Nice to see you, again.
(※長編本編よりも気持ちクロスオーバー色が強いです)
(※一応足立さんと夢主しか喋ってない&デュラ読んでなくてもなるべくわかるように書いているつもりですが、お好みに合わなければ適宜ブラウザバックする等ご自衛ください)
「それで、一体どういう経緯で東京ここに?」
「そんなの僕だって聞きたいよ」
ずばり。単刀直入に切り込んだ問いかけへの応えは、潔いほどすげないものであった。
三琴は湯呑み茶碗を差し出しながらそのあんまりな返答に面食らったが、肩を竦める足立に悪びれた様子は見られない。
「起訴が確定して
……何日目だったかな? それも覚えてないくらいなんだ。寝て起きたら拘置所じゃない、自分の部屋にいた」
「それはまた随分と雑な
……」
「ホントだよねえ。流石に頭が追いつかなかったし、まず自分の身元証明するもの探す羽目になって、バカみたいでしょ。
ま、幸い昔の部屋そっくりそのままって感じだったから、あんまり手間はかかんなかったけど」
呆れ返った風なため息をついて憂鬱げに手をひらひらと遊ばせたかと思えば、「頂きます」と律儀に一言。
ずっ、と何の気もなく緑茶を啜る姿は相変わらずいまいち掴みどころがない。 しかし、かと言って嘘を言っている風でもない。
少なくともそう思えた
三琴は不満を垂れる気にはならなかった。突然すぎる再会に一体どんな顔をすれば良いのか、初めはがちがちに強張っていた肩もすっかり脱力している。
ただ、腰を下ろして自分の湯呑みを手に取る間、不意に口端に苦笑いを乗せかけてからはたと首を傾けた。どこか引っかかる言い方に、新しく降って湧いた疑問。
「昔の
……ということは、あの部屋に?」
「いいや? 稲羽に行く前の話」
三琴が尋ねながら当然に思い浮かべていたのは以前しばしば訪れていた自分と同じアパートの隣室、やや生活感の欠けた簡素な部屋だ。しかしそのイメージはあっという間に霧消する。
「ちなみにね、ケーサツカンだったよ。くっだらないあの頃やり直してるみたいに、そのまんま」
思いがけず言葉まで掻き消えた彼女のことは置いてけぼりに。
何でもないような調子で続けざまに話し、足立はふっと笑った。
「なに深刻な顔してんの、別になんもないって。相変わらずクソみたいなやつしかいないとこだったけどさ」
「それは、
……そう、ですか」
「うん、昔の僕、改めて見ると我ながらよくやってたなぁと思うよ」
形の上では賞賛であったが、どこか呆れと皮肉、自嘲の入り混じる声。
簡単に否定も肯定もし得ない台詞に
三琴はつい曖昧な相槌を打って目を伏せる。
そうして直後にこのままどちらからともなく対話が途切れてしまいそうな気色を感じて、選択を誤ったと後悔した。
「ああでも、悪いことだけでもなかったな。むしろ案外良いこともあったっていうか」
しかし彼女の予想に反し、足立が再び口を開くまでそう時間はかからなかった。
中身を飲み干した湯呑みをコトリとテーブルに置くと、彼は室内をぐるりと見回した。
「そういえば君、ここでも一人暮らししてんの?」
「まぁ、
……いちおう」
「へーえ。結構いいとこみたいだけど」
「あぁ。ちょっと知り合い
……というか、家族にツテがある
……というか
……?」
そろりそろり。言葉を選びながら降ろしていた視線をそっと戻せば、
三琴は存外に彼がいつも通りの見た目であることに気づく。
よかった、取り敢えず気まずい感じはない。そんな風にほっと安堵し、自分もまたいつも通りに呼吸が整えられていく心地がした。
もっとも、皮肉なことに
――あるいは尚更残酷なことに
――その時間すら、長くは続かなかったのであるが。
「ふうん。まぁその辺の事情は知らないけど、ココは静かそうじゃない」
「
……? ええまあ、設備的にはしっかりしてるし周辺もわりあい閑静なところで
――」
「いやいや。そうじゃなくって」
いかにも含みのある口ぶりを、一度は素直に受け止めた。しかし、すぐにはたと気づいて
三琴は固唾を呑む。
「色々と面白い噂があるでしょ、池袋。有名だったよ。
なんでも一度キレたら最後手が付けられない、そりゃもうとんでもない馬鹿力で無闇矢鱈に暴れ回る男がいるとか」
にんまり。飄々とした声音、毒気を抜くような笑み。それに何か奥があると悟れる者にはどこか薄ら寒ささえ感じさせる風体で、男は口上を続ける。
「ええと、たしか『自動喧嘩人形』とか言ったっけ?
