01.罪悪の存在証明
「あれ」
夏休みも明けてどこか気の抜けた、あるいは憂鬱げな様相をしてやってくる生徒が多く見える朝の下駄箱で、上履きを取り出している所にばったりと出くわした顔は何だか特別久しぶりなように思えた。そこでよくよく改めて振り返ってみるに、実際夏の間どころか春頃から会っていなかったろうかということを思い出す。
そうか、直斗くん、今日転入してくるんだっけか
――あまり定かでなくていまいち確信はなかったけれども、
三琴は頭に呼び起こされたかつてのゲームイベントの記憶を掴んで飲み込んだ。
「おはようございます。お久しぶりですね」
掛けられた声に距離感や冷たさはなく、かといって別段友好的というわけでもなく、ごくさっぱりとした印象を与えられた。付かず離れず、それ以上でもそれ以下でもない。
夏の間に少なからず親しくなった友人であるりせの顔が一瞬頭をよぎりはしたれど、そういった振る舞いが白鐘直斗という人物のゲームキャラとしての概ねの印象にはあまり違わなく、
三琴が戸惑ったりすることはなかった。むしろ自身はそれほど活発ではない且つ人のペースに引っ張られる側である
三琴にとって、実際直斗のようなタイプの方が互いに互いの姿勢を正した状態で向き合えるので、初めから落ち着いて合わせやすくはあるのだ。
上履きにつま先を挿し入れて、踵の部分を踏まないようにきちんとしまいながら。「おはよう、元気だった?」と尋ねれば、「ええ、おかげさまで」なんて定型句が返ってくる。
不思議と心地よささえ感じる空気の中、
三琴は何の気なしに初めの直斗の言葉に対する続きを零した。
「事件が終わってから、あまり会わなくなっちゃったしね」
瞬間、ぴたり、と直斗の周りの時間が止まる。けれど残念ながら、
――ああ、マズかったかな
――と
三琴が思ったのはその後だ。
「
……本当に、そう思ってますか?」
ぽつりと独り言を呟くような大きさで
――霞に覆われた黒い影を真っ直ぐに射抜くような鋭さで。探偵としての若くとも少なくはないであろう経験が持たせる、確かな重みを持った声音。
三琴は思わず息を飲んだ。
すると直斗は途端にハッとした顔をして、それからばつの悪そうな表情で目を伏せ視線を降ろす。
「あ、
……いえ、すみません。気にしないで下さい」
隠しきれない気まずさを滲ませて申し訳ないと語る姿は間違いなく本物で、
三琴は急激に胸が苦しくなるのを感じた。どうやらひとまず自分を疑っているのではないらしいと分かれば、しかし今度は全ての陰りを知っていることに言い知れない薄暗さ、後ろめたさが身体中を侵食していく。疑いの眼差しで見られるよりも、あるいはよほどの辛酸であるかもしれない。
『事件終われば、ただの人』などと、そういえば誰かが言っていた
……なんて記憶までこの時になって掘り起こされてきて、
三琴はいよいよ堪らず口を開いていた。
「直斗くん、今週末暇?」
「、
……え」
「もしよかったら、修学旅行の買い物、付き合ってくれないかな」
<了>
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