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ツキシキ
2024-04-04 19:47:13
22340文字
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★FEまとめ
ファイアーエムブレム3作品。二次創作。烈火エルプリ、覚醒ヴェイク父のジェローム、聖魔アスルテ。
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太陽と追い風(覚醒)
・ジェロームとヴェイクの親子会話
・ヴェイク×セルジュ前提
・時系列は支援会話A後
_________
父の言動はいつも唐突で荒っぽい。
グイと腕を掴まれて、ジェロームは仮面の裏で目を白黒させる羽目になった。
「ヴェイク。何のつもりだ」
「決まってんだろ、挨拶だよ挨拶」
「挨拶? 新入りでも来たか」
「ちげーよ。まあまあ良いから来いって」
強引な、人の話を聞け────。ジェロームの心の内はそう言っているが、唇は動かなかった。咄嗟に、あるいは、恩情で、気を絆されて? ジェロームがそれらしい理屈をつける間にも、ヴェイクは大股でずんずんと歩を進める。
「というかまーた呼び方戻ってんのな。前は父さんって呼んでくれたのによー」
「あれはっ
……
」
言いかけるも相応しい言葉が続かず、ジェロームはとうとう口をつぐんでヴェイクに付いていく他ない。
ヴェイクがジェロームの言葉の先を急かすこともなかった。代わって軽快に鼻歌を鳴らし始める。捕まれている腕すら、振りほどこうと思えばできる力加減なのがまたジェロームにはもどかしい。
猪突猛進な父は、しかし存外よく気を回す。
そのことを知ったのがこの未来の世界に来てからというのもジェロームにとっては皮肉な話だった。
◇◇◇
目的地は近かった。ベースキャンプの中央、常日頃忙しく頭と足を動かす大将、クロムのいるテントだ。ヴェイクは躊躇うそぶりすら見せず勢いよく突入する。当然、連れ立ったジェロームも共に。
ちょうど軍議の終わり時だったのか、中にはクロムしかいない。彼の手元にはまだ周辺地域の地図が握られていた。
「ヴェイク
…………
と、ジェロームか? 珍しいな」
クロムは慣れた闖入者に初めこそゆるく返したものの、背後のジェロームを見て目を丸くする。ジェロームのほうも気持ちは同様だった。兵としての支持はあれど、二人が私的に顔を合わせることはほとんどない。
そんな二人を取り持てる唯一の人間であり元凶のヴェイクは、両者の当惑をよそに大きく声を上げた。
「クロム!」
「ああ、勝負なら今は
…………
」
「こいつを見ろ!!」
きょとん、と、間が空いた。ジェロームの視線は自然と傍らへ向く。
片腕が天高く挙げられていた。ヴェイクに掴まれた自分の腕が、クロムに向けて雄々しく威嚇するかのように。
いぶかしげに眉を寄せたのは、クロムとジェローム果たしてどちらが先だったか。ジェロームが腕を下させようとするその前に、ヴェイクは続けて宣言する。
「こいつはジェローム。俺の息子だ!!!」
しんと場が静まったのは、何もヴェイクの声の大きさによるところだけではないだろう。
なんとか絞り出すようにクロムが口を開く。
「
………………
知ってる」
呆れを含むその声に耐えかねて、ジェロームはとうとう父の手を振り払った。
「ヴェイク、人を巻き込んでまで何のつもりだ。軍に入る際に私の事情は皆へ説明されているはずだが」
「ちげーんだって。それじゃただの連絡っつうか義務っつうか
……
なんだ?」
「私に聞くな
……
」
当人まで疑問符を出し始め、混乱しかかった場で、大きく響いたのは笑い声だった。
「はははっ、言いたいことはわからんでもない」
「だっろぉ?」
「
…………
」
ジェロームは自分の眉間の皺がますます深まっていくのを感じていた。こういう時に仮面は便利でもあり不便でもあった。ここぞとばかりに通じ合う二人の間を、硬質な面が隔ててしまう。
