは
……
いや、うるさい!説明よりお前のそれはヒートか!?」
「はぁ!?ちょ、おい!まて、うわぁあっ!!?な、何するんだ!も、持ち上げたのか、俺を!?」
「お前くらい持ち上げられるに決まってるだろ!それより騒ぐな、やかましい!」
また自分の身体は膝から崩れ落ちると思っていたカンタロウは、アッサリと掴まれた手首に驚く間もなくナギリに横抱きにされると当然のように署内を歩くナギリに目を白黒させる。
どうして侵入を知らせるベルが鳴らないのだろうか。
誰も気付けていないのか?と思いもしたが、すれ違った他の隊員は殆どの人間が、カンタロウの様子を見ると医務室はアッチです!と場所を教えてくる有様だった。
アッチです、じゃない!辻斬りナギリだと知らないのか?そんな訳が無い。
だって散々俺が追いかけ回していた吸血鬼だと皆、知ってるじゃないか。
あぁ、けどダメだ。横抱きにされた時に抵抗しなかった時点で自分がナギリを受け入れていると、カンタロウ自身には分かってしまった。
自分の手を取った彼に「嬉しい」と思ったことをカンタロウは自覚してしまった。
「おい、意識を飛ばすな!もうすぐ着くぞ!」
「ぅ、ぁ?どこ、に?」
「医務室だったか!?あー
…
とにかくヒートに対応出来るって他の吸対の奴らや砂も言ってたぞ!」
「ひーと、に
……
え、すな?」
なんだか悔しい。
自分にヒートが出ているのに、どうしてアルファであるナギリは平気なのだろうか。
そもそも、どうして署内に?いや、本当に気になるのは。
どうしてナギリは自分と番を解消していないのだろうか、だった。
もちろん明確な根拠はなかったが、少なくともカンタロウの脳みそはハッキリと「ナギリは自分の番である」と認識していて、更には身体の熱さはまた一つ不自然に熱を持った。
だからと言ってカンタロウは結局ナギリに番について聞く余裕などない。
運ばれる事なんて気にするどころか、自分の肌で感じる低めの体温が今のカンタロウにはあまりにも心地良かった。
その間にナギリが医務室へと到着すると、入口のあたりで吸血鬼ドラルクが二人を出迎えた。
やはり自分が知らぬ間に何かあったのだろう、と言う事だけがカンタロウには漠然と理解できた事だった。
「何処に行ってたんだね、ナギリ君!?此処は吸対なんだから流石に勝手に動き回るのはヒナイチ君が困る
……
って、その子どうしたの!?」
「おい、砂!触るな、殺す!」
「ちょっ、まっ!はやい速い!分かったから落ち着いッスナァ!ちょっと私を砂にしないでくれる!?とりあえず彼を部屋の中へ!」
しかし君よく署内に居るのに運んできたね。あのジョンが君を心配して探しに行っちゃったんだぞ?といったナギリと親しく話す声が聞こえたが、カンタロウには話の内容が入ってこない。
ただアルファとしてかなり強い存在である事、そして噂のドラルク本人であると熱でぼんやりとしているカンタロウにも分かった。
だからといって署内に居る理由が分かった訳じゃない。
英雄であろうとドラルクも吸血鬼だ。
ナギリに予想外にも慎重にベッドへと降ろされたカンタロウは戸惑いばかりだったが聞かねばならない、となんとか理性を奮い立たせる。
「吸血鬼、どらるく
…
さん?何故ここに?」
「おや?こんにちは。凄いな、随分とヒートの症状が重いと思ったが誰が誰なのか分かるんだね
……
ねぇ、ナギリ君。この子は大丈夫かい?」
「は?何の話だ、聞きたいのは俺の方だ!」
「ふむ、このまじないは君じゃないのか。でも私の思い違いじゃなければ、この子って無理矢理ヒートを抑えてるんじゃないの?」
「おさえる?おれ、まともなヒートなんて、今日で二回目で
……
よく、わかりません」
「二回目!?
