五里霧中
澄ました顔して、なんでもないように振る舞って、まるで最初からここにいたかのように密やかに溶け込もうとしているくせに時々思い出したように遠くを見つめる姿が嫌いだった。そのときの瞳はいつも諦観の色を帯びていたけれども、完全にそれには飲まれておらず、どうやっても噛み合わない視線に幾度も幾度も忌々しい思いがした。空気や水が綺麗なことばかりが取り柄の面白みなど何もない寂れた田舎町を厭い、かつての都会暮らしに思いを馳せる気持ちなら僕にもあったが、そうではない。彼女は僕と違った。自らの置かれた境遇を少なからず憂いこそしていたかもしれないが、恨めしく思ってなどいなかったし、そもそも彼女が眺めているのは僕が知らない世界だった。車や電車や飛行機や船やその他あらゆる手段を使ってでも、決して手の届かないところだ。それなのにいつかはきっと帰れるとまだ思っているのだろうか?
「何をどうすればいいかなんて、だーれも教えてくれないよ。知ってるやつなんかいないんだ、どこにも」
皆、死体かシャドウになってしまったし。そう付け足しても
三琴は僕の方を見なかった。濃霧に埋れてしまった町にもやはり彼女はかつて自分がいた世界を透かして見ているのだろうか。もしもそうなのだとしたら、この世界も随分と可哀相なものだ。こんな姿になっても彼女に見てもらえないなんて。僕はため息をひとつ吐いて頭を掻いた。
「参ったなあ」
「
……何が、ですか」
「君の帰る道は僕にも教えられないから、代わりに帰る場所をあげようと思ったんだけどね」
どうしたら君が僕のところに来てくれるのか、やっぱりわからないんだ。僕が君の横顔をいくら見つめようと、僕と君以外の誰もいない世界を作ろうと、君が君のいた世界を透かし見ることは止めさせられない。雲の上なんかよりもっと遠い、途方もないところを目指している気がして、その歯痒さだけは僕にも少しわかった。
「
………本当に、参ったよ」
僕のことしか見えないようにしてやりたい、と思ってたはずなのに、僕の方がハマってたなんてさ。
霧まみれの町に自分が重なって見えて、ああ哀れだなあ、と嘲笑した。
<了>
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