鹿
2022-07-03 15:58:23
22526文字
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スペース土斎連作集

土斎WEBオンリー開催おめでとうございます。七夕番外編ということで、スペース土斎です。
不死の呪いを受けて宇宙をさすらい続けるスペーストシゾーと、彼に様々な形で出会うスペースハジメサイトーのいろいろなお話。捏造しまくりなのでセイバーウォーズの設定とは異なる点が多々あります。
ツイッターにあげたものにちょこちょこ新エピソードを足した感じです。



 とある宇宙ステーションの近くを通りかかった時、トシゾーの脳裏にある種の予感が走った。トシゾーは直感系のスキルを有さないサーヴァントだが、長らくひとりで星の海をさすらった経験から、こうした感覚は案外馬鹿にできないものであることを知っている。彼は急遽艇の進路を変更することにした。

「ええ~アルトリウム払いしかできないんですか? しかも手数料たっか……
「申し訳ありません、検疫の済んでいない生物の持ち込みは……え、小動物の形はしてるがあなたの霊基の一部? すみません、その場合あなた自身も再検査ということに……
「はい、積荷が重すぎると……GUSOKUを運べるレベルの船となりますと料金は……

 宇宙ステーションはそのほど近くにある惑星の宇宙港であり、多くのサーヴァントが騒がしくしていた。トラブルはあれど、それはどこの星にもあるたわいもないものに見える。
「俺を呼ぶような星には見えねえな……
 この辺りの方まではまだ己の手配書が回ってきていないことは知っていたが、あまり長居をすればどこぞからガラの悪い賞金稼ぎが流れてこないとも限らない。ひと通りを見て回ったらそれでここを離れようと考えていたトシゾーだったが、ステーションの外縁部にいくつかの小型艇が取り付いていることに気がついた。
 近づいてみれば、それは艇のごく周辺にのみ重力制御を施して客席を置き、艇の厨房で調理した料理を提供する形式の店舗だった。
「スペース屋台か」
 シーズンごとに全宇宙規模の騒動が起こり、常に大小様々なトラブルの絶えないサーヴァントユニヴァースにおいて、一か所に店を構えて安定した客入りを望むのはなかなか難しい。こうやって人の行き来するところまで店を運ぶ方が、燃料費などを考慮しても割りがいいこともある。
「たくあんの店はねえもんか」
 屋台で提供されるものではないことはわかっていたが、それ以外に好物の少ないトシゾーが、どういうわけだかこの一帯を気にしてしまっていた。船外ディスプレイに映し出されるどこの星の何の肉か定かでないケバブや、とある惑星系をイメージしたタピオカの謳い文句を流し見ていると、ふと、気になるキャッチコピーが目に入る。
『伝統と信頼の天然素材ラーメン』
 その一文に呼び起された記憶は、トシゾーに予感を超えて確信を抱かせた。重力制御範囲内であることを示す暖簾をくぐり、一〇もない客席を見渡せば、果たしてそこにはトシゾーの予想の通りの男が座っていた。
 黒いサラリーマン風のスーツに鋼色の短髪、箸を持つため黒手袋を外した手には剣ダコがある。ならばと男の傍を見れば、今回はきちんと相棒の刀も共にリポップできたことを確認できた。なにせこの男、会うたび違う職業についていると言って過言ではなく、たまに獲物も違うものを使うことがある。トシゾーは刀こそこの男のアイデンティティと思っていた時期もあるので、初めてビーム銃を向けられた時には驚いたものだ。だが何をやらせても器用にこなすのも、またこの男らしいと今では思うようになった。
 そうして暖簾をくぐったきり動かないトシゾーに、サラリーマン風の男も気がついたようだ。ちらりとこちらを確認する目の下には見慣れた隈があり、ああまた割に合わない苦労でもしているのか、と思った。
「お客サーン、お好きな席にドゾー」
 気の抜けた声をかけられたことでトシゾーはようやく店内に自分とサラリーマン以外の人間がいることに気がついた。当然このラーメン屋の店主であろう、サーヴァントユニヴァースではどこでもよく見かけるモヒカン頭の男である。どこの星系かもわからない訛りの声に促されてひとまず席に座る。しかしトシゾーは特にラーメンを食べたいわけでもない。ひとつ開けて隣の席の男に用があるのだと再びサラリーマンに目を向けると、なんと向こうから話しかけてきた。
「お兄さん、何にするか迷ってる? 僕が食べてるのはね、チャーシューメン。オススメなんだって。天然マチョの肉だってさ」
……あぁ?」
 こちらの意図など全くわからない様子でヘラリと笑う男に、トシゾーは肩の力がガクリと抜けてしまった。
「チャーシューメンねー、ちょとオマチをー」
 その上言葉を探しているトシゾーを見て、店主は勧めを受け入れたと判断したらしく、さっさとラーメン作りに取り掛かってしまう。意外と良い手際で麺を茹で始めてしまうものだから、いらないとも言いづらくなってしまった。自分から名乗ったわけではないが、宇宙海賊が出された料理を無碍にすることは許されない。