……
ふむ、まじない自体は一応、解けてるけど明らかにこの様子はまじないの痕跡だろう
……
ちょっと主治医さんとか呼ぶ?」
そう言うとドラルクは自分の目を指差しながら、カンタロウの瞳の中に存在するまじないが解かれた後があると教えてくれた。
医者は、そんな大切なことは言っていなかった
…
とカンタロウが思い返していたら口に出していたのだろう。
ナギリは眉間を寄せて何故か、どんどんと不機嫌になっていく。
ただそんなナギリを気にすることも無くドラルクは、そのお医者さんが吸血鬼じゃないのなら仕方ないかも、と言って考える素振りを見せた。
「ヒートを抑えるまじないなんて古き吸血鬼の中でも少数の者達くらいしか使えないと思うよ。私もそういうものがあるとしか聞いたこと無いし
……
いや、それより今は巣作りを優先しよう。多分少しは楽になる筈だろう?」
「
……
すづくり、でありますか?」
「なんだそれは」
「えぇ!?ちょっと君たち本当に番なの!!?」
もう本当に信じらんない!!!と何故かギャルのような口ぶりで憤りから死んで砂になって再生したドラルクを見つめても、ナギリもカンタロウも困惑しつつもピンと来なかった。
するとドラルクは「とりあえずナギリ君は今、着てるマントを脱いで彼に被せてるんだ!!!」と困惑しているナギリにカンタロウにマントを渡すことを促す。
あまりの気迫にナギリは慌てて従い、カンタロウも困惑した表情で受け取って羽織った瞬間ベッドに倒れたことも気にせずに即座にマントに包まって丸くなった。
落ち着く、あまりにも落ち着く。
もうずっとコレを待っていたんじゃないかと思えるほどカンタロウは目を閉じて羽織ったマントに夢中になった。
ドラルクとナギリの存在など忘れてしまう程には。
「お、おい!なんか警官が丸くなったぞ!?どうなってるんだ、これは」
「古い対処法だけど彼には効果覿面だったらしいね。抑制剤より発散させるのが一番の特効薬かもしれないが此処は医務室だし今ベストな対処だったんじゃないかな」
少しは眠れるんじゃない?と溶けるように落ちる意識の中で最後にカンタロウが聞こえたのは、ここまでだ。
スゥスゥと静かに寝息を立て始めたカンタロウにナギリは驚きつつも、ソッと顔にかかるフードをずらして寝顔を確認した後は出入り口で待つドラルクを追いかける。
まだ本来の目的は終わっていなかった。
「ジョンのお墨付きのヒート耐性があるとはいえ、流石の君でも番の子相手のヒートは堪えているんじゃないかい?」
「ふん、貴様には関係な
……
あ!?なんで番だと知っるんだ、お前!」
「スナァッ!だから怒るの速いよ!全く
……
私には彼のフェロモンが分かりにくいのに君の気配はした。それに君、私が誰かに触れただけで怒るなんて珍しいリアクションしてたし君の番である可能性はあるでしょ?」
あとは鎌を掛けただけなんだけど私ってば名推理じゃない?と呟いてウインクを飛ばしてくるので再び拳を放つ。
即座に砂になるが即座に復活してくるドラルクに眉を潜めて、頭を抱える。
このドラルクの策のせいで分霊体を失った事実を思い出し、ナギリは苛立ちに振り回されている自覚はあった。
「う、ぐっ
……
だーっ!!!煩い!大体アイツもおかしいだろうが!なんであんな風になるまで仕事なんかしてたんだ、くそっ!」
「ヒートに慣れてない様子も気になるし
……
ふむ、住むところの交渉、少し変えてみようか」
「な、なに?そんなことして退治人と鎧が騒いで見ろ、俺はもう面倒はゴメンだぞ!」
「若造の方は放っておけ。ジョンはきっと説明すれば分かってくれるさ!きっと、多分!」
おい、お前のそれは大丈夫じゃない時の奴だぞ?とナギリは視線を送ったが、当の本人はヘタクソな鼻歌を歌ってスマホをタップすると即座に電話口から怒鳴り声が数秒も立たないうちに響く。
