06.正体未だ知れず
昨日僕には「放課後は仕事が忙しい」みたいなこと言っておきながら、なんでこんなことしてるわけ?
四六商店、店内入り口前。
足立は人知れず苛立っていた。
その視線の先には鳴上を始めとする特捜隊の面々、ではなく、その特捜隊に混じって品物を眺める
三琴の姿がある。
「やっぱ、あんぱんと牛乳だよね」
「張り込みっつったら、それしかないだろ。あとアレな、携帯用オムツ」
「いらねー!つか売ってないし!」
「ジュネスには揃ってるよ?」
「いらねーっつの、その情報!」
「買うもん、決まったっスか?さっさと行きましょーよ」
「平和島も何か買うか?」
「うーん
……いや、特に必要なものとかは
……」
なんだ、この和気あいあいとした空気は。
大人ほどは落ち着いていない高校生が放つ特有のきゃいきゃいとした雰囲気が、まだ二十代後半とはいえ十も歳の離れた足立にはとても居た堪れない。自分の高校時代ってこんなだったっけかなんて思いつつ頭を掻き、小さくため息を吐くと足立は改めて
三琴を視界に捉えじっと見つめた。
何故か真剣な顔をしている
三琴はいつも通り澄ました態度をしているものと思ったが、聞こえる会話に合わせて確かに笑いを零しているし、その顔はどこか歳相応に幼く見える。占い師などと眉唾な商売をやっているし学校では浮いているんじゃないだろうかなんて考えたこともあったけれど、もしかして学校での普段の彼女はあんななのだろうか。それとも知らない間に鳴上らと交流を深めてすっかり打ち解けてしまったのだろうか。
そう思った途端、足立の胸のあたりでもやっとしたものが燻る。
(
……なんか、ムカつく)
「あれ、刑事さん、なんでここに?」
「え、まー
……聞き込みの最中ってとこ。それより、君らこそ何してんの?買い食い?」
「や、俺ら今から豆腐屋にりせちゃんの様子見に行くんすよ」
「あー
……そうなんだ。ぼ、僕も丁度行くところだったんだよね」
「あ、じゃあ一緒に行きます?」
すっきりしない心境の最中唐突に声を掛けられて、若干吃りながらも笑顔で誤魔化す。
足立が咄嗟に作った表情のぎこちなさを懸念していると、陳列棚ばかり見ていた
三琴が不意に振り向きちらりと足立へ視線を流した。しかしそれは一瞬のことで、目が合うか合わないかの微妙なタイミングのうちに
三琴は再び棚へと向き直ってしまう。
身辺警護という名目があれど刑事と女子高生があまりに馴れ合っているのは確かによくないし、そう考えれば彼女の対応はある意味で正しく足立を気遣うものである。
けれどもその振る舞いに素っ気なさばかり感じて、足立の言い知れない胸の燻りはますます酷くなった。
「平和島、そろそろ行こう」
「あ、すいません、これだけちょっと買わせてください」
「ん
……それ、好きなのか?」
「はい、なんか懐かしいなーって思って。結構おいしいんですよ」
「あぁ、わかる。なんていうか、時々食べたくなるよな」
「あれ、ご存知でしたか。たまにはこういう駄菓子もいいですよね」
駄菓子一つでほろりと無邪気に笑う
三琴とそれに合わせて微笑む鳴上の周囲には花が飛んでいるようにも見えて、足立はぴくりと密かにこめかみをひくつかせる。
ーーこの野郎ちけえよクソが、パーソナルスペースってものを知らないのか。馴れ馴れしい。俺だってまだあんな近くであんな顔見たことないのに。つーかいつの間に何でそんな親密っぽくなってんだよああもう言ってる側から気安く声をかけるな近寄るな。ちょっと顔が整ってるからって調子乗ってんじゃねえぞクソガキーー
「
………………なんか、殺気が」
「予言か?」
「いや
…………そういうわけでは」
湯水の如く溢れ出る怨嗟の出所を知りながら、その原因や止める術は察することができずに
三琴はひたすら目を背けていた。
<了>
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