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糸冬いずく
2024-05-04 01:14:15
41810文字
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二次創作:なかなかどーしてややこしい
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なかなかどーしてややこしい
花宮真、黛千尋、黒子のバスケ、名探偵コナン、工藤新一
練習試合は組まなかったし、スポーツ自体を高校で辞めたし、最終学歴も高卒で打ち止め、職も住所も書けないわけだが、どうして今さら現れたのか、大卒まっしぐらの黛千尋は探し出してまで告げるのだ。「い——」「——今それどころじゃないですすみません」
主人公または周辺人物がいわゆる犯罪者になります。
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。
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四
最初。二週間前に殺されたY市の銀行員は、最初に妖術師とセックスをした。最後は妖術師に殺された。彼はわけもわからずに最期を迎えた。
強いて言えば、奇麗な子だとは思っていた。
「誰だ、君は」
仕事帰りの玄関の向こう、荷物を置いたか、明かりをつけたか。独り暮らしの無人の部屋で物音がした。彼は違和感に従って足を動かした。居間に着いた。暗かったから明かりをつけた。LEDの白色が、そして少女を照らし出す。テーブルの前に知らない人間が立っていた。家に上げた覚えはない。三日前に寝た女のことは、思いつくこともできなかった。ここにいるのは子供だった。たしか部長に、この年頃の。
中学生か高校生か。心当たりのない美少女は、うんともすんとも言わなかった。
部長の子供ではないだろう。同僚も違う。友人も違う。親戚も違う。知人の顔を端から数えて、否定して、浮かび上がった「不審者」の三文字。彼は少女の全身を眺めた。手ぶらの、薄着の、私服だった。靴を履いたままだった。思わず床を見下ろした。彼は次に、靴を脱ぎなさいと言おうとして、
——
床が遠ざかっていく様子を見ていた。
疲れているのかと額をおさえた。同時に、踏ん張ることができないという感覚に襲われた。足がばたつく。何か、何かの、言葉を音にする前に、後頭部が、こつんとぶつかった。天井に。宙に。それは、ごまかしようもない。腹が、逃れようもなく床を見下ろす。少女の頭頂部を見下ろしている。尻が、ぴたりと天井につく。少女が顔を徐々に見上げた。
「わからないの?」
彼は最期まで、わからなかった。
正直に言って失望した。母に伝えたら呆れられた。彼女自身、娘が同じことを言ってきたら呆れるだろう。しかし彼女は当時まだ思春期の子供で、自分のこともわかっていなかった。未熟だった。靴が汚れないように彼の体液を避けたとき、いやに動悸がしたことを覚えている。初めての殺人だった。彼女は足を持ち上げるたびに言い聞かせた。
私は、人間などとは違うのだ。
そう内心でとなえるたび、すとんと気持ちが収まった。彼女は、人間などとは違うのだ。術師なのだ。彼女は自分のことを知っていた。生まれてこの方、瞬間も余さず。母と、そのまた母と同じように、彼女も娘も、そのまた娘も、皆等しく術師として死ぬ。人間などが、わかるはずもない。彼も彼女たちの正体を、術なるものの実在をわからないまま、わからないうちに息絶えた。
事件は世間に知れ渡った。成人男性が投げ飛ばされて、殺された。犯人は屈強な格闘家か何かだと、警察や報道機関が言った。人ひとりを手ずから投げ飛ばすために体格も筋肉も必要としない存在がいることを知らない、人間の見解である。おかげで彼女は二週間たっても捕まらない。あるいは彼女は、二週間前は華奢でか弱い少女だった。思春期の子供だった。今は違う。