先に気付いたのはやはりヴェイクの方だった。ヴェイクは今になってようやくジェロームと向き合う。
「だからよ、俺様は挨拶したかったんだよ。俺様のライバルによー、俺様の息子はこんなやつなんだぞってな!」
「
…………
既に事情は説明していると言っているだろう。いったいこの茶番に何の意味がある」
「そんなもんはなー! あれだ! ああいう
……………………
なあクロム?」
「雑に諦めるなよ。なんだ、まあ、いつもの宣戦布告みたいなものだろう? 息子自慢といえばいいか。お前は俺とルキナのことをずいぶん気にしていたみたいだったしな」
勝負。クロムとルキナ。親と子。繋がっていく連想に、ジェロームの身体はしばし固まった。
「それそれ。こいつが俺様の息子だぞって、ちゃあんとクロムに見せてやりたかったんだよ」
「まったく」
慣れたやり取りを感じさせる、和やかな空気。
故にジェロームは自分の表情が引きつっているのを感じていた。この空気に入り込めない、異物は己一つだった。
「
……
ならば用事はこれで終わりだな」
出た声は想定以上に低く重かった。だが今更問題でもないだろうとも思っていた。彼らと初めて顔を合わせた時も、ジェロームは今とよく似た拒絶の声を発したのだから。
初心に立ち返っただけだ。孤独で在り続ける覚悟に。
ジェローム、と呼びかけられた声は背で受け止める。
今度は、無遠慮に腕を掴まれることはなかった。
◇◇◇
ミネルヴァの傍に腰を下ろせば、ジェロームの口からは自然とため息が漏れた。安堵の息だったのかもしれない。クロムとヴェイクが成す和やかさはジェロームにとって、窮屈だった。
頭を小突かれ隣を見る。ミネルヴァが鼻先で、ジェロームへ伺いを立てていた。声を上げずともその瞳が問うている。雄弁な友の傍で、ジェロームの口も心なしか滑らかになっていく。
「私自身、自分の感情に整理がついていないのだ。それでも、聞いてくれるか」
肯定が返ってくると悟っていながらジェロームは尋ねた。彼が迷いの道に立たされる時、正しき方へその翼で追い風を与えてくれるのがミネルヴァだからだ。やはり、彼女は瞳で話を促した。
「私は
…………
」
訥々と、ジェロームの言葉が紡がれてゆく。
◇
腹立たしかった。
その感情が最も近しい。
ルキナと比較されたことが、父子の縁を引き合いに出されたことが、自分が抱くまいと決意していた情を確かに自覚させられてしまったことが。自らの葛藤の天秤を無理やり傾ける、ヴェイクの強引なやり方が。
物心もつかない記憶の中、父がよく口にしていた言葉は「クロム」だった。それが偉大なる英雄の名であったと知ったのはずいぶんと後だ。その英雄と比肩して競い合ったという父の言葉は、おそらく誇張もあったのだろうが、わかっていても幼心を湧き立たせていた。
子を置いて行った愚かな父は、しかし、英雄を横に並べてなお誇れる者でもあったと。
それが蓋を開けてみれば、どうだ。
あれでは雲に吠え風にあしらわれる野犬ではないか。
おそらく大多数に失望と名付けられるその感情は、ジェロームにとって哀しみとも似ていた。
◇◇◇
感情を吐き出し終わり、ジェロームは深く視線を落とした。草葉の上でミネルヴァの影が動いたが、それを気にする余裕すら欠けていた。ぽつり、言葉も共に地へ落ちる。
「やはり私は父と
……
ヴェイクと会うべきではなかった」
「ンなもん誰が決めたってんだ」
降ってわいた返答に、ジェロームはバッと顔を上げた。胸中に嵐が吹き荒れる。まさに本人を目の前にして弱音を吐いたという恥が、なお嵐を大きなものにする。
「運命だ。私達は逢ってはならなかった」
「クソくらえ」
吐き捨てた相手の顔に侮りはない。ただただ真摯に瞳が燃えている。
この愚かな男は、本気で運命なるものを唾棄しようとしている。それがどれだけ深くジェロームに楔を打ち込んだかも知らず!
