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鹿
2023-12-31 17:25:16
9326文字
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CPシチュスロット学パロまとめ
CPシチュスロットチャレンジのうち、なんとなく学パロシリーズみたいになったやつのまとめ。時系列はバラバラ。
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夏祭りで/俯いて/写真を撮る
「どうした斎藤、腹でも痛えか」
「あ、いえ、そういうんじゃ」
あんたとこんなとこに来てるのが落ち着かないんですよ、とは言えず、もごもごと言葉を濁すしかなかった。
周りにいるのは家族連れ、着慣れない浴衣にはしゃぐ女子グループ、そして
……
「人多いしさ、手、繋がない?」
「っ!
…………
うん」
などといかにも青春すぎて見てるこっちの体が痒くなるカップル。それはそうだ。夏祭りとはそういうものだろう。
というか他人の甘酸っぱさにうんざりしている僕だって、現役高校生。本来は青春の真っ只中のはずだ。しかし僕の夏休みはつい先週まで連日練習練習練習の繰り返し、浮いた話などあるはずもない。多少のやっかみくらいは許してもらいたい。
「イカ焼き食うか? それとも焼きそばの方がいいか」
その灰色の青春の原因のひとつはのん気なものだった。ランニング用のTシャツのくせに絵になる顔をしているものだから、通りがかった女子グループがにわかに色めきたつ。うーんこの野郎。
「なんか土方さんって僕のこと飯食わしとけば良いって思ってません?」
電車を乗り過ごし、この先輩に蕎麦を奢ってもらった日から、妙に構われる、いや見られている? と思うことが増えた。練習が終わった後、声をかけられることもあれば、気になって僕の方から声をかけることもある。大概は特に何があるわけでもなく、また帰りに何か食べて行かないかという話にしかならないので、この人が僕を食いしん坊と思うのも無理はないのかもしれないが。
「
……
まあ、せっかく来て人混み眺めるだけってのもあれですし、何か食べるくらいはしますか。土方さんはなんか食べたいもんあります?」
「俺? 俺か、そうだな
……
」
ああ、失敗したかな。なんでもいいから僕の方から提案すべきだった。
鬼の土方副部長は、先日の全国大会以降、すっかり腑抜けに成り果てていた。
我が剣道部は団体部門で歴代最高順位まで進み、引退式では部長から感動的な感謝の言葉ももらって、そこまでを支えたこの人や、この人に付き合わされた僕ら下級生もようやく報われたと言っていい。
しかし、彼は本気で全国優勝でもさせるつもりだったのか、それとも肩に荷が乗ってない状態でどう過ごしていたかもう覚えていないのか。時々部室を見に来ては何を言うでもなく、掃除と素振りをして帰るような状態である。部を引き継いだ僕らも正直どう扱ったものかわからない。
「お祭りとか来るの、いつ以来ですか?」
「
……
そうだな、中学の時も部活ばっかで
……
近所でやってたらしいけど、気づきもしなかった」
そうなんだろうな、さっき偶然会った時も、どうしてこんなに人がいるのかと訝しみながらランニングをしていたくらいだ。
『引退したのに、走ってるんですね』
『
……
お前は走れよ、まだ現役だろ』
『引き継ぎ直後で、しかも今日はお祭りですよ? むしろなんでこんな時間に走ってんですか。朝とか人通りの少ない時間にしましょうよ、暑いし』
『
……
時間持て余しててな。受験勉強すべきなんだろうが、正直身が入らん』
土方さんは成績優秀だったはずだ。ここぞという時の集中力も部内随一と言われている。それでも、自分の中の軸を失うと、こんなに頼りなく見えるものなのか。何か急に僕まで不安になってきた。
『どうせ暇つぶしなら、祭り行けば良いじゃないですか』
ほとんど無意識に、そう言っていた。その上、なぜか僕も一緒に行く流れになっていて、全く、何をしているんだろう。
「
……
今さらですけど、土方さんお金持ってます? ランニングからそのまま来てるじゃないですか」
「もしもの時のために、ポケットに一〇〇〇円だけ入ってる」
「わはは、今日日の屋台じゃろくに買えないですよ。見てあれ、牛串八〇〇円ですって」
そういう僕も当てもなくフラフラ出てきただけなので、ポケットに突っ込んだ小銭とスマホくらいしかないのだが。
「おう、だから慎重に選べよ。何にする?」
それなのに、この人ときたらまだ奢ってやるという姿勢を崩さない。先輩ぶるのが好きなのか、それとも
……
「屋台の焼きそばなんてボソボソでしょっぱいだけですよ
……
あ」
ふと、目に止まったのはくじ引きの屋台だった。別にそこまで執着があるわけでもないが、小学校低学年の頃、目玉になってるゲーム機がいっこうに当たらなくて泣いたことを思い出す。
「なんだ、ギャンブルがしたいか?」
止める間もなく堅気でなさそうな店主に金を払ってしまった。別にそこまで欲しいものがあるわけでも、あの紐が本当に目玉商品に繋がっていると思っているわけでもない。けれど、楽しそうな彼を見ると断れなくなってしまう。なんだよ、部のために身を尽くすことしか考えてないみたいな顔して、なんで僕にはそんなに
……
「はーいおめでとー五等の指輪だよー」
案の定、賞品はろくなもんではなかった。ハズレ枠の適当なものにも、とりあえず鐘を鳴らす方針が憎らしい。
「悪いな、ゲーム機じゃなくて」
土方さんは、くつくつ笑いながら僕の薬指に指輪をはめる。安っぽいでっかい樹脂の石、プラスチックを金色に塗ったリング。こんなもの、こんなもの
……
「
……
贈ったのがあんたでなきゃ、ゴミですよこんなの」
あんたにもらったものだから、こんなに特別なんです。
そう告げることも出来ず、ただおもちゃの指輪を撫でる臆病者を、土方さんは優しい顔で見つめている。
「写真撮っとこうかな、鬼の副部長が、こんな甘い顔なんかしちゃって」
他の誰にも見せたくはない、そう思いながら写真を撮った。
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