なかなかどーしてややこしい

花宮真、黛千尋、黒子のバスケ、名探偵コナン、工藤新一

練習試合は組まなかったし、スポーツ自体を高校で辞めたし、最終学歴も高卒で打ち止め、職も住所も書けないわけだが、どうして今さら現れたのか、大卒まっしぐらの黛千尋は探し出してまで告げるのだ。「い——」「——今それどころじゃないですすみません」

主人公または周辺人物がいわゆる犯罪者になります。
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。


  六

 悪霊退治のつもりだったんだ。
 工藤の事務所の応接間で、黛は言った。だから狩りの準備は不足していたのだと。ただし、それは言い訳ではなく、凶器の説明に接続する。
 花宮がナイフを寄越した。ナイフなら黛も持っていた。首を落とせば、怪物は死ぬ。単純明快にして安価、そして非常に汎用性の高い狩りの手法だ。だが花宮は、そのナイフを押しつけて、刺すだけでよいと言ったのだ。
「心臓を?」
 工藤が尋ねた。黛はうなずく。
「刺した」
 東の大学生探偵の前で、続けて告白する。
「初めてだったよ。心臓刺すだけで絶命を確信できたのは」
 特別なナイフだった。いや呪具だったのだと、今はそのような確信を抱いている。
 工藤が苦笑した。黛は、不快には思わなかった。精神病院は、ハンターの進路としては珍しい場所ではない。ハンターが正気であればあるほど、ハンターは正気とは見なされないものだ。仮に狩りに関わった人間であっても、ハンターの言動が真実であるからこそ抱く不快感や困惑もある。だから、むしろ、おもしろい気持ちになった。
 花宮と工藤は、ずいぶんと長い付き合いらしい。両者共まだ大学生程度の年齢だから、長いといっても期間は知れている。とはいえ歳月などは問題ではない。問題は回数だ。狩りに関わった回数。それも情報提供程度の段階ではなく、もっと直接的に、実際的に。おそらく工藤は、吸血鬼の巣でわめいたとかいう狩りの後にも何度も、怪物と対面するかたちで狩りに関わっている。
 そういえば、学科のミステリ愛好家が、工藤について話していたっけ。二年前、当時高校二年の工藤新一に死亡説があったことを。
「黛さん?」
「大丈夫だ、問題ない」
「ならよかった。連日の狩りの後に、無理をしているんじゃないかと」
「まあ無理はしてるが」
 黛は言葉をしまった。
——そうですよね。すみません長々と」
「いや、話してるのはこっちだ。それに今回、俺は——ある意味では何もしてない」
 工藤は口を閉じた。
「妖術師の件は、俺が関わったときには全部調べがついてた。俺は悪霊退治のつもりだったんだ。心臓刺したナイフも花宮からの借り物だ。吸血鬼の件は、いわずもがな今吉が。
 もちろん俺は花宮を探したし近づいたし、狩りもした。なんだかんだ言ってハンターも怪物を殺せる人手が欲しいんだ。狩りにも数の有利は働く。何もしてないなんてことはない。とにかく俺は妖術師を殺した。吸血鬼殺しにも加担した。よくやった。
 けど、過剰だとも思う」
 過剰に事が進展したと、顧みれば顧みるほど、決して謙虚からでなく感じられる。
「花宮は今吉の妹のことを知っていた。俺たちが吸血鬼を殺した地区は、俺が花宮に会ったマジバから電車一本で数駅だった。そもそも花宮がマジバにいたのは何にしたって銀行員殺しを追っていたからで、その銀行員が殺された町は今吉の実家から近いといっていい」
 おかげで早々と花宮に会えた。狩りの最中ではあったけれど、事件を頼って探したのだ。その程度は想定の内だ。むしろ花宮の腕を知る機会ができたと前向きにとらえた。都合のよいことに、花宮の狩りは、終盤に差しかかってもいた。黛の想定を超えて遥かに順調だったとさえいえる。おかげで金曜夜に引き受けて、土曜日に合流して、日曜日には吸血鬼事件を解決できた。
 だが、うまくいったと、ただで喜ぶことはできなかった。
「べつに悪いとは言わん。うまくいくことはいいことだ。狩りならなおさら。うまくいけばいくほどいい。そして工藤、もちろん、おまえを責める気もない。ただ、ひとつ聞きたいんだが、おまえはあの銀行員殺しについて、花宮に何と聞かれて教えたんだ?」
 それだけ尋ねて黛は口を閉じた。
 工藤は、しばらく口を開かずにいたが、やがて小さく息を漏らした。
「お察しのとおりです」
 伝えて、一呼吸を置く。
 ある鉄道が、M市とY市を通っている。その沿線で事件はなかったかと、たしかに花宮は工藤に尋ねた。
「一か月ぶりに連絡してきたかと思えばそんなことだったんですが。怪しい事件はないって答えたら、なら、未解決事件はないかって。それならと、俺はいくつか教えました。先週の土曜日の朝のことです。黛さん。質問の答えです。たしかに花宮さんは、最初から気づいていました。今吉さんのご家族に起きたことを、花宮さんは何らかの形で知っていました」
 おそらくは、今吉の父親だろう。今吉と花宮は中学時代から互いに正体を知っていた。ハンターは家業になる。中学生のうちからハンターなら、その保護者がハンターであると予想することは、その逆を予想するよりよほどたやすい。当然、保護者同士も正体を知っていたはずだ。もしかすると今吉の父親は、今回の復帰に際して、花宮の保護者か当人の助言を得ていたかもしれない。これは完全に想像だが。
 ともかく、今吉翔一と花宮真の間で直接の交渉が行われたわけではないということだ。花宮真は、今吉翔一とは——彼の妹とも——一切の連絡を取っていない。黛は今吉翔一の父親とも花宮真とも関係がなかった。花宮が黛を待っていたことは、今吉の差し金ではない。それは、黛自身が待たれていたということにもならない。それが黛になったことは、単に結果に過ぎない。
 たぶん今吉と花宮は互いをよく知っていて、そのうえ腹の探り合いが好きな人種だ。今吉は復讐のために、彼に差し出せるもののなかから、ハンターの花宮が欲しがりそうなものを予測した。花宮も、彼に必要なもののなかから、今吉がかたき討ちのために差し出せるものを予測した。その結果だろう。
 ハンターのおともだち。
 これが黛についた商品名だ。ハンターは、いつだって怪物を殺せる人手を欲しがっている。
 まったく気に食わない。黛は心底から思う。まったく気に食わない。彼は交渉材料などに用いられたのだ。しかし困ったことに、たしかにハンターは、どいつもこいつも怪物を殺せる人手を欲しがっていた。特に同年代のハンターの知人というやつは、他の何かで代えられたとしても、まずまず貴重な存在であろうと、黛は考えている。
「まあ今後なんてものは二度とこないが」
「えっ」
「花宮にも言ってきた」
「言ってしまったんですか」
「おまえとは二度と組みたくないって」
「ええと、それで花宮さんは」
「ではそのように、だと」
「まあ花宮さんとどうなったからって、うちが振込を渋るようなことはありませんが」
 工藤が、ちょうどよいとでも思ったのか、そこで黛の前に書類を差し出す。
「そいつはよかった」
 黛は、にこりともしないで喜んだ。
 一方で工藤は、僅かに表情を曇らせる。
「俺も言ったことがあります。あなたとは二度と会いたくないって」
「へえ」
「相手の返事は、じゃあそういうことで、でした」
 工藤の顔色が悪くなる。
 それで、と、黛はそれでも続きを促した。
 工藤は黛の目を見て答えた。
「一週間後に再会しました」