「ハーイ、チャーシューメンおマチー。伸びナイうちにドゾー」
「店長さん、ごちそうさまー。いやあ、僕カップ麵じゃないラーメン食べたの初めてだけど、美味いもんだねえ」
 そしてトシゾーの麺が来る頃にはサラリーマンは自分の分を食べ終わって、素早く会計して出て行こうとしてしまう。トシゾーはとっさに男に声をかけた。
「ずいぶん慌ただしいな」
「はは、サラリーマンの辛いとこですね。もう休憩時間けっこうギリギリで……職場からここまで結構あるんですけど、珍しくってつい来ちゃったんです」
 軽く会釈して駆け出していくサラリーマンを見送り、ひとり残されたトシゾーは目の前の麺をすするしかなかった。
……加工の上手い合成肉だな」
「アリャーメズラシ、お客サン違いのワカル男だネー? 天然モノ食べたコトアル?」
 店主は特に悪びれもしなかった。トシゾーも別に文句を言いたいわけではない。
「ああ、昔な。これじゃ旨すぎるぜ、ありゃもっと固えし癖も強かった」
 ──それをなんとか食べられるように工夫した結果のひとつがラーメンのチャーシューだっただけなのに、向こうの星系じゃ『ホンモノのラーメンには天然マチョの肉を使うもの』って話にすり替わってるらしいですよ──
 そう笑って話したのは、七回前のリポップで出会った時のサイトーだった。各地を巡ってラーメンブログを全銀河に公開していたので比較的居場所をとらえやすかった。スペース屋台という店舗の形を教えられたのはさらにその三回前で、あの時行った店は蕎麦だった。とにかく麺類を好みやすいらしいと目ぼしいラーメン屋、そば屋にうどん屋、パスタの店まで探し回ったこともあったが、そういう回に限ってハンバーガーが一番好きですとぬかしていた。
 しかし、それらの記憶は今回のリポップには引き継がれなかったようだ。
「今時は本物の肉より処理のいい合成肉の方が美味いなんてな普通だが、この辺じゃ天然モノが未だにもてはやされてんのか」
「てゆか誰も食べたコトないオモウヨー。あの星キビシクてネー、生産も消費もテッテー管理、生まれてカラ死ぬマデの食事量計算して配給してルって」
 これはトシゾーにとって驚くべき情報だった。といってもその社会システムにではない。トシゾーの知るサイトー(という名前ではないこともよくあるが)は、自由を嘯く男であった。その割に誰かに雇われ使われる立場であることが多いのも事実だったが、自分の生き方は自分で選べる気概を常に持っていたはずだ。
「あのスーツ、アノ星の国民服デネー。最適年齢まで育ったサーヴァント皆サラリーマンにナッテネー、マザーコンピュータの振り分けタ仕事ずーっとやるラシヨー」
 あの男が、そんな窮屈な管理社会に耐えられる質だろうか。それともハンバーガーが好きな時があるように、刀ではない得物を使うことがあるように、それもトシゾーの思い込みの一つでしかないのだろうか。
 今回のあのサラリーマンはどんな男なのだろう。スープを飲み干しながら、トシゾーは走り去っていった男の背中に思いをはせた。
 
 それ以来トシゾーはそのラーメンの屋台に通うようになった。いつもは銀河警察だろうが来るなら来いという態度で飛び回っているが、ワープを繰り返して居場所を特定されぬよう、慣れぬ気を使いながら店に足を運ぶ。
「おう。また会ったな」
「ああ、お兄さん。こんにちは」
 許可も得ず隣に座る男へ向けるへらりとした笑みには、どうにも警戒心が感じられない。大概の場合のこの男は、笑顔を浮かべながらも常に相手を値踏みするような姿勢を崩さない男であったから、これもまたトシゾーには意外なことだった。
「それにしてもお兄さん、僕の顔覚えるの早かったですねえ。他の星から来た人、たいてい『この星の人間はみんな同じに見える』って言うのに」
……そうか? まあ確かに全員同じスーツだからな」
 今日はトシゾーと隣の男のほかにも何人か客がいたが、確かに皆同じスーツを着ていて、背格好もあまり差はなかった。なるほど、以前からずっと知っていたのでなければ、見分けられるようになるまで時間がかかるのかもしれない。トシゾーは話題を変えることにする。
「今日は休憩時間大丈夫か」
「大丈夫……と言いたいとこですけど、結構混んでるしまたギリギリになりそうですね」
「それなのに何度も来るんだから、よっぽど好きなんだな、ラーメン」
「好きですねえ、つってもここの以外は配給のカップ麵しか知らないんですけど」
 そう答えるサラリーマンの顔はそこまで不満そうにも見えなかった。こんなたくあんしかない船でやってられるかと頻繫に出奔していたあの時とはずいぶんな差である。
「うちの船員だったら反乱起こしそうな話だ」
「よそから来た人はよくそう言いますねえ。でも生まれた時からそうだと意外と気にしないですよ。むしろこの店に誘ってみても『マザーからの配給じゃない有機物を体内に入れるの怖い』なんて言われたりしまして」
「アイヨー、味玉ラーメンおマチー」
 サラリーマンの注文が来たため、その日の会話はこれで終わった。
 
