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乙麻呂
2024-05-02 17:43:19
21265文字
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花も実も在る
アンソロ開催ありがとうございます!!
参加させていただきました。二人の関係性のゆらめくような変化を……描けていたらよいな(願望)
・原作二巻、アニメ二季までの内容
・not CP
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【二年】
皇極観の師兄達、そして国師までもが皆口を開け、唖然とする様は正直痛快だった。
慕情は表面上は淡白な表情を崩さず、身の丈程もある長刀を頭上で旋回させると、地面に突き立てる。
太子殿下だけは当然のように頷きながらそれを眺め、慕情の剣舞が終わると、言葉を失う門下生や国師達に向けて笑いかけた。
「妖魔役は慕情に決まりですね」
誰も、何も言えなかった。
上元祭天遊が数ヶ月後に迫っていた。
数年ぶりに催される、国を挙げての成事である。
その中でも、最も重要なのが神武大帝に扮した悦神武者が妖魔を調伏する舞台だ。
その隊列は舞台を繰り広げながら城の周囲を周り、今後の国の安泰と民の安寧を祈願する、重大な意味を持っている。
悦神武者役は、謝憐が担う事が満場一致で決定していた。
仙楽国の太子殿下が国の安寧を祈る舞台の主役に立つのは至極当然の事だし、謝憐を越える優れた武術の使い手もまた存在しなかった。
だが、問題はその相手役である妖魔を誰が演じるのかと言う事だ。
太子殿下は舞台を百周でも余裕でこなせるだろうが、そうなると相手役にも同等の体力と武術が求められる。
妖魔が操るのは、非常に重い九尺もの長刀である。
それを自在に振り回し、太子殿下を相手に立ち回るなど、国師ですら容易い事では無い。
皇極観の弟子は皆、その栄誉を自分の物にしたいと切望する反面、妖魔を努めるに値する奴が居るのか、半信半疑だった。
しかし、この結果は誰もが想像もしなかった。
門下生の中でも細身で色白で、武術など無縁のような風采の慕情だけが、その長刀を完璧に操れるだなんて。
しかも、演舞を見せた後も息切れひとつしていない。
呆然とした沈黙の後、国師が我に返って言った。
「妖魔役は慕情とする」
「はい」
慕情はにこりともせず、丁寧に頭を下げた。
「良かったじゃないか。妖魔役になれて」
その夜、二人きりになると同時に風信が声をかけてきた。
慕情は明日殿下が着る予定の道衣を丁寧に畳みながら顔を上げる。
淡白な表情に、風信はムッと眉を寄せた。
「何だ、嬉しく無いのか?」
「お前は悔しく無いのか?」
二人きりの時には、幾分砕けた態度を取るようになっていた。
口調も自然と雑になる。
問い返すと、風信は心底わけが分からないと言う顔をした。
「何で俺が悔しがるんだ?」
慕情が選ばれなければ、妖魔の役は風信が演じていたかも知れないからだ。
皇極観の弟子では無いが、技術、体力共に殿下と渡り合える少年として、風信は適役だった。
ガタイもあり、妖魔に扮して殿下と並べば、見栄えするだろう。
皇后や国師からの信頼も厚く、弟子達も風信ならば仕方ないと言う空気があった。
慕情を妖魔役に抜擢しようなどと考えていたのは、殿下と風信くらいだ。
風信は弓を点検しながら、当たり前のように言った。
「今じゃ俺よりお前の方が剣の腕は優れてるんだから、当然の結果だろう?」
慕情の地道な努力が功を奏したのか、風信や殿下の教えの賜物か、慕情の剣術は今や風信と互角以上になっていた。
風信との手合わせも、今や剣の指導では無く本格的な打ち合いだ。
慕情は少し黙り込み、小声で「それはそうだが
…
」と呟いた。
恥ずかしい奴、と内心でボヤく。
そうだ。内心では分かっていた。
風信が、慕情に千載一遇の栄誉を横取りされたなど考えるような奴では無い事も、本心から祝ってくれている事も。
風信とも二年の付き合いになる。
互いの事を喋るような気やすい関係では無いが、少しはコイツの事は理解していた。
険しい表情が、別に怒っているわけでは無い事。
意外に笑うことも多い事。
嘘はつけない性格である事。
腹立たしいくらいに、手柄や評価を気にしない事。
以外と世間知らずな事。
それから
……………
呆れる程にお人よしな事。
「
……
嬉しく無いわけでは無い。
……
ありがとう」
目線を逸らしたまま言うと、風信は満足げに目を細めた。
ただ、慕情が嬉しく思っている対象は、多分風信が思っている事と少し違うだろう。
勿論、妖魔役になれた事が嬉しく無いわけではない。
でも、それ以上に。
(お前が、『当然だ』とか言うから
………
)
むず痒いような嬉しさをどう表現して良いか分からず、慕情はただ目元を微かに赤く染めた。
それから互いに黙ってすべき仕事をこなしていたが、ふと風信が呟いた。
「これで、お前にとやかく言う奴も居なくなるんじゃないか?」
慕情は思わず一瞬手を止める。しかし、何事も無かったかのようにまた殿下の靴を磨き始める。
「さぁ、そう上手くはいかないと思いますが」
無意識に口調が固くなる。風信の眉が跳ねた。
風信が言っているのは、慕情と皇極観の師兄達との不和だ。
本来入門など到底出来ない慕情が同門となり、太子殿下の近侍にまで収まっているのが気に食わないわけだ。
更に妖魔役と言う大役を我が物にした事で、彼らが見直す事などあり得ない。
むしろ、悪化するだろうと慕情は思っていた。
しかし、風信にはそれが理解出来ないらしい。とんだお人よしだ。
「お前は実力で選ばれたんだ。文句を言う奴の方がおかしいだろ」
風信は当然のように言う。
それを、慕情は否定も肯定も出来ない。
黙り込んだ慕情に、風信の無言の視線が注がれる。
「大体、お前も卑屈過ぎる。お前ももう立派な殿下の近侍だろう?俺とお前の何が違うって言うんだ?」
「そんなの
……………
」
慕情は口を開きかけ、しかし唇を引き結んだ。
むしろ、どうやったら風信と同じになれるか教えて欲しい位だ。
「お前と同類だと思われるよりマシだ」
小さく笑うと、風信が「馬鹿にしたな!」と憤慨する。
「してない。事実だろ」
「お前なぁ!最近、卑屈な上に悪辣だぞ!?」
でも、下らないやり取りをするこの距離感は、確かにとても心地が良かった。
いつか、堂々とこう振る舞えたら、と思わないわけでは無い。
そんなある日、師兄達がこそこそと陰口を叩いているのを聞いてしまった。
「
…………
殿下の侍衛と言うのに、尊厳も無い」
「だから妖魔役をと横取りされてもへらへらしてられるんだ」
「アイツ、この前雑用係に『お前』って呼ばれてたぜ?」
「まじかよ。雑用係に対等な口をきかれたら、俺なら立場を分からせる為に
………………………
」
低く陰湿な笑いが漏れるのを、慕情は道観の陰で黙って聞いていた。
胸に鉛でも押し込まれたような苦しさを感じる。
自分の陰口など、聞き飽きているからどうとは思わない。
けど。
風信が舐められる原因になど、なりたくは無い。
自分の態度が風信の評価を落とすくらいなら、風信の言うところの卑屈を貫いた方がマシだ。
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