窮追は得意分野です
預言者だか占い師だかなんだか知らないけど、この少女は気味が悪いほど他人のことをよく知っている。他人といっても全員ではないし、よくといってもすべてではないらしいが、彼女が僕に教えたことはただそれだけ。それだって本当かどうか怪しい。何度も言葉を交わしてそのうちに僕の優しさをちらつかせて気を許して口も緩んでくれたりすれば可愛いものなのだが、そんな機会はまだまだ巡ってこないようだ。
「君ってさあ、いっつも誰かと一緒にいるよね。愛されキャラってやつ?」
いやー人気者は羨ましいなー、なんてへらへらした笑顔を貼り付けながら揶揄すると、少女、平和島
三琴はそんなことないですよと苦笑いした。別に謙虚ぶってるわけじゃないんだろうけど、僕には嫌味にしか聞こえない。だって彼女と二人きりで会ったことがないから。朝の登校時間でも夕方の下校時間でも彼女の横には必ず誰かしらがいて、しかもなんとまあ品行方正なことに帰宅後夜間外出している様子もないし、この子ほんとに一人暮らししてんのっていうかむしろどんな生活してんのって思うくらいに私生活が謎。こんな田舎ただでさえ娯楽の少ないところなのに、毎日毎日寄り道もしないで暇じゃないのかな。それにいつどこでどういう飯食ってんだろう。自炊するための食材も食卓に並べて食べるだけの惣菜も、買っているのを見たことがないけど、もしかしたら帰りに友達とどこかで済ませてるんだろうか。だとしたら毎日外食、いいご身分でますます羨ましいこった。
しかし、もしもそうだとして、だとしても。
日中(時と場合によっては夜もお構いなしに)働いている僕と、日中学校に行っている彼女。頻繁に顔を合わせることは確かにないかもしれないが、僕は仕事の一環で町の見回りをしていることも多い。
僕も彼女も稲羽に来てまだ日は浅い。でもここは狭い田舎町だ。買い物をしようとすれば行き先は限られるし、遊びにいくところだって同じ。
おまけに彼女は僕の住まいのすぐ隣に住んでいるが、彼女が越してきた当初以来、ゴミ出しなんかでばったり出会したこともない。
いくらなんでもたまたま会わないというレベルではないくらいに感じる。
「折角ご近所なのにほとんど顔合わせないし、僕も今度、ご飯に誘ったりしちゃおうかな~」
なんなら今からどっか行かない?
冗談めかして言ってみせると彼女はぎこちなく笑い、確かに目を泳がせた。
(刑事の洞察力、ナメないでほしいんだけど)
待ち伏せしていた甲斐があったというものだ。普段は絶対に会わないはずの僕達は、現在アパートの廊下で二人きり。
夕暮れ時のオレンジ色した光が、少女の浮かない顔を半分照らしている。
僕が何をしたというのかはまったくわからないけれども、おそらく彼女にこんな顔をさせているのは僕に違いない。
ならば、それは一体どうしてだ?
考えても考えても見に覚えがなくて、僕が日がな一日を無駄にしたことは少なくない。
それどころか最近はもう暇さえあれば彼女のことばかり考えている。
友達とおしゃべりすれば口を開けて笑うし、勉強が難航していれば眉を顰めるし、疲れたらうとうとと瞼を下げるし、きっと僕が遠目にその姿を見ている時以外でも、普段の彼女は至って普通の表情をしているのだろうと思う。なのにどうして僕のことを避けるのか。どうして僕には顔を見せようとすらしないのか。
それが不思議でならなかった。
「あぁその、別にヘンな意味じゃないからね!?
ただ、僕はもっと仲良くなりたいな~って
……あー待って、この言い方も誤解されちゃうかな」
「いえ、その
……大丈夫ですよ、お気になさらず」
僕を気遣うような言葉を紡ぎながら、
三琴は相変わらず苦笑いを浮かべている。
警戒しまくってるくせにそんなことを言う彼女はとんだ大嘘つきだ。
どうしてそんなことをするんだろう。もっと素直に曝け出してくれても構わないのに。
隠されれば隠されるほど、その先を無理にでも覗き込んで、全部丸ごと暴いてしまいたくなる。
なんていうんだっけ、こういうの。
狩猟本能、じゃなくて
……ああ、まあ、いいか。
そんなことは
――どうだって。
*
「ホーント、非道いよねぇ。最初から全部知ってたならさ、止めてくれたってよかったんじゃない?
あぁでも、そしたら僕はもしかすると小西の次に君を落としちゃってたかなあ」
ぺったりと力なく座り込んでしまっている
三琴を見下ろし、僕は身を屈めて彼女の顎を掴んだ。
怯えと絶望の入り交じった瞳をじっと覗き込むと、やけに楽しそうな自分の笑顔が見えて、
僕は僕が今この上なく幸せなときにあることを知った。
初めて会ったときに比べ僕は彼女について随分色んなことを知ったけど、この顔は見たことがない。
彼女の新たな表情を知れたのはとても素晴らしいことだ。
湧き上がる笑みと筆舌に尽くしがたい充足感を噛み締めながら、僕は
三琴の顎を掴んだまま背中側に回り、そこらへんに転がっている8つの死体がよく見えるようにしてやった。
これが君の招いた結末だと、言い聞かせるように。
「最初から大人しく、僕の方に来てればよかったのに」
だって、僕はくだらない真実とやらばかり追っていたあれらと違って、ずっと君だけを見てたんだから。
囁けば彼女は見事に暴かれた。
<了>
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