なかなかどーしてややこしい

花宮真、黛千尋、黒子のバスケ、名探偵コナン、工藤新一

練習試合は組まなかったし、スポーツ自体を高校で辞めたし、最終学歴も高卒で打ち止め、職も住所も書けないわけだが、どうして今さら現れたのか、大卒まっしぐらの黛千尋は探し出してまで告げるのだ。「い——」「——今それどころじゃないですすみません」

主人公または周辺人物がいわゆる犯罪者になります。
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。


  三

 これが花宮と黛の最初の事件のあらましだ。
 避妊してセックスに臨んだと主張する花宮、四本目で底を突いた黛のフライドポテト、保存された盗撮のホームビデオ、逆算する黛、「昨日の乳児」と「コンビニの小学生」。花宮は、その母親と、その夜のうちにセックスをした。避妊して。つまりコンドームをつけて。そしてコンドームによる避妊は、百パーセントは成功しない。
「そうなんでしょうね。目が覚めたときに体が縮んでしまっているような確率を俺が引いたって、そういうことなんでしょうね」
「何の話かわからんが、俺が言いたいのは、現実的に逆算すれば——おまえが父親ってことで」
「現実的に計算すれば、明日の朝には女子高生ってことですが」
「思春期の娘がいるってのはどういう気持ちだ」
「何をおいてもあれを殺す」
「おまわりさん、こっちです」
「人間の女が一晩でガキこさえますか?」
 一昨日、土曜昼、そのときの黛は「こさえるんだろうな」と答えたのだった。マジバーガーを出たところだった。時刻は午後三時を過ぎていた。花宮は、きっと黛をにらみつけた。黛は一度だって名乗らなかったけれど、花宮は彼がハンターであることに気づいていた。片手に銀のスプーン、片手に聖水の水筒。次に黛は、それらを突きつけられる。
 ハンターの間では一般的な、人間性の証明だ。
 人間の女は、もちろん妊娠一晩では出産などしないのだ。医学的見地は、今は置く。そして花宮の主張は、こうなった。——あれは妖術師だ。

「たしかハンターは、人に害を成す術師を、まとめて『妖術師』と呼ぶんでしたね」
「ああ。だから人間に毛が生えたような程度の『妖術師』も珍しくはない。を使うだけなら小学生でもする。ハンターの基準でいえば『こっくりさん』も明確に『術』だ」
「一方で、ヒトならざる種族としての『術師』も存在する、と。土曜日の相手は、どうだったんですか」
——花宮に聞けよ」
——聞きましたよ。銀行員殺しの犯人を始末したって」
——プライド高そうだからな」
——ベルツリータワーにも負けないでしょうね」

 ベルツリータワーは高さ六百三十四メートルの観光名所である。閑話休題。
 土曜日の妖術師は後者だった。人間性を喪失した、元より人間ではない、殺して狩るよりほかにない、怪物だ。
 まさか、こんなことになっているとは。
 殺して済むということは、ハンターにも好まれる、ある種の簡潔さだ。しかし黛の内心は険しくなる。たとえ相手が吸血鬼でなかったとしても、怪物を殺すということは、それ自体が難問だ。
 黛は。そもそも仕事のためだった。花宮を、仕事のために、狩りのために、わざわざ訪ねることにした。遡って水曜日、同じ大学の今吉翔一と連絡がつかなくなったと、その友人から相談を受けた。ハンターとして頼られたのではない。単に今吉の知人だからと、確認のためにやってきたのだ。そして黛も一介の大学生として、見当もつかないと事実を伝えた。だが。
 実際のところ、黛はハンターで、今吉も元ハンターだった。互いに薄々と勘づいていた。だから今吉の部屋へ侵入し、もしかしてと思って今吉の実家への侵入も果たし、とうとう本人から、案の定、吸血鬼退治の話を聞かされた。それに花宮の力が必要であることも。学生バスケの有名人は、今吉の中学時代の後輩で、実は現役ハンターだという。これが金曜日のことだ。
 黛は、それから一日とたたずに花宮を探し当てた。多少は強引な手を使った。とはいえ黛自身、早かったと思っている。まさか一日で見つかるとは。そして吸血鬼退治の前に別の厄介事に巻き込まれることは——完全に想定外とは言わないが——まったく歓迎などできない事態だった。吸血鬼退治で花宮の手を借りたい手前、黛が彼の狩りに手を貸さない選択肢はなかった。多少、後ろめたい部分があったからだ。

 花宮さんにも苦手な相手がいたんですね。
 口を挟むと、話せばわかる、と返ってきた。対話による和解のことではない。
「というか、あれを得意だと言える人間が、そういないだろうよ」
 どちらのことかと尋ねたら、両方だと黛は言った。なるほどなと、工藤新一はうなずいた。そして正面を見る。妖術師と吸血鬼を退治したという黛は、この月曜日ちょうど午後五時に、彼の探偵事務所を訪れた。
 黛は同じ大学の四年生だった。工藤は驚かなかった。高校時代のバスケ関係者だと知らされても、やはり工藤は受け入れた。背の高い青年だった。しかし工藤には、彼がハンターであることだけは、わからなかった。
 わからなかった。
 同じ大学の四年生が何の用かと考えた。花宮の高校時代の知人がどうしてここにと記憶を探った。つい二時間前に、たしかに彼は工藤の事務所に人を寄越すと一方的に約束した。ではこの人が。ハンターだと、黛は、そのとき名乗った。実に疑わしい肩書だった。工藤にとって黛は、こうして事件の報告を聞いている今さえ、ごく普通の、どこにでもいる——特に工藤の大学には——歳の近い学生だった。
 決してハンターなどではない。
 また考えて、工藤は花宮を思い出す。きっと花宮は、この黛のことも苦手なのだろう。工藤は口を開けた。
「今吉翔一さんの話は、いつされたんですか」
「花宮の件を片づけてから、日付もまたいでいたかもな。知ってのとおり、今吉に頼まれたことは伏せた。俺は、あくまで大学の知人として吸血鬼にたどりついた。花宮のことは今吉に何度かにおわされていたからもしかしてと思った。花宮は、それならってことで、協力してくれることになった。どうせ吸血鬼を野放しにはできない」
 妖術師退治に黛の手を借りた手前、彼の狩りに手を貸さない選択肢がなかった、ということもあるだろう。いつか花宮が言っていた。ハンターは根っからの信用商売なのだと。それはどの業界にも通用することだろうが、信用を損なったハンターは命を損なう。だからハンターをだますときは、だまし抜けと、花宮は工藤にそうも言った。
「なあ工藤。花宮は、いつから気づいていたと思う?」
 そして黛は、こうも言った。
 ——最初からだ。