佐藤
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P4 chapter7:水魚之交

9月頃の話。他者を通じて自分を測る(全6話)


03.もしも口を許す仲であればと

修学旅行、というのはこういうものだったろうか。――否、断じて否。窓辺から空を眺めつつさほど昔というわけではない記憶を掘り起こしてみるまでもなく、遠路経てまで机に向かって勉学に励むのが世間一般にいう修学旅行の姿であるわけがない。しかし突き詰めればそういった行為が修学という趣旨には呆れる程忠実で、そこがまた実に皮肉なものである。授業が通常行われているガチガチの形式でなく、あまり堅苦しくはない講演会のようなものであったのがせめてもの救いだった。
こんなことならP3もやっておくべきだったかな――ふとそんな風に考えて、三琴はずるるとストローを啜り上げながら紙パックを潰した。稲羽市と違ってこの街の景色にはさほど馴染みがないし、元来どちらかと言えば都会的な街よりも静静と神社仏閣を巡る方が好きな性分。折角の旅行であるのにとなんとなく燻ぶった気持ちはあるのだが、かと言って別段座学を放り投げてまで見たい何かがあるのかというとそんなことはないのだ。

(都会といえば池袋もそうだけど、まぁ、勝手が違うとねえ……

ある程度は歩き慣れた場所と、まったく初めての場所とでは精神的負荷が多少なりと違うもの。どんな施設があるのかだとか、何がおいしいのかだとか、一見取るに足りないようには思えるが一方で満足感に関わるという意味では至極重大な事柄を、知り合いもいない旅先では生憎自ら調べなければまったく知り得ない。それでも観光地らしい場所というのはいくらか定番コースたる選択肢を認識しやすいものだと思うのだが、これが少なからず都会となれば情報量が過ぎて、逆に何をすれば良いか考えるのが面倒になってしまう――
実際はそこまで考えなくてもよいところなのだが、妙なところで思慮を深めてしまう三琴は結果として教室でクラスメイトと観光先の候補について語らうこともなく、見晴らしの良い屋上で黙々と町並みを眺めるだけの昼休みを過ごしていた。班分けが旅程上特に大きな意味を成さず、ホテルの部屋割り程度の役割しか無いというのも、そうした三琴の自適を手伝っている。
とはいえ彼女は一応、決してひとりきりというわけではなかった。

………平和島さん、僕なんかといて、楽しいですか?」
「んー、そうね、……直斗くん、さっぱりしてて楽だし」

隣り合ってベンチに座り、共に時折吹き抜ける穏やかな風を受けながらも、――しかし両者にそれ以上の寄り添う空気などは無い。
箸を進めつつ交わす会話は先刻までの授業の内容ばかり。
初めに昼食をと誘ったのは三琴の方だったが、友人と過ごしているというには少々そぐわない有り様の交流に、直斗は思わず確認するように疑問を投げかけた。けれども三琴から返ってきたのは否定でも肯定でもなかったので、何とも言えなくなって直斗は一度口を噤む。それから後に、「それは、褒めているんでしょうか」と、小さく呟かれた言葉に三琴は答えを迷って曖昧に笑った。

「そういえば誘っておいてなんだけど、直斗くんはお昼食べながら友達とどこに行くとか話し合わなくていいの?」
「ああ、……そうですね、別に構いません。特に誰かと行きたいというところはありませんし、強いて言うならやることは一応、」

話を逸らすついでのただの雑談、ほんの戯れのような投げかけ。
そこではた、と直斗が動きかけた唇を止める。
それから一瞬ではあったけれども、しまった、という顔をした。

……まぁ、無理はしないんだよ」

やや間があって、再び直斗の唇が動き出すよりも前に、三琴はそろりと何処ともない遠くの方に視線を流しながらそう零す。
二人の間のパーソナルスペースとも言うべき隙間に、するりと静かに風が通り抜けた。


<了>