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mishiadd
2024-05-14 18:43:07
12769文字
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ただでさえ生まれる時代を間違えてたのに更に間違えてて草
可惜夜を迎えずに盈月の儀が終結後、カヤちゃんが立派にお嫁にいくのを見届けて伊織殿は入水。……と思ったら現代に転生しちゃってただでさえ生まれる時代間違えてたのに更に間違えてて全然笑えない転生パロ。令和の男子高校生の宮本伊織くんとその親友のなにも起こらない不穏な凪いだ日々。
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三、「おかいもの」
伊織の親友は金銭感覚がない。高校で伊織に出会うまでは一体どうやって生活していたのかわからないほど、金を持ち歩かないし値札を見ない。
伊織と共に出歩くときは
――
そしてだいたいの場合、親友が出歩くときは伊織も付き合わされる
――
親友の目についたものを、伊織が自分のバイト代から支払う。幸いにしてべらぼうに高価なものなどに興味を示されることはなかったので、今のところ破産せずには済んでいる。
にしても、まるで貴人のお忍び散策に付き合わされる執事かなにかのようだ。
「イオリ、あそこでソフトクリームを売っているな」
都内から足を延ばし、川崎駅周辺の商業施設群までやってきた。
――
もう少し足を延ばせば川崎大師まで行ける筈だが、今日は特に用事がない。今後、用事がある予定もない。
巨大なショッピングモールの中をあてもなくうろつきながら、それこそウィンドウショッピングをしている。女性向けの服屋や化粧品店が大半を占めている中で男子高校生が用のある店舗は限られていたが、そうではない方のわずかな電器屋や本屋や食品店でも充分楽しめた。特に、食品店などは。
「
――
さっき、フードコートでものすごい量の
炒飯
フライドライス
とオレンジチキンを食わなかったか?」
「うん? うむ、
さっき
な。今は今だ」
「そのあと、5枚重ねのパンケーキの上に五重塔みたいなホイップクリームが乗ったやつも食わなかったか
……
?」
「うむ。それも、
ついさっき
、な。今は今だ」
「俺はただ、少しだけおまえの健康のことが
――
いや、でもまだ若いからいいのか? そもそも、これは俺が言うべきことなのか?」
「健康のことを言うなら、きみは食べなさすぎだ。少食というわけでもないのに、すぐ食べるのを忘れるではないか」
「今日はおまえに付き合って充分食べて
――
って、いやいや、今はまぜっかえすな」
「とにかく、
あそこでソフトクリームを売っているな
、イオリ!」と、改めてセイバーが言う。
うーん、としばし悩むそぶりをしたあと、結局伊織は学生鞄から財布を取り出した。
「すみません、普通のミルク味のソフトクリームをひとつ」
「きみのもだ! きみと私のとでふたつだ」
「俺はもういいよ
……
」
「ダメだ! 私が見ている間にきみも食べられるだけ食べておけ」
「どういう理屈
――
すみません、ふたつでお願いします」
自分のバイト代で無理やり自分の分のソフトクリームも買わされるはめになり、釈然としないままワッフルコーンにたっぷりとぐろを巻いたミルク味を舐める。と、思いのほか濃厚で甘く、育ち盛りの味覚にはよく合った。
しばし気に入って熱心に舐めていると、同じようにソフトクリームを舐めながら「フフン」と自分を眺めているセイバーの顔に気付く。またしても可憐な顔が台無しになっている邪悪な笑みに、なぜそうなるのだろうと伊織は苦笑した。
「どうだ、やはりきみの分も買っておいてよかっただろう」
「そうだな」
まあ、それは事実だ。伊織は素直に認めた。とはいえ、と今日一日で随分軽くなった財布を思う。
「イオリ、きみのことはこうして定期的に私が外に連れ出して、ちゃんと食わせてやらなければなるまいな」
「恐らくだが、客観的に見ると食わせているのは俺の方で、食わせてもらっているのがおまえの方になる筈だ」
「そうなのか?」
「
……
今日一日で出費が激しかったからな。悪いが、しばらくはおまえの食道楽には付き合ってやれん」
これもまた、嫌味でもなんでもなくただの事実だった。
セイバーにもそれは充分伝わったようで、「素寒貧なのか、イオリ」と随分な物言いで急に心配そうな顔をする。
「一体誰のせいだと
――
まあ、そうだ」
「相変わらずだな、イオリ。まあ、ないものは仕方あるまいよ。また日雇い稼業でもして稼ぐといい」
「なんの話だ、バイト先は一応それなりに定まってはいるよ。
……
それにしても、金銭感覚はないのに金を稼ぐ感覚はあるのか」
「『金銭感覚がない』とは随分な言い草だ。ないわけないだろう」
いかにも心外とばかりに胸を張り、セイバーが言った。
「最初に『円』なんてものができたときは滅多にそこらで見掛けなかったのに、いつの間にか物を買うには全部『円』でという話になってしまったのだ。
それも、そもそもは1円あれば買えないものなどなかったというのに、気付けば米を一袋買うのに5千円などと言っている。おまけにその『5千円』は金貨でもなんでもなくただの紙切れだ。意味不明だが、それでも私はちゃんとついてきているぞ」
「なんの話をしているんだ
……
」
そういえば、と先日クラスメイトに聞いた話を思い出し、伊織がセイバーに言う。
「そういえばおまえ、この間の小テストでドイツの通貨を『マルク』って書いたらしいじゃないか。職員室で笑いが起こっていたと聞いたぞ」
「ぐぬう、ころころと名前を変える方が悪い」
「その前は確か
――
ロシアを『ソ連』と書いたんだったか」
「『ロシア帝国』はもう違う、と言われたから覚え直したのに!」
「ころころ名称を変えるな! 日ノ本はずっと日ノ本ではないか!」と喚き始めたセイバーを「はいはい」と宥める。
――
というか、一体どうすればそんな間違いができるのだ。骨董品のような地球儀で地理を勉強でもしているのだろうか。
「『1ドル』は360円の筈なのに、これももう違うと言われたぞ。それどころか、毎日ころころ変わるだなどと
……
いちいち覚えてなどいられるか」
「なんでそんな間違いをするんだ
……
その頃なんて、どう考えても俺もおまえも生まれていなかっただろう」
「宮本伊織」の記憶がある伊織ですら、そんな時代のことは知らない。伊織が知っているのはこの令和の時代と、かつて刹那のように「宮本伊織」が生きた江戸時代の、それも慶安のあたりのみだ。
この親友は以前から、急に古風な言い方をしたり、複数の時代をごっちゃにしたような発言をすることがある。まるで、
あまりに永く生き続けてしまった老人が
、
過去にあったことの時系列をごっちゃにして話すかのように
。
気付けばワッフルコーンの部分までぺろりと食べ終わってしまったらしいセイバーが、「次は団子が食べたい」と言い出したため、なけなしの財布の中身を覗き込む。はあ、と溜め息をついた。
「
……
おまえの分の一本だけなら、なんとか」
「一本を半分こにしよう、イオリ」
袖を引かれ、先を急ぐ。
――
帰りの電車賃くらいはICカードに入っていたよな、と頭の片隅で思いながら。
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