02.薄く色づく日々を認める
「修学旅行の買い物?」
今晩の食卓のメインディッシュたる回鍋肉に箸を伸ばしつつ、足立が
三琴の言葉を復唱する。その表情はきょとんとした風ではあったけれど平素と別段変わりなく、はい、と端的に返事しながら
三琴も同じく皿をつついた。
曲がりなりにも一応は互いに想い合っている仲であるので、取り敢えずは「二人の休日が貴重にもぴったり合致した日だが友人と過ごすことになる」ということを伝えておいた方が良いのだろうかと考えた上での報告。一方それがあくまでも「一応」「取り敢えず」であるというスタンスで両者とも把握できているためなのか、会話に漂う雰囲気は睦まじい恋人同士の甘いそれとはやや異なり実にさっぱりしている。
「へえ、あの白鐘くんと。仲良かったんだね、君たち」
「まぁ、勝手に特別捜査協力員とかいうものにされたときから一応面識はありましたし」
意外だという顔をして足立が続ける。
敢えて足立の目は見ずに、
三琴が明確な相手を示唆した刺を飛ばす。
けれどもそんな反抗では当然痒い程度のものにしかならず、足立はむしろ楽しげに笑った。
――謂わば戯れのようなものである。
「でもさぁ、男と女が二人で買い物って、それデートじゃないの?」
「あ、
……うーん、あぁ、まぁ
……そうなんですかね
………」
「うわ、何その曖昧な返事。ちょっと仲良いからってすぐ二人っきりでお出かけとか、最近の子は進んでて怖いねぇ」
(ろくに会ったことない相手に職権濫用して会いに行ったあんたが言えたことか
……って言うとたぶん面倒だし黙っておこ
………)
「今なんか失礼なこと考えてない?」
「いえ何も」
足立から応戦するように飛んできた軽い揶揄がその実なんとも言及しがたい直斗の事情に的確に絡んでいたので、
三琴は反射的に言葉を濁した。いずれにせよ今後そう遠くないうちに判明することではあるのだが、人の隠している部分を勝手に暴き掘り起こすことにもなってしまうし、やはり展開を予め口外することは彼女の心情としてどうにも許しがたい。
それを知ってか知らずか、足立は軽くからかう素振りのまま、しかし追訴を緩めない。
「しっかしあの子、他人に興味ないみたいな顔して意外だなー。もしかして、君に気があったりするんじゃ」
「いやー、それはないでしょう
………ないない」
「あのねぇ
……君、もっと危機感持ったほうがいいって。何かあってからじゃ遅いでしょ」
「
……あの、水を差すようで悪いんですけど、なんか話すり替わってません?」
もぐもぐ、話の合間合間に緩やかなペースで進んでいた箸がそこでピタリと止まる。
続く本意でない嫌疑に流れを正そうとして告げただけの言葉が何やら良くないものだったろうかと心配になって、
三琴は自分も箸を止め、恐る恐る足立の様子を窺った。
――ほんの少しの沈黙の後、眉間に小さなシワを一筋作り、
「好きな子が他の男と二人っきりで出かけること気にして何がおかしいの?」
――足立はむすっとした顔をして、拗ねたようにぽろりとそう不満を零した。
三琴はこれに思わずぽかんと口を開ける。
「
…………足立さん、そんなに恥ずかしい人でしたっけ」
「うるさいよ」
三琴の台詞は決して足立を貶めようとして発せられたものではなかったのだが、自分も多少なりとそう思っていたのか、足立は突っぱねるように悪態を吐いて瞼を伏せつつ食事を再開した。
<了>
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