佐藤
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P4 chapter7:水魚之交

9月頃の話。他者を通じて自分を測る(全6話)


05.答え合わせは先送り

探偵として事件に向き合い幾つもの複雑に絡んだ糸をしかと解いてきた僕には少なからずの自負があった。それは不確かなものを容易には信じないことで培われてきた。根拠の無い物事というのはまやかしに過ぎない、突き詰めていくことで確かに保証されたものとならない限りは判断を惑わす害悪のままである。なので僕はこれまで可能な限り追究できることは追究し尽くした。そうすることによって次第に浮かび上がった推測はより堅固なものとなり、程なくして別れていた事実のひとつひとつが撚り合わさって身を結ぶ。辻褄の合うことは気分が良い。パズルのピースが嵌まるようにとはよく言ったもので、難航の末に完成した大きな山の見通し図を掲げるときほど胸のすく思いになることは、ひょっとしたら無いと言ってもいいのかもしれない。
謂わば理屈屋、僕はそんなタイプの人間だったし、おそらくはこれからもこのスタンスを崩すことはないだろう。此度の事件だってどうしても気がかりが消えなくて、だから己の身を以てしてでもそれを払拭する。そういう覚悟はとうにできている。

「僕の未来を、見てもらえませんか」

そう言った一瞬、彼女は呆気に取られたように目を丸くして僕を見つめた。
当然の流れならば占いを生業としているというのにそれを頼まれて何を驚くことがあろうかというところだが、僕は自分がお告げなどの類を請うような人間でないとわかっているし、彼女にもわかっているのだろう。
けれど彼女はそれについて何か言及することはなく、瞼を伏せて唇にどこか脱力した笑みを乗せながら「かしこまりました」と受領の決まり文句を述べた。
ぱたり、一度閉じられた青緑色の手帳が、ぱらり、再び彼女の掌で羽を広げる。
手元で遊ぶ紙の蝶をじっと見下ろしたまま、彼女はぽつりと独り言のように神託を呟く。

……『秘する憧憬暴かれ、もがけど真とはならず』、――『されど』」

「『呑み信ずれば、新たに形現れんとす』」

白紙のお告げを謳いあげたあと、そろりと覗いた瞳は戸惑うほど僕をまっすぐに、且つ深く潜めた何かしらの感情をもって見据えていた。

……こんなものだけど、良かったかな」

彼女が苦笑交じりに小首を傾げる仕草を見て、僕は思わずはっと息を忘れかけたことに気づく。はい、とその場凌ぎのようにせかせかとした応答を返してしまったが彼女はそれも特に言及しなかった。――まるでそうしなくとも、何もかもわかっているかのようだ。
確固たる証拠というべきものは見つけられないのに何故か不思議な説得力を纏っている彼女が、平和島三琴という人が実に奇妙な存在であると気づいたのはいつだったか。お世辞にも未だ親密にやりとりを重ねたとはいえないのに絶妙な距離感を保ち、やけに居心地の良い気持ちにさせる、こちらを労うような素振りさえ見せるのだ。それは勿論、決して嫌な感触を持たせずに。

……僕らしく、ないな)

どう考えてもすんなりとは納得のしがたい、不可思議なことである筈なのに突き詰め結論を出さずに甘んじて享受している自分の姿に僕は自嘲した。しかしながらそれと同時に彼女の言葉によって僕の決め事が改め固く定まったのを感じてしまったのも確かだった。
一体なんと言えば良いのか、自分でも現時点で腑に落ちきってはいないし筋道立てて理由を説明することはできないけれど、貴方の言葉は信ずるに値すると思っていると、果たして言っても良いものなのか。複雑に巡る思考を取り敢えずは頭の奥に押し込めつつ、僕は彼女にありがとうございますとだけ告げた。


<了>