05.頼まれると断れないタチ
「今日、がんも買っておいてください」
「
……ほんっと、よく知ってるよね。ちょっと気味悪いよ」
「有効活用の範囲です」
思いついたように掛けられた言葉に、僕は軽く非難するような声を出してみせた。
しかし少女、平和島
三琴はそんなこと気にもとめずにしれっとしている。
大分打ち解けてきたと言えば聞こえは良いが、この間のことを些か根に持っているのか、それにしても改めて考えると出会った当初に比べて随分と態度が大きくなったものだ。
そのすました横顔をちらりと覗きながら、僕はハンドルを切った。
「ていうか、自分の仕事が終わった後に買いに行けばいいじゃない。どうせ暇でしょ、こっちが早く終わったら寄ってあげてもいいけど」
「お客が来なければ暇ですが、りせちーの事を聞きたがる人とか多分増えるでしょうし、暫く忙しくなるかなと。
お豆腐屋さんのほうもりせちー見たさに人がたくさん集まるでしょうから、今日食べたいのに売り切れてたら嫌じゃないですか」
「はあ。そりゃご苦労さま」
僕の作った呆れ声と反対に楽しそうな声を返してくる
三琴の顔はどこか得意げで、唇には小さく笑みを浮かべている。横半分しかないそれを見て、あ、良いかも、なんて不意に思った。
いつもツンとした顔とかつまらなそうな顔とか怪訝そうな顔とかそんなのばかり見ていたから、所謂ギャップ萌えというやつかもしれない。別に普段が悪いってわけじゃないけれども、やっぱり女の子は笑ってるほうが可愛い。
――そういえばこの子遠くから見ると何となく綺麗系だけど、近くで見ると結構可愛い系だよな。なんていうか、一挙両得?パッと目を引くような容姿ではないけれど、ミステリアスっていうか、どこか不思議な魅力がある感じ?預言者なんて胡散臭いことをしているからか、あるいはこの子がこの世界の人間じゃないからなのか。両方というのもありうる。話してて嫌な感じも全然しないし、何か特別な
――
「足立さん、信号、青ですよ」
「へっ?
……あ、ああ、ごめん!」
ぼうっと思考の海を漂っていた僕ははっと意識を取り戻してハンドルを握り直した。
顔は見えなかったので実際のところわからないけれど、
三琴がまた笑ったような気がした。
*
「ちょっと、協力してくれないか?」
「
……は?」
放課後突然掛かってきた電話の主に私は正直驚いた。番号とアドレスは聞かれたから答えておいたけれど、まさかこの名前が私の携帯の着信画面に表示されるとは。思わずスクリーンショットを撮ろうかと迷ったけれどそんなことで待たせるのもなんだし、取り敢えず出てみたら開口一番に何やら協力などというからよくわからない展開になっているのは明らかだった。
よくわからないしなんとなく面倒な予感がする、だけど鳴上先輩の声がやたらと真面目そうだったので致し方なく私はけだるい身体を引きずって学校から出た。
(
………だからまたなんでこんなことに
…………)
指定された先は案の定、マル久豆腐店だった。
しかし商店街に赴けば遠目に見るに客足は既にまばらになっていて、交通整理が一段落したのか警察の姿も見えない。
うっかり足立さんと会ったりしたらなんか気まずいなあと思っていた私はほっと胸を撫で下ろした。
「平和島、こっち」
「お、いよいよ噂の占い転入生来ちゃった?」
「占い
……?
………あ」
のろのろと歩いていた私に気づくと鳴上先輩が手招きをしてきた。その横にはなんだかわくわくした顔をしている花村先輩ときょとんと目を丸くしている完二くんがいる。そういえば完二くんには既に会っていたけど花村先輩は初めてだな、なんてぼけっと考えつつ私は三人に歩み寄った。
「ンだよ、先輩の呼んだ助っ人ってお前かよ」
「は?何だよ、完二はもう知り合いなわけ?」
「あ?
……あぁ、ちっとな」
「完二も平和島も一年同士だしな。クラスが違っても会うことなくはないだろ」
「あー、それもそっか。まぁそれはこの際どうでもいいや、」
花村先輩の台詞に言いよどむ完二くんを知ってかしらずか、フォローするように鳴上先輩が口を挟む。
カミングアウトしてもやっぱり未だ恥ずかしいんだろうなあなんて思っていると、三人は私の方にまっすぐ向き直った。
「俺、二年の花村陽介。平和島
三琴、でいいんだっけ?」
「あ、はい、ご存知いただいているとは光栄です。よろしくお願いします」
名乗る前から名前を呼ばれて思わずしゃきりと背筋を伸ばし、私は軽く頭を下げた。
顔を上げると完二くんが至極意外そうな顔をしていた。
「お前そんなに有名なのかよ
……あー、知ってっかもしんねーけど、巽完二な」
「うーん、まぁ、それなりに
……?よろしく完二くん」
「紹介が終わって早々悪いんだが、平和島、頼みたいことがあるんだ」
おう、と返す完二くんの声を片耳に入れていると、鳴上先輩が神妙な顔をしてこちらをまっすぐ見つめてきた。
その真剣さに私は一瞬うっと息を飲む。
すう、と一息吸い込んで、鳴上先輩は重大告知でもするように口を開いた。
「他人の予言を見てもらいたいんだけど
――」
*
「いやー、なんつーの?やっぱり信憑性が違うよな」
「占いなんつーのに信憑性もクソもねーんじゃねースか」
「や、まーさ、そこらの適当な奴捕まえてくんならともかく、平和島のなら当たるって有名じゃん?」
「はあ、そういうもんスかねえ
……」
ホームランバーを咥えながら私は花村先輩と完二くんの会話を遠くに聞いていた。
やってしまったかもしれない、という念がぐるぐると頭で渦巻いて一向に止まってくれない。
本当に言っていいものかかなり迷ったけれど、でまかせを言うのももっといけないのやもと思ったら結局確定された予言をそれらしく読み上げるしかなかった私は、しかし今かなり後悔している。
(
………まぁ、たぶん、大丈夫、大丈夫
………)
私が言おうが言うまいがゲームの進行に変わりはないはずだし。
さっきだって既に決まってることを読んだだけだから、きっとそんなに効果はないし。
どーんと構えていれば大丈夫。
こんなに物語の本筋に近くで触れたのは初めてだから、ちょっとチキンハートにはメンタル的にきついプレッシャーがかかっているけれど、それならば今後はうまいこと距離を置こう。
そう心に決めて私は少し柔らかくなったホームランバーを齧る。
「今日は助かったよ」
鳴上先輩はやはりそんな私を真っ直ぐに見つめる。
あ、ヤバい。私は反射的に思った。
「それで、もしよかったら明日も頼みたいんだけど
……」
「
………マジすか」
嫌な予感、これだ。
「ごめん、この通り」
両手のひらを合わせて真顔でお願いしてくる鳴上先輩を見ながら、私はぎこちなく笑った。
<了>
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