ジェロームの喉が震える。嵐に壊された堰から、濁流がうねりを上げる。
「この理不尽を運命と呼ばずしてなんと呼ぶ! 死に目すら知れずにいた親不孝を、父と母が私を置いていった理由を、再び別れるしかない無情を! 運命だと!! 運命なのだと
……
! そのように選ばれてしまっただけなのだと
…………
そう慰めず、何として
…………
」
続く言葉は形にすることもかなわないほどだった。
ジェロームは唇を噛み締める。ヴェイクもまた無理に口を割らせようとはしなかった。代わり、ドカッと目の前に腰を下ろす。
「はっきり言っとくぜ。お前達がここにいる理屈も、この俺様とあろう者が情けねえことに俺様の家族を守り切れなかったらしいことも、わかったけどわかんねー。言葉だけで聞いたもんを、はいそうですかって納得できるほど、俺様は頭が良いわけじゃねえ。だから、お前がずっと抱え込んでたしんどさは、俺様にはわからん」
「
…………
わかられてたまるものか」
辛辣な受け答えに対しても、ヴェイクは大声を上げて破顔した。人から冷たい態度を受けることと、その奥の親愛を掴むことに、慣れた様だった。
「でもよお、お前が俺様の息子だってのは、それだけは痛いくらいわかる」
「
…………
」
ジェロームは閉口した。自らもまた、父と母は会っただけでわかったからだ。
「お前と初めて会った時は、流石の俺様もびっくりしたんだぜ? ミネルヴァがいるとはいえよー、仮面だし! こぉんな明るい俺様の息子だってのに、むっつりして喋りもしねーし!」
「話す気など端からなかったからな」
「カーッ、そういうとこだぜホントによ。
……
ただなあ、安心もしたんだ。本当にいてくれやがったんだなあってよ」
ふぅ、と吐息の漏れる音がした。ヴェイクの視線が真っ直ぐにジェロームを映している。仮面に隠した素顔も貫くように。
「俺様みてぇに強くて勇ましい。セルジュみてぇに気立ても頭も良い。そういう子どもに育ってくれたら良いよなあって思ってた。会ってみたらこれがどうだよ。最高じゃねえか?」
最後の問いかけはミネルヴァに向けられていた。喜ばし気な鳴き声と共に、翼が小さく風を起こす。良きほうへ流れる追い風だ。
「お前はよお、怒り方がセルジュにそっくりなんだよ。急にブツッと切れる。かと思えば俺様似なのは、ちっと都合悪くなるとトンズラしちまうところだな! 困ったらミネルヴァに相談すんのは、三人一緒か。
そういう一つ一つが俺様は嬉しくてたまんねーのよ。俺様たちがお前の中に生きてんだなあって感じがすんだ」
「
……
勝手なことだ」
「親ってのは勝手なもんだ。知らねえけどな!」
快活に笑い飛ばしから、ヴェイクは視線を遠くにやった。何かを探して直後諦めるような、そもそも何も持っていなかったことに今気づいたかのような表情だ。
ジェロームは、自分の父にもまた父がいることに気付いた。祖父の話を聞いた覚えがないことも。
父が話すのは自慢話ばかりだった。おぼろげな記憶を辿っていくジェロームを後から追いかけるように、ヴェイクは話を続ける。
「セルジュと結婚した時に────つっても俺様からすりゃついこないだなんだが────まずやったのってなんだと思う?」
「
……
クロムに自慢した、だろう」
「おうよ! よく知ってんな?」
「聞かずとも予想はつく」
そう、予想はついた。嫁対決とばかりに鼻息荒くセルジュをひけらかすヴェイクの姿が。だが想像に反して、ヴェイクは大人しくこりこりと頬をかいてみせた。
「あん時もよー、俺様は嬉しくてたまんなかったんだ。あんな綺麗なカミさんが、俺様とずっと一緒にいてくれるってんだ。しかも合わせてでっけえ家族が一匹増えて、あっという間に大家族だ。俺様は嬉しかった。嬉しかった! 嬉しすぎて次の日、久々に下着履くのを忘れた!!」
「馬鹿だな」
「うっせえ! そんでまあ、慌てて下着履いてよ、その勢いでクロムに言いに行ったんだ。俺様、カミさんもらって、一家の大黒柱になるんだぜって。そしたらあいつなんて言ったと思う」
ジェロームが答えようとする、その言葉すら待たず、ヴェイクははにかんだ。
「『良かったな』だ。これだ!って思ったね。俺様はセルジュと会えて本当に良かったんだよ。当たり前かもしんねえし、もうなんか全然足りねえけど、良かったんだって、そう誰かに言いたかったんだってやっとわかった」