 その日、人目につきづらい航路からいつもの屋台を目指していたトシゾーの船は、ゴーレムの群れに取りつかれてしまっていた。ギャラクシーゴーレムは宇宙を飛来する様々なスペース・デブリが体の素材となっており、発光、硬化、集合し巨大化、取り込んだ粒子の組み合わせが悪く爆発、果ては廃棄エンジンに火がつき無軌道飛行を行うなど、さして強くはないがとにかく面倒な存在である。
「邪魔だ……死ねえっ!」
 急速に舵を切ることで、何体かは慣性のまま飛んで行ったが、強磁力の物質を取り込んだ個体はまだ船の外壁にへばりついている。計器がいかれてはかなわんと、外に打って出ることにしたその時だった。
『すみませーん、聞こえますかそこの船の方~?』
 いつの間にか近づいていた船からの通信は、トシゾーには聞きなれた、しかし意外な声だった。
『ここらへんうちの哨戒区域なんで、こっちで処理しますよ。船内で待っててくださいね』
……わかった」
 トシゾーの返答を確認してからの行動は迅速だった。ゴーレムを掠めつつトシゾーの船には当てない正確な威嚇射撃。狙われて激昂するゴーレムどもを巧みに一か所に誘導。そうするうちに、船のデッキにはいつの間にか一人のサラリーマンが佇んでいた。その男の間合いを狂わせる足取りにゴーレムたちは惑い、太刀筋を追えない独特の抜刀に対応する間もなく斬られていく。ああ、何でも器用にやってみせるが、やはりこの男には刀が似合う。
「ああ、やっぱりラーメン屋の兄さんだったんだ。通信の声聞いてもしかしてって思ったんです」
「助かった。お前、星境警備隊だったんだな」
「うちの星に侵略するようなとこがあるわけもなし、こうやって暴れてるモンスター狩るだけですけどね」
「いや、いい腕だ。どうだ、うちの船に来ねえか?」
 そう言ったトシゾーに、サラリーマンは冗談だと思ったのだろう。まだ見ぬラーメン屋に行けるならそれも楽しそうだな、と笑った。
「まあでもまずはこのゴーレムの出現報告しないと。それにあんまり話し込んでるとサボってるとマザーに思われちまう」
「お前んとこの管理AIってのはずいぶん厳しいな、嫌になったりはしねえか」
「はは、まあ確かに。飲食店も娯楽施設も公営のしかないし、自由に使える金も時間も少ないとかよく言われてますね」
 よく言われてる、という言い方から察せられるのは、この男自身はさして不満と思っていない、ということである。
……おい、報告に行くんなら、こいつ持ってった方がいいだろ」
 トシゾーは、サラリーマンが斬り捨てたゴーレムの残骸のうち、特によく動いていたものの核のあたりを、携えていた銃で撃ちぬいた。唐突な行動にサラリーマンは目をむいたが、もっと驚いたのは残骸から飛び出た物体にである。
……これまさか、アルトリウムですか⁉」
「たまにいるイキのいい奴には、体内で濃縮されたのがあるからな」
 マザーとやらの覚えもめでたくなんじゃねえのか、というトシゾーに、サラリーマンは深く礼をして自分の船に戻っていった。
 
