ななき
2024-05-11 16:09:08
8998文字
Public 吸死
 

お題企画「弊ドロこう言う」 まとめ

お題で作成したもののまとめ。
増えたら更新します。一部、投稿しなかったものを含みます。
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##履歴
2024/12/14 「全然好きじゃねえし」追加
2024/11/30 「その顔が見たかった」修正
2024/10/2 追加


「君のことだよ」(読ドロ)

 一仕事終えて、やっと時間を作ってやってきた吸血鬼の城で。
 いつも通り出迎えていつも通りティーセットを並べたくせに、聞いてよロナルド君、私、好きな人が出来たんだよ、と笑ったドラルクに、ロナルドは何も言えなかった。
 だっていくら絶賛片思い中とはいえ、ロナルドは今のところビジネス上の相棒でしかない。ドラルクがどこかで誰かに惹かれていても、文句は言えないと分かっていた。

 だから、好きな人が自分のために用意してくれたティーカップを見つめて、
「へえ、どんな人」
とだけ聞き返す。それで会話は進むだろうと予想しての苦し紛れだ。だが、ぱあっと顔を明るくして話しはじめた相棒に、すぐに深く後悔することになった。好きな人が語る、好きな人の話なんて、これっぽっちも面白くない。楽しそうであればあるほど、つまらない。当たり前だ。
 一目惚れだったとか、仕事中の横顔にみとれただとか、自分が守ってやりたいだとか、もう消えたくなってくる。

 それでも聞いてはいたのだが、ロナルドが生返事していたからか、いつのまにかドラルクが口を噤んでいる。
「おわり?」
 話を振ったくせに上の空だったのは悪かったけれど、いい奴じゃん頑張れよ、とは口に出来そうもなくて、それが精一杯だった。泣きそうで。
……誰とは聞いてくれないのかい」
 残念そうな声。尖った耳まで、しょんぼりと言いたげにへたれている。

 聞いて欲しかったのだろう。好きな人の名前を口にする、そのクセになるくすぐったさはロナルドも知っている。
でも聞きたくなかった。名前を知らないから、ただぼんやり悲しくて恨めしいだけの相手で済んでいるのだから。名前がついてしまったら、嫉妬が形をもってしまう。さらにはもし、退治対象になりうる高等吸血鬼だったりしたら。……退治人憲章と職業倫理のコメカミをまとめてぶち抜く最悪のゲス野郎にならない自信がなかった。

「あー、すげぇ男前で、警戒心の強い猫みたいで、仕事においてはプロフェッショナル」
「そう」
「たまの笑顔のギャップがかわいくて、時々子供っぽい」
「うん」
「んー……わりぃけど、知り合いじゃなさそうだし、」
 言わなくて良いぜ、と続くはずだった言葉は遮られた。
「君のことだよ」
 キミノコトダヨ。
「わあ、スペキャ顔っていうんだっけ、それ」
 かわいいねぇ、と笑う好きな人と、キミノコトダヨ。
「ロナルド君?」
 キミノコトダヨ……君の、ことだよ?
「ねぇ、私の見立てでは君も、ヘブッ」
 死んだ。ロナルドは何もしていない。身を乗り出したドラルクが、バランスを崩してテーブルに顔面から突っ込んだだけである。
 さらさらと寄り集まる塵の具合から四時間コースと見積もったロナルドは、……その場を逃げ出した。
 君のことだよ、を最低十通りに解釈して読み解く時間が欲しかったのだ。

「俺のことなの!?」
 結局一通りにしか読み解けなくて、半泣きで城に飛び込み、案外馬鹿だね君は、と笑う吸血鬼に抱きしめられるのは六時間後の日の出直前だ。