ななき
2024-05-11 16:09:08
8998文字
Public 吸死
 

お題企画「弊ドロこう言う」 まとめ

お題で作成したもののまとめ。
増えたら更新します。一部、投稿しなかったものを含みます。
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##履歴
2024/12/14 「全然好きじゃねえし」追加
2024/11/30 「その顔が見たかった」修正
2024/10/2 追加


「その顔が見たかった」2(読ドロ)

 その瞬間は、全てがスローモーションだった。

 背後には滝壺。ライヘンバッハの如き大瀑布。
 横に相棒、目の前にはS級吸血鬼。しくじってうっかり満身創痍の俺は銃を構えちゃいるが弾はゼロ。腹には穴が空いていて、そして今、足下から地面の感触が消えた。

 あ、終わった、と悟ってしまった。
 
 気分は浮遊感と妙な開放感で寧ろハイ。ハイなまま、スローモーションな視界の中で相棒を探す。一緒に落ちたらいくらあいつでも再生できまい。しくじったのは俺だけだ、無事でいてほしいのだが。
 最期に想うのが惚れた相手とは、案外ロマンチストだなロナルド様よ。もっと生汚いかと思ってたぜ。

 自分の見慣れたブーツの向こう、その惚れた相手が見えた。まだ人の形をしている。死んでいない。
 どんなツラをしてるか見たかった。泣きそうだろうか。興味なさげな無反応でもネタにはなるなとこの期に及んでも考える。

 どちらでも無かった。
 何か怒鳴っていた。瀑声で聞こえやしない。
 手を伸ばしていた。届くわけねぇだろバカ。
 目を見開いていた。夜の種族の赤い瞳が俺を捉えている。
 牙が露わだった。引きこもりのお坊ちゃんは影もない。本能、本性、そういったものが剥き出しだ。
 これは何度も見てきた。あれだ。高等吸血鬼が、執着の対象を失う時の。

 ――満足だ。
 本当は、そのツラが見たかったんだ。ああ、良かった。笑ってイける。

 そうして俺は真冬の滝壺に叩きつけられるために目を閉じた。
 最後に聞こえたのは、まことに残念なことに惚れた男の声ではなく、風切り音だった。

 ◆

 冷たい床の上、小一時間は正座させられている。非道ではないだろうか。病院帰りの怪我人で、腹など縫合したばかりだというのに。
「おい、足がもう痺れ、」
「反省した?」
「反省なんざ、」
 しねぇぞ、と言おうとしたが、膝の上、カボチャとツチノコがウルウルと泣きそうな目で見上げてくるので言葉を飲み込む。心配は、させた。
「滝壺と断崖をバックにピンチになるロナルド様は絵になるぜぇ!とか考えてただろう」
「いや、」「うん?」「……はい」
 相棒は相棒で、さっきからこの調子だ。雑魚のはずのくせに、謎の圧で反論が塞がれる。……やればできるじゃねぇか。
「今回ほんっとヤバかったんだからな!?私の変身が間に合ったことを心から畏怖しろよキミ!?そうそう見せるようなもんじゃないウチの一族の秘義なんだぞあれ!!畏怖したまえ畏怖!!」
「ハイ」
「声が小さい!」
「イフッシタァ!!」

 ドヘタクソになってた変身を一発で成功させるくらいに俺を捕まえたかったのかよ、という台詞の用意は、結局無駄になった。……聞いてみたかったんだがな。