だがドラルクが「医務室に居るよ。ナギリくんが自分の番を医務室に運んでいて交渉内容は別のものを思いついた」とドラルクが伝えると声の主であるロナルドは納得したらしい。
「すぐに合流するから、もう動くなよ!」と叫んで、隣に居たナギリですらスピーカー無しで聞き取れるほど怒りに満ちていたので恐らくドラルクは合流して即座に砂になるだろう。
ドラルク本人は「ジョンがロナルド君と来るってさ!」と呑気にスマホを片付けている。
相変わらずお人好しな連中だと三人に当時、見逃されただけでなく、今もドラルクと共に行動していたが今後もナギリは慣れそうにないと痛感していた。
そんなことを考えていると本当にすぐさま汗だくで合流してきたロナルドとジョンに複雑な気持ちになる。
ナギリに向けてくる視線に親愛の情ゆえの心配がジョンだけでなくロナルドからも見て取れたのだ。
むず痒さからナギリは再び足早に医務室に居るであろうカンタロウの元へと足を向ける。
ドラルクの考えている交渉内容がなんなのか、などナギリには興味がない。
部屋に入ると丸くなって眠るカンタロウは静かで違和感があったが、ロナルド達の元に居るよりはマシだった。
そして思う。
カンタロウの一生に関わる、辻斬り事件と番の相手になってしまった事実はジョンを中心とした様々な出会いで分かったことが沢山あった。
考えれば考えるほど、どうしても責任を感じるのだ。
しかしナギリが次に強烈に覚えているのは理由の分からない満足感だ。
ただただ「嬉しい」「満たされた」「手に入れた」と言う訳の分からない気持ちを番になった当時、番の契約のせいで気絶したカンタロウを見て感じたのをナギリは忘れられずにいる。
率直に言って、その感情はあまりにも身勝手で気味が悪かった。
何処から湧いたんだ、と思わずにはいられない。
と同時にナギリは絶対に自分はカンタロウと再び遭遇してはならないと判断した。
妙なことばかり浮かぶ思考では血の刃をコントロールしにくくなる可能性がある、そんな自分になる原因はカンタロウにあると思ったのだ。
なのに何故かカンタロウが自分の目の前で下等吸血鬼と戦っている時は焦った。
あの時、本当はカンタロウなんて無視すれば良かった。
でもどうしてもカンタロウから香る甘い匂いを他の誰かに譲ったり、他のやつが触れるかもしれないと思うと腸が煮えくり返って仕方がなくなっていた。
お前は俺のものなんじゃないのか、と過ぎったのだ。
のちにドラルクから「やば、それはアルファとして、というより君の執着心だと思うよ」と指摘されて頭を抱えた。
適当を言うな、クソ砂!と拳を振ったが、それは今は別の話だ。
ナギリがそもそも吸血鬼対策課に居るのはロナルドやドラルク達と共に吸血鬼対策課で新しい制度の一つとして作られた吸血鬼としての住民登録に近い書類を済ませなければならなかった為。
それなのに一人フラフラとドラルクが居なくなってしまったせいでロナルドたちと分担してドラルクを探す羽目になって、そんな時に署内に居たカンタロウを偶然、見つけたのだ。
ただナギリが署内を歩けたのは未だ罪人か、一般の吸血鬼なのかの判断は下りていないお陰でもあった。
まず住民として名前などの登録が必要なのだそうだ。
発展途上なルールだろうと全く何も存在すら保証されていない吸血鬼をまともに裁くなど不可能に近い。
しかし、そんな事情などナギリからすれば分からない事が増えただけだ。
ただもし罪を問われるならば知らない誰かに指摘されるより、カンタロウに罪を問われる事のほうが何故か満足できる気がした。
まだあの日の決着は付いていない。
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