あとは喧嘩人形と犬猿の仲で、顔を合わせる度に本気でいがみ合ってる男がいるとか
……」
初めに右の人差し指。次いで左の人差し指。
互いの腹を向かい合わせに、くにゃりと曲げられたそれらはまるで今にも相手に噛み付き出さんとする様子。
「ついでにその男には大層お気に入りの女の子がいるんだけど、それがなんと喧嘩人形の妹だとか」
言いながらそれらを一度伸ばし直した後、足立はちょうどVサインを作るように右の中指も立ててみせ、三本の指をすいと寄り合わせた(もっと厳密に言えば、Vの間に割って入るように、殊更左の人差し指と右の中指とをくっつけた)。
わざとらしい抑揚でもって披露されたチープな人形劇。
その振る舞いたるや、ある意味では確かにいつも通りの足立透その人であると、彼女は改めて思い知る。
「ていうか、君のお兄さんすごいねー。一度しょっぴかれたことあるんでしょ? 冤罪だったそうだけど」
「どこで知ったんですか、それ」
「保管されてたファイル。平和島、なんて気になる名前聞いたら、ついね」
「職権濫用では
……
あ、ていうか、まさか『案外良いこともあった』ってそういう」
いけしゃあしゃあと言ってのける足立に思わずめまいすら覚えながらも、
三琴はなんとか額を抑えつつ苦言を呈す。
そこまでするか。
……と目をもって雄弁に語れど、勿論まともに受けてくれる手合にあらず。
それどころか、(手持ち無沙汰だったのか、)特に意味はなさげにぐいぐいと押し付けあっていた指をぱっと離すと、足立はまたしてもあっさりと彼女の追及を奪い去る。
「そうそう、おかげでちょっと目ぇ付けられちゃってさー。挙句『業務に関係ないことばかりしてる~』とか、あることないことイチャモンつけられて。
なーんかまた左遷されそうな雰囲気だったし、この際だからまぁいいかと思ってすっぱり辞めてきちゃった」
「は?」
「それでさ、どうしたもんかなと考えてたわけだけど」
「え、いやいやいや。すごいサラッと流してますけど、そこすごい重要な話じゃないんですか」
どこか噛み合わない、そう狙ってやり取りが編まれているのは明らかだ。
どうやら文句を聞く気はまるでないらしい。
「そう? 辞める時のことなんか、別に聞いてもつまんないと思うけど」
「いやそういう問題ではなく」
「あれ、言ってなかったっけ? 僕が警察官目指したのは、合法で銃を持てるからってのと、公務員志望だったからだよ。
夢とか正義感とかそんな大層なモン無いし
……ってか、あったらあんな風に踏み外さないって」
それは知っている。本当かどうか、それで全てかどうかまではわからないけど。
というか最後のはブラックジョークが利きすぎていないだろうか。
もはやいちいちツッコミを入れても到底敵わない。程なくして
三琴が匙を投げたと見るや、足立はそれとは対照的に至極満足げな顔をする。
――その双眸が殊のほか穏やかな色を湛えていたりしなかったら、もう少しなにか口を出せたのに。
三琴は口惜しくも黙り込み、そして大人しく次の言葉を待った。
「ま、それはさておき。
ホラ、”蛇の道は蛇”って言うじゃない?
……いや、今回の場合は”虎穴に入らずんば
……”ってのもアリか」
ようやく横槍無しに進められるというのに、足立の勿体つけた語り口からはまだ話が見えない。
ただ、漠然ととんでもないことの起きる予感はする。
「おかげさまで、新しい仕事もすぐ見つかったよ。やり甲斐ありそうだし、経験活かせるし。雇い主はちょーっと難アリだけど」
ごそごそ。おもむろにズボンのポケットを弄り出したかと思えば、足立が取り出したるは一枚の紙切れ。
「はは、趣味の悪い」
そこには嫌というほど覚えのある住所
――新宿某所、かの『喧嘩人形と犬猿の仲の男』がオフィスとして主に利用している場所が載っている。
「君のことを見てて欲しいってさ。情報収集元は他にも居るらしいけど、もしもの時に動けるようなのはあんまり居ないんだとか。あ、もちろん君の『日常』を脅おびやかさない範囲で
……って言っても相当敷居低いだろうけど」
悪態を意にも介さず笑う声。
三琴はひくりと口端を引きつらせる。
まさか、まさか。
そこが繋がるなんて、思いもしない。思うわけない。
「それにしても、不思議なことってあるもんだよねぇ。そう思わない?」
気安い問いかけに対する応えはなかった。
<了>
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