今ならわかった。二週間前の彼女にとって、床の軋まない家は初めてだった。彼女のねぐらには隙間風も入った。母は住居に関して、とんと無頓着だったのだ。そもそも彼女たちの生活に余裕というものはなかった。しかし彼にはあった。銀行員は裕福な人種である。母は彼女に繰り返し聞かせた。今ならわかる。
自分のことが、わかる。なぜ生まれたのか、誰から生まれたのか、なぜ母と彼の間に生まれたのか。母がどうして彼を選んだのか。今の彼女は、そんなことまでわかっている。彼女も、そうして雄を選んだからだ。今にして思えば、あの雄の着ていた服は、
彼
の死装束によく似ていた。
つい一昨日の晩のことだ。雄を選びに入った店で、あの雄と意気投合した。つまり、この雄も一晩の相手を探していた。彼女は一目で既視感を抱いたが、そのときは正体はわからなかった。しかし質のよい身なりを認めて決心した。幸いにして顔も頭も悪くはなかった。一方あの雄も、彼女の容姿を気に入ったようだった。彼女は美しく生まれたことを、よく自覚している。
二人は、とんとん拍子で事に及び、そして互いに満足した。彼女は、よい雄を引き当てたのだ。もちろん母との
特訓
の成果も発揮された。雄は当然とばかりにコンドームを装着したが、彼女はまた母から継承した術によって確実に受精することができる。そして雄と円満に別れた後、日がのぼるころに娘を抱いた。孫を取り上げた母は、昼前に息を引き取った。彼女はただちに遺体を処理して、娘の教育に着手した。
そのころ娘は、三歳程度の発育段階に到達していた。すでに術師の資質も示し始めていた。彼女は母と同じように、もしくは、より優れた方法で、娘を術師として鍛え始めた。彼女は、もう三週間も生きられない。だが彼女の娘は三日もあれば、いっぱしの術師になる。最低でも人ひとりを確実に殺せる術を得る。彼女もそうだった。そして彼女も手始めに、父親を殺した。
彼女は時計を見た。そろそろ、あの雄は泡でもふいて倒れる頃だ。彼女もそうした。彼の立派な背広を吐瀉物で汚させた。少しだけもったいないように感じられたのだったか。思い返すと懐かしい気分になる。当時の彼女は思春期の子供だった。今は、思春期の娘のことを考えている。娘も、あの感慨に捕らわれたかと、彼女のように靴を汚したくなくて慎重に歩いたかと。
彼女だけは、わかっていた。まもなく娘が帰ることを。それから死ぬまで、何の罪にも問われないことを。彼女だけは、わかっていた。彼女の母が、そうだったから。いずれ彼女が、そうなるから。彼女たちは、人間などとは違うから。人間などというものは、術も術師も知らないのだから。彼女たちを何の区別もなく妖術師と呼ぶような連中を除いては。
やはり彼女は、彼女が母に言われたように、娘に言って聞かせたのだ。この安い賃貸の、狭い玄関で向かい合って。そして。
彼女が玄関へ目を向けた、ちょうどそのとき、外で呼び鈴が鳴らされた。
娘ではない。否定しながら、正面へ向き直る。術の研究に、術の道具に、術の痕跡。術も術師も知らないとはいっても、人間などを通すわけにはいかない部屋だ。彼女は自身の恰好を見下ろした。こちらは、玄関での立ち話くらいは可能。腕を顔の前まで持ち上げて、鼻を寄せる。おそらく、きっと問題ない。彼女は椅子から腰を上げた。再び呼び鈴が鳴らされる。娘には鍵を持たせてある。名乗りは続かない。
娘ではない。否定しながらも、彼女は立ち上がった。目的が何にせよ非常識な来客だ。訪問販売の類いなら特に、居留守を使うことに抵抗は起きない。だが、初めての殺人だった。今夜は、あの雄は、娘にとって最初の、そして最後の機会なのだ。娘は、まだ若い。あの夜の私のように。生まれたばかりの、思春期の、未熟な子供だったのだ。
帰った私を、母は優しく抱きしめてくれた。もし娘だったら、そうしてあげよう。娘のために。彼女のために。そして、そうでなかったとしたら。人間など適当に追い払ってしまえばよい。
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