04.実力行使の思いやり
「あの後結局マヨナカテレビにはなんにも映らなかったけど、一応念のためと思って行ってみたらピンポン押しても反応ないし、メールも電話も返事来ないし、まぁ流石に深夜だしって一旦は帰ったよ。
それで寝て起きて今日、いつまでたっても音沙汰ナシ。それどころか『電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、お繋ぎできません』って言われるし、ほんっと馬鹿にされてんのかと思ったよね。何の連絡もしてこないとかどういう教育受けてんの?君って結構礼儀正しい子じゃなかったっけ、もしかしてそれも誤解だったってオチ?僕繊細なんだから、そういうのやめてよね。はは、笑えないなー
……………」
「それで、一体どういうつもり?」
青い光揺らめく水族館内。
静けさを象徴するようなその空間の中で、足立の声音ははっきりと怒気を含んでいた。
「君、今現在稲羽にいて、その稲羽を騒がす話題の中心人物
……
テレビ報道された人間がターゲットになるんだって言ってたよね?
それ知ってて、なんでテレビに出たりしたの?」
「
……………」
「答えてよ。黙ってちゃ困るなあ」
「
…………犠牲者になるため、以外にどんな理由があるとお思いで?」
責め立てる空気に
三琴は僅かに怯んだが、ごくりと唾を飲みこむと確かな抵抗の意志を瞳に宿して言った。
すると足立は一瞬目を見開き、さらに顔を怪訝に歪める。
まるで理解出来ない、という表情だ。
「
………マジで言ってんの?だいたい、何のためにそこまでするのさ」
「生田目さんの救済を止めるため、です」
「はあ?まさかあいつ知らない間に君まで手篭めに、」
「私はまだ生田目さんと接触していませんが、」
苛立ってきた足立の言葉尻が抑えられる。
三琴はひとつ息を吸い込んで、視線を少し下方に落とした。
「あの人は悪意を持って行動したわけではないから、
…………私が、個人的に、あの人を可哀想だと思うからです。」
ため息を吐くように放たれた言葉は小さな火種に吹きかかる風と化し、足立に渦巻いた憤りを煽った。
「それじゃあ、どいつに罪をなすりつけりゃ君は心を痛めないでいられるわけ?君のこともっと頭のいい子だと思ってたけど、ここまで馬鹿みたいにお人好しだったなんてね」
「
……生憎、私は人二人殺しておいて素知らぬ顔し続けられる足立さんのように、大人じゃないので」
足立が微かに語気を荒らげて言うと、
三琴はぼそりと悪態を吐き俯いた。
議論するまでもない、と言いたげな姿。
その様子が、ますます足立を苛立たせる。
「
………………クソガキ。言ってもわかんないみたいだし、まぁ取り敢えずあっちに帰ったら気が済むまで話聞いてあげてもいいよ」
ぱきん。
何か薄い物が割れる音がして、
三琴ははっとする。
「勿論、抵抗するなら力尽くで連れ帰るつもりだけど」
振り仰げば禍々しい紅を纏った異形、マガツイザナギを背後に控えさせた足立と視線がかち合った。
それはどこか濁っているが異様に真っ直ぐで、
三琴は反射的にぞわりと戦慄する。
「ま、ちょっと待ってください足立さ、」
「僕が待てって言われて待つような人間に見える?」
「話を、とりあえず話をさせてください、今!!!」
慌てて口を走らす
三琴に足立は一時詰め寄ったが、あまりの必死さにぴたりと歩を止めた。
すると
三琴は一度ほっと息を吐き、それから深呼吸を一つした。
さらに続けて、けほけほと咳払いをする。
足立が無表情でそれを見つめていると、
三琴はやはり足立から少し目を逸らしながら言いにくそうに口を開いた。
「
……その、これは私の仮定なんですけどね。
マヨナカテレビに映っても、私の影は既にペルソナになっているから、
影が一人につき一体なら私は影に襲われて死ぬことはない。
仮にもう一体別の影が現れたとしても丸腰じゃない状態で戦える、今日テレビに入ったのは特訓してレベルを上げておけば尚良しと思ったからです。
そして生田目さんは誘拐してテレビに入れた人が普通の生活に戻っているのを見て救済成功だと思っているのだから、
テレビに入れた人がいなくなったままなら、救済活動をやめるかもしれない。
……だから、もしも誘拐されたならテレビに入れられたまま、テレビの中で過ごしていればいいかなー
……
……なー、んて
………」
しどろもどろな演説が尻切れとんぼに終わって、一寸の間が生まれる。
「
……ちなみに聞くけど、それ、どれくらいの間テレビにこもってるつもり?」
「
………………」
「自分以外のシャドウに絶対襲われないって保証は?それに君の行動でゲームの本筋が変わることはないなら、君がいなくなったところでゲームが終わるって保証もないよね。ていうか昨日のマヨナカテレビ何も映らなかったし意味ないでしょ、それとも何?ここで一生過ごして犬死にしたいの?」
沈黙を破った足立は相変わらず刺々しい口調だった。顕現した異形も未だ姿を消さない。
なにをここまで怒る必要があるのか、と
三琴は半ば呆れ半ばいじけて足立からふいっと顔を背ける。
そう、何をここまでするんだ。
「
……別に、ここは本来私がいるべき世界じゃないですし」
「馬鹿じゃない?」
ぽつりと零されたつぶやきを、間髪置かずにあしらう声。
「お願いだから勝手に突っ走んないでよね。君のおかげで折角つまんない毎日が面白くなってきたんだし、悪いけど、そう簡単に死なせるつもりないから」
君には僕にしっかり付き合ってもらわなきゃ。
足立がそう付け足すと、佇んでいた異形は足立に重なるようにして消えた。
その様を見ながらぽかんと目を丸くする
三琴に、足立はにやりと悪どい笑みを浮かべて手を差し伸べる。
「ほら、さっさと行くよ
………あーでも、ここで軟禁状態ってのもいいかもね?背徳感あって」
「長居は無用です早く帰りましょう私も少し疲れたので帰りたいです」
「都合悪くなるとすぐ話変えるね、君」
「
…………夕食一回で」
「ダーメ、最低でも三回」
「
……わかりましたよ」
「あ、やっぱ五回にしよっかなー」
先刻までとは打って変わって楽しそうな声色を出す足立を、
三琴は暫くの間恨めしげに睨み続けていた。
<了>
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