「
…………
」
「お前は知らねえだろうけどよ、クロムだってそうだ。ルキナと喋ってる時のあいつの顔、今度よーく見てみろ。顔でれっでれで親馬鹿だなありゃ。
……
でも、俺様も思った。『会えて良かった』って」
「
………
だが
………………
ルキナは苦しんでいる。親と再び別れることに。自分が本当の意味で、“あの”クロムの娘ではないことに」
ジェロームが絞り出すようにして言う。その暗い葛藤にヴェイクは深く頷いた。『わからない』と放り出したその口で、わかったように。彼なりにその辛さを労わるように。
「それでも俺様は、『良かった』のほうを取りてえよ。また勝手な話だろうけどな」
その言葉に、思い返されることがあった。ジェロームがこの軍に入るきっかけだ。
運命を悲観し諦めたジェロームが再び武器を手に取ったのは何故だったか。傾きを待つ天秤、一つの分岐路。未来を変えたとて、見返りは並行世界の己にしか与えられない。
それでも立ち上がったのは、ヴェイクの言葉を借りるなら、自分もまた『良かった』を取りたかったからではないか。
だんだんとジェロームが父を見る目は変わり始めていた。ヴェイクは雲に吠える野犬ではなく、未来の彼が言う通り、天空と共に立つ太陽なのやもしれない。
「お前に会えて俺様は嬉しかった! お前がしんどく思ってんのは知ってる! わかんねーけど知ってらあ! けど俺様はどーしても言いたかった!! お前は俺様の息子だ!!」
「私は
……
っ!」
仮面に隠しきれない感情が口からほとばしる。良かったと言いたい気持ちがあった。言い切れない葛藤があった。どちらを取るというものではなく、どちらもがジェロームの本心だった。ヴェイクのように割り切れない、だがそれでも、この太陽に向かっていきたい気持ちがあった。
いつだって言葉の追いつかないジェロームに、ヴェイクは大きく首を横に振る。
「違ぇんだ、お前に言わせたいんじゃねえ。ちゃんと説明せずに引っ張ってったのも悪かった」
がりがりと荒っぽく頭を掻くヴェイクの仕草に、ジェロームは喉が詰まっていくのを感じた。きっとこの男は知らない。物心つく頃にはもういなかった父の、こうした動き一つ一つが生を感じさせるのだということを。
この消化しきれない苦しさこそが生きているということならば。
「私は、
…………
私達は。言葉足らずなところも、よく似ているらしい」
認めざるを得なかった。我々はやはり親子なのだと。だが、言って、ジェロームのほうが驚かされた。
この単純明快な父も、こんな風に泣きそうな顔で笑う時があるのだ。
「ありがとよ、ジェローム」
あまりにも真っ直ぐな言葉に、ふいと目を逸らす。その先でミネルヴァが柔らかい光を瞳に携えていた。彼女に後押しを受けてまた、言葉が一つ零れ落ちる。
「
…………
運命は」
「あん?」
「運命は、私達が出会えて良かったと言うことを、許すだろうか」
言えば後悔するだろうとジェロームは分かっていた。いつまでも都合の良いほうばかり拾い上げることは許されない。未来での死を悼むジェローム自身がそれを許さない。
それでもジェロームは口にした。返ってくる言葉が肯定だと、言う前から知っていたからだ。
「言ったろ、運命なんざクソくらえだ!」
自信満々に言う父は、眩しいほどに直情だった。
◇◇◇
食事時になり、ヴェイクは一番大きな肉を取ってくると勇ましく去っていった。お前のぶんもと言われたジェロームは勿論断ったのだが、あの分では通じているのか定かではない。
だが、悪くはない気分だった。
ジェロームは変わらずミネルヴァに寄り添ったまま、心の内を言葉に乗せていく。
「どうやら父さんは、私の思っていた以上に能天気らしい」
「そのうえ忘れものが多くて、馬鹿で、笑い声がやかましい」
「会って初めて知る事ばかりだ」
「
……
どう思う、ミネルヴァちゃん」
ミネルヴァは大空に向かって高らかに鳴き声を上げる。
その言葉を聞いて、ジェロームはそっと口元を緩ませた。
「私も、同じ気持ちだ」
-了-
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