なかなかどーしてややこしい

花宮真、黛千尋、黒子のバスケ、名探偵コナン、工藤新一

練習試合は組まなかったし、スポーツ自体を高校で辞めたし、最終学歴も高卒で打ち止め、職も住所も書けないわけだが、どうして今さら現れたのか、大卒まっしぐらの黛千尋は探し出してまで告げるのだ。「い——」「——今それどころじゃないですすみません」

主人公または周辺人物がいわゆる犯罪者になります。
ヒトないしヒトのようなものが死にます。
クロスオーバーです。複数の作品の世界観を融合しました。


  二

 髪には霊力が宿るのよ。
 あの女が何を言ったかというと、である。
 ンなこと知ってるに決まってんだろバァカ! そう思い出した花宮が憤っても、同時に思い出された記憶の中の花宮は怒りの片鱗も示しはしないのだ。返事は忘れた。きっと、正直なところ、花宮自身が言い出したかも定かではないと考えたい。ところだが、髪に霊力がどうこうとは確実に言われていることからして、花宮自身が頭髪に関して何かしら言及したこともまた確実だろうと推察される。髪の長い女だった。
「姉貴、じゃあないのか」
「今からでもガキが妹だったことにならねえかなとは俺も念じているところですよ」
 まあ一介の人間が念じた程度では、そのようなことは起きやしない。大学生と小学生の組み合わせだろうと、続柄は母と子なのだ。というのも、このガキ、この女のことを「ママ」と呼ぶ。
 未婚なら妊娠できないとか、法律の定める婚姻適齢まで妊娠できないとか、そんなバカな話はない。適度に成熟した男女がやることをやれば、もちろんどちらかが小学生だったとしても、親にはなる。子供はできる。セックスだ。花宮は一昨日の晩に、その女とセックスをやった。
 有り体に言って悪くない女だった。顔も腰つきも、何より体の具合が最近では群を抜いてよかった。体型の維持について、ジムの会員だと話していたが、事実ではないだろう。年齢のことも見かけに違わず大学生程度だと話していたが、実際のところについては、できることなら考えたくない。セックスしたからとか、セックスに至る前の話だからとか、そういうことではなくて、もっと根本的な問題だ。
「妹はいないとでも言われたのか」
「母一人子一人の母子家庭だったと言われました」
 奇遇なことに、花宮も母子家庭の育ちである。それを理由に相手を定めたわけではないが、相手の決め手にはなったかもしれない。それは共感ではないだろうけれど。口では何とでも言えるのだ。だから花宮は慎重に吟味した。花宮は女を全裸に剝いたうえで、なお熟慮して去れる男である。
「俺は後腐れない女としか寝ません」
「子持ちは論外だと」
「当然です」
 具合がよくとも、都合が悪くとも、絞まるものは花宮の首なので。
「でも一昨日は——寝たんだろ」
「あの女は、絶対に、違った」
「根拠は」
「経産婦の体じゃなかった」
——あの女の子は」
「ガキですね」
——根拠は」
「動画があります」
「はあ」
「ため息つきたいのは、こっちですよ」
「いや、どう考えても俺だ。おまえ本気で言ってるのか」
「今からでも自分が正気じゃねえことにならねえかなとは俺も念じているところですが、まあ本気で正気です」
 そりゃあ花宮にだって、わかっている。一昨日に経産婦でもなかった女が今日は小学生の実母なのだと言われたら、花宮だって正気を疑う。里親と里子の関係ではないのかと、せめて尋ねるだろう。そうとわかっていながら、しかし花宮は否定するのだ。あれは実母と実子であると。知人の娘を預かっているわけでもない。逆に普段よそに娘を預けてもいない。うり二つの姉妹でもない。その姉妹の娘でもない。
 これは、もはや、そういう次元ではない。
「ここに昨日の映像があります」
 花宮は端末を操作した。あの女とガキを映した動画が、再生を終了する。母子にしろ姉妹にしろ、血縁を信じられる程度には面影のある二人組だった。女との一方的な再会は、そしてガキの発見は、昨日に遡り、その朝。夜に別れたばかりの女が、何の含みもなく偶然に、乳児を抱いて道端などに立っていたのだ。彼女は花宮を見つけなかったが、花宮は彼女を見つけた。そして乳児の顔もしっかり認めた。
 二人の会話も、しっかり聞いた。
 ママ。そうやって呼んだのだ。腕の中の乳児が、あの女を「ママ」と呼んだのだ。途端、あの女は顔つきを険しくして、しかし口では穏やかに「ミク」をとがめた。花宮はゲッと思ったが、「ミク」は「ママ」を呼ぶし、「ママ」も「ミク」を呼ぶ。やがて花宮も「ミク」を乳児の名前と認識して、——そもそもその町を訪ねた理由を思い出した。「ミク」の名前を再確認した。花宮の脳味噌はひっくり返った。
 花宮は。そもそも仕事のためだった。その町を、仕事のために、狩りのために、わざわざ訪ねることにした。さらに遡って二週間前、Y市のマンションで銀行員の男性が何者かに投げ飛ばされて亡くなっていた。その状況から、警察は屈強な又は格闘家による犯行と見て今日まで捜査を続けているが、ほとんど進展はない。
 その事件を頼りに、隣に座った年長者も、花宮を探し出したはずだった。
 終わりを迎えたその盗撮記録の前で、隣の年長者がフライドポテトを無言でくわえる。数えるほどのフライドポテトが、まだトレーの上でしなびている。まずそうだなと、花宮は思った。相席の年長者は二本目をつまんだ。そして、くわえて咀嚼して飲み込んで、口を閉じて、花宮を見て、口を開けた。
「一応聞いとくが、『昨日』の『乳児』と、『コンビニ』の『小学生』の関係は?」
同一人物です」
 三本目のフライドポテト。咀嚼。
「おまえ、つけないんだな」
「ええ、ええ、当然つけてヤってやりましたよ!」