黒竹
2022-05-30 21:13:57
19064文字
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フォルテッシモじゃ強すぎる

【ルカミク】現パロ。アイドルミクさんとピアニストルカさん。


「もー! だからやだって言ったのにー!」
 懸命にブラシで髪を梳かしながらミクが吠える。あれからすっかり寝坊してしまい、集合時間に間に合うギリギリに起きた。それからのミクは速かった。シャワーと着替えを済ませて髪を整え、バッグをひっつかんで玄関へ走る。ルカはその後をのんびり追った。
 スニーカーをつっかけて振り返ったミクが、おもむろにルカの首を引き寄せると唇を乱暴に奪ってきた。応じる暇もなく離れた口が再度開く。
「ルカさんのばか! 大好き!」
 ここまで来るといっそ感心してしまう。
「はいはい、ごめんね。ありがと」
 相手をするのが馬鹿馬鹿しくなってしまったので、急かすようにドアを開けた。その途端、けぶった景色が広がる。気づかなかったが雨が降っていたようだ。
「あら、降ってたのね。雷が来ないといいけど」
「この強さだと来そうだね。急がないと」
……ミク、あんまり不安そうじゃないわね。雷が恐いんじゃなかったの?」
「ううん全然?」
 けろりん、とミクは答えた。ルカは呆気にとられる。
「だってこの間……
「ああ、あの時はまだ帰りたくなかったから。ルカさんなかなか名前で呼んでくれないんだもん」
 茫然自失を体現しながら、ルカは激しく頭痛を覚えた。
 あれも演技だったというのか。もう何を信じたらいいか判らない。
「でももういいんだ。両想いになれたから」
「え、今って両想いなの?」
「ルカさーん、いい加減に信じてよ」
 困り笑いで肩をすくめるミク。さあこの仕草の真偽はいかほどか。
 腰に絡みついて、今度は優しく唇で触れてくる。
「ルカさんが女の人でほんとに良かった」
「どうして?」
「だって、毎日ここに来たってスキャンダルになりようがないでしょ?」
「毎日来る気なんだ?」
「当り前だよ、会いたいんだから」
 「けど三回とかはもうナシね」ぼやく彼女に今さらながら羞恥心が芽生える。「そ、そうね、うん」首から上の紅潮を意識しながら頷いた。
 いよいよタイムリミットが近づき、ミクが名残惜しそうに腕を解いた。
「行って来ます」
「行ってらっしゃい」
「またピアノ弾いてね。昨日聴かせてくれたみたいなやつ」
 狡猾な要求に白旗の吐息が出る。
……ミクが聴きたいなら、いつでも」
 ドアが閉まると同時に雨の音も小さくなって、おかげで自分の溜め息がよく聞こえた。
 昨夜からの諸々を反芻してみる。
……もしかして、ミクは本当に私のことが好きなのかしら」
 顎に手を当てて考えこむが答えは出ない。
 まあ、ゆっくり行こう。焦ったところでしょうがない。
 踵を返してリビングへ向かうルカは、どこか晴れやかな面持ちで鼻歌をうたった。
 彼女は己の鼓動が雷の激しさを失ったことに気づいていない。
 そして何より、初音ミクは雷を恐がってなどいなかった。