02.覗いた素顔に返すは破顔
『今日堂島さんちで鰻食べるんだけど、一緒に来ない?』
唐突にかかってきた電話口の声はやけに明るかった。
「へ?」
『あれ、もしかして鰻嫌い?』
「いや、好きですけど、えっと
………?」
『なーんだ、なら良かった。今日の迎えは堂島さんと行くからさ、遅くなるかもだけどちゃんと待っててよね~』
頭上に疑問符を浮かべる私を置いてけぼりにして、足立さんからの電話はぶつりと切れる。ツーツーと電子音を響かせる携帯片手に、私は暫くの間呆気に取られたままでいた。
鰻。うなぎ。ウナギ。もしかして彼はそれしきで気分を良くしているのだろうか。
(
……………単純というか、なんというか)
思わぬところで子供っぽさを垣間見た気がして、私は呆れつつくすりと笑いを零していた。
*
「ごーめん、終わったらすぐ戻るから待ってて。一応言っとくけど、絶対一人で帰っちゃダメだからね!」
「は、はい
……?」
「それじゃ、よろしく!」
険しい顔をして玄関に向かう堂島とその後をバタバタと慌ただしくついていく足立の背を見送りながら、急用とあらば仕方ないけれどもまたもや置いてけぼりにされてしまった気分を味わいつつ
三琴は仕方なく箸を動かした。
テーブルのすぐ隣りの席には今しがた帰ってきたばかりの鳴上が腰を落ち着けている。
学校で何度か交流はあったものの、仕事でなくプライベートで一緒になることなどはこれが初めてであるため、
三琴は正直気まずいという思いで胸がいっぱいだった。折角の鰻だというのに味も曖昧だ。
「平和島がうちに来てるなんて思わなかったな」
三琴がそわそわと箸を口に運んでいると、鳴上は彼女の顔を見ながらそう言った。
急に声を掛けられて内心戸惑いながらも
三琴は口の中のものを飲み込むとぎこちなく笑う。
「
……はは、私もまさかの展開でしたよ」
「足立さんや堂島さんとはどういう関係なんだ?」
「あー、足立さんとはアパートが隣同士のよしみといいますか、なんと言いますか
……
その、春にあった事件の特別捜査協力員として私が呼ばれたのですけど、それで身辺警護についてもらったりしてるという間柄です。堂島さんともその時に」
「成程。この間夜にジュネスで二人を見かけたから、気になってたんだ」
ふ、と笑う鳴上に
三琴は一瞬ぎくりとする。
別段見られて困るようなことをしていた覚えはないのだが、見られていたと知ると何となく気恥ずかしい思いがする。
「随分仲が良さそうだったから、驚いたよ」
「はは、何をおっしゃいます
……あの人たぶん誰にでもあんなですよ」
「いや、どっちかっていうと平和島のほうが、気を許してる感じがした」
「そんなことないですって。私は別に、あれが普通で」
「普段は猫かぶってるって?」
「うわ、酷い言いようですね」
くすくすと笑っているうちにいつの間にか肩の力が抜けていることに
三琴は気づいた。
彼の、鳴上の話し方には何か不思議な力があるのかもしれない。
二週目以降で既に言霊使いだったりして。
そんなことを考えつつ、
三琴は僅かに目を伏せながら小さく息を吐く。
「まぁ、気の置けない人といえば
………たしかにそうかもしれないですね。
私は色々と気にしてしまうタチなんですが、なんとなく、あまりそれをせずにいられる相手ではあるのかなと
――
って何を言わせるんですか」
ぽつり、呟いた後になって妙に照れくさくなり
三琴はお茶を濁すようにして側に置いてあった缶飲料に手をやる。
鳴上は柔らかな笑みを浮かべてそれを見つめている。
「またいつでも来てくれ。菜々子もお姉さんが来て喜ぶだろうし、遊んでやってくれると助かるよ」
「え、
……その、私で相手になれればいいんですが」
「心配ないって。なんなら宿題見てくれてもいいぞ」
「あー、今ちょうどやってますしね
……まぁ今回は取り敢えず邪魔しないようにして、次に考えておきます」
ふふっと楽しそうに笑う
三琴を見て、鳴上は彼女との仲が少し深まったのを感じた。
<了>
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