なかなかどーしてややこしい

花宮真、黛千尋、黒子のバスケ、名探偵コナン、工藤新一

練習試合は組まなかったし、スポーツ自体を高校で辞めたし、最終学歴も高卒で打ち止め、職も住所も書けないわけだが、どうして今さら現れたのか、大卒まっしぐらの黛千尋は探し出してまで告げるのだ。「い——」「——今それどころじゃないですすみません」

主人公または周辺人物がいわゆる犯罪者になります。
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。


  五

 夜だというのに非常識なことをした。黛は引き抜く前に強くひねった。女性の身体がくずおれる。それを見下ろす時間は、すぐに終わった。ぴったり背中からせっつかれて、黛は妖術師の死骸をまたぐ。安アパートの外観に相反することのない、狭い玄関だった。
 花宮が死骸をまたぐためには、まず黛が廊下の終わりまで進まなければならなかった。安アパートの、台所と浴室に挟まれたような廊下である。特に異常な様子もない台所と浴室だ。確認していると、背中から強い視線を感じたので、仕方なく先へ進んだ。他者の気配はしない。そこに、ようやく花宮が死骸を引きずってやってくる。
「家に連れ込まれなくてよかったな」
 2DK。すべての部屋が明るくて、すべての部屋に他者がいない。しかし術師の生活が見え隠れするダイニングで、術師が寝起きをしたような寝室で、明らかに術師が研究していた書斎だ。異臭も異音もしなかったけれど、ダイニングの所々には、術の道具が紛れていた。寝室に入れば、寝床のかわりに魔法円が描かれていた。術師の書斎には、本物の人骨が保管されていた。
 花宮は、ちょうど机に開かれていたノートを取った。
 黛も片手で棚からノートを抜いて読んだ。ありきたりな大学ノート。表題はない。だが、番号と日付は振られている。ので、先にぱらぱらとめくってしまう。九月九日が五連続、次いで十日も五連続、十一日は四ページだったが、十二日の分はまた五ページ。およそ四、五ページをかけて、一日の記録をつけている。なるほど、日誌のようだった。
 今日は何を食べさせた。今日は身長がこれだけ伸びた。顔は、やはり私に似た。どれだけ術を教えた。どれだけ術を操れるようになった。野良猫を上手に殺せるようになった。人間の殺し方を訓練した。父親を殺して帰ってきた。成体になった。
 成体になると、番号が更新された。番号が更新されると、日付が二週間ほど先に進んで、赤子の記録に戻っていく。
 黛は次のノートを取った。ちょうど二週間後、次の番号から始まっていた。一日で小学生に、二日で中学生に、三日で大学生に。幅一メートルほどの本棚の右端から抜き取った、左開きの大学ノート、二十一番から二十四番。
 片手でナイフを握りしめる。そして花宮を見た。
 即戦力となる妖術師の量産。その研究の過程が、一晩で出産する女と、二晩で思春期を迎える娘の正体だ。この妖術師たちは超人的速度で成熟すると、二十代頃で肉体の発達を止め、一か月未満で死に至る。
 そういう一族なのだと、今夜ここに至る前に、花宮から知らされていた。花宮は黛と合流する前に、敵の調査を済ませていた。ホテルでヤったと言っていたくせ、この巣もすでに特定していた。後は殺すだけだったのだ。
 黛はノートを机に置いた。
「何でした?」
「育児日誌だった。そっちは?」
「日記交じりの研究日誌。大人の骨ではうまくできないから赤ん坊のを使おうとか、そういうのです」
 花宮もノートを置いて顔を上げた。そして黛を見た。いや、黛の手のナイフを見た。黛は耳をそばだてる。そのとき、ちょうど外で物音がした。
 とうとう娘が帰ってきたのだ。
 また黛に刺させたいのか、それとも返してほしいのか。わからず、そのまま身構えていると、花宮は速やかに黛の前に出る。おまえを殺しに出かけた娘だぞとは、黛は言わなかった。娘が殺したがっている父親は、大ぶりのナイフを握っていた。ハンターが怪物の首を落としたいときに、よく使う——
 ダイニングに母親の死骸が見えた。は、すぐに玄関の扉を開けた。やがて、その鍵までかけた。黛は物音で敵の気配を探った。敵はフローリングに靴を載せた。もう片足も、まもなく乗った。靴を脱がずに、死骸に駆け寄った。本当に少女である。本当に思春期の、本当に高校生程度の。そういう年下の女子が、また間髪入れずに、来客の居場所を鋭くにらんだ。黛はナイフを持つ手に力を込めた。
 今度は花宮が先に出た。
 続いて、物の落ちる音がした。
 終わりに黛は、はっと見開かれたままの目と、目を合わせる。
 まるで姉妹のような死体だなと、最後に思った。