 
 そんなやり取りをした後日、サラリーマンはまた屋台に顔を出した。
「やあ兄さん、こないだはどうも」
「おう、世話かけたな。どうだった? 報告の結果は」
「このスペシャルチャーシューになりましたよ」
 器からはみ出しそうな大きさのチャーシューを指差して笑う。褒められはしたが、隊として獲得したものという扱いなので、特別報酬もあの日船に乗っていた全員で均等に分けられたのだという。トシゾーはそんな男の隣に座り、通常トッピングのみのラーメンを注文した。
「それでも高濃度アルトリウムだ、もう少し高値がついてもよさそうなもんだが……
 と言ったところでトシゾーは一つの可能性に思い至った。
「家族にほとんど持ってかれたか?」
「ふは、当たりです。まあ公営の映画館でも、ちびどもも喜んでくれたし、良かったです」
 なるほど、この男がマザーに対してあまり反感を持っていないのもおそらくはこれが原因だろう。このレベルで住民生活すべてを管理するAIなら、当然結婚相手もAIが最適と判断した相手であろう。
 そしてその相手はこの男にとって、引き合わせてくれた『マザー』に感謝するほどの人物だったのだ。
「アイヨー、ラーメンおマチドー」
 ラーメンを受け取ってからはしばし無言で、麵をすする音だけが二人の間に響いていた。
 
 あらかた食べ終わってカウンターに備えた水を注ぎはじめたところで、サラリーマンの方から話しかけてきた。
「そういえば兄さん、何の仕事してるんです? あの航路、デブリ多すぎで自動操縦もできないしモンスターは出るし、普通は使わないですよ」
「ああ、追われてるからな。銀河中の内戦を潰して回って、賞金首になってるんでな」
 トシゾーはただ正直に答えただけだったが、サラリーマンは思い切り水を吹き出した。
「げほっ、うえ、えええ?」
 冗談だろう、とでも言いたげな顔だった。トシゾーが真顔を崩さずにいると、不安そうに再度尋ねてくる。
「本当に?」
「ああ、このあたりだとまだ回ってきてないらしいが、手配書もあるぞ」
「へ、へえ。なんか、大変ですね」
 冗談だと思ったのか冗談だと思うことにしたのかはわからないが、それ以降サラリーマンはこの件について何も言ってはこなかった。それでトシゾーは、今回のリポップでサイトーには今までの記憶は本当に何一つ無いこと、この先も思い出すことはないだろうことを確信した。
(まあ、それならそれで構わん)
 この男と、ただ友人のように語らうなど、数千年の間にもほとんどあることではなかった。柄にもないことだが、トシゾーはこの緩やかな関係を、それはそれで気に入っているのだ。
 
 そういう穏やかな日々が終わったのは、それから一年もしないある日のことだった。
「兄さん、このサービス券もらってくれませんかね?」
 トシゾーが訝しんでいると、サラリーマンは察して言葉を続ける。
「いやあ、僕もうこの店には来れそうもないんで」
……どうした、急に」
「転勤です。まあこれも、サラリーマンの宿命ってことで」
 冗談めかしているが、これはおそらく彼の住む惑星がかねてより進めていた、別星系への開拓計画によるものだ。徹底した管理を行ってはいても、この星の天然資源が底をつき始めていることはいかんともしがたく、このままの支配を続けてもジリ貧でしかない。まだ見ぬ新天地に希望を賭けて……つまり、この蒼輝銀河で未だ開発の手が及ばないような、命の保障のない僻地に進出するということである。
「参っちまいますね。上は栄転だなんて言ってますが、もらったボーナス使うとこがあるかどうか」
 開拓団の人選は、これまたマザーコンピュータの計算結果だろう。この男の強さを見込んだのか、はたまた失っても惜しくはないと判断されたか。どちらにせよ、AIの判断などトシゾーにとってはどうでもいいことだ。
(ここで、攫っちまうか)
 突如として自分を誘拐した賞金首を、恨むかもしれない。何の気負いもない笑顔を向けられることはなくなるかもしれない。しかしそれは今までにもあったことだ。このまま航海ルートすら未開発の僻地に行かせるよりは、思案するトシゾーに、いつもと同じ緩い声がかかる。
「まあ、僕は無敵のサラリーマンなんで。どこでもきっとやってけますよ。家族も一緒ですし」
 それは、かつて幾度となく見たサイトーの笑顔そのものだった。
 いつもそうなのだ。記憶があろうとなかろうと、どんな立場でどんな風に生きていようと、彼はトシゾーの知るサイトーと同じ男だった。
 だからトシゾーは、迷っている彼の手を引くことはできても、行先を自分で決めた彼を阻むことは、この数千年ついぞできたことはない。
……そうか、寂しくなるな」
 今までのサイトーには言わなかったし、言えなかった言葉だった。けれどきっとこのサラリーマンには、別れの際のよくある言葉にしか聞こえないのだろう。
 
 サラリーマンとはそれきりだ。もらったサービス券を使うこともなく、あの店のどころかラーメン自体食べていない。もともと好物のたくあん以外、食事はまとめ買いした固形レーションで済ませていた。ひとり銀河を駆けるいつもの日常にはそれで十分で、トシゾーはそれを不満に思うことはない。
 
 そして数十年経ったある日、とある惑星におけるクーデターの情報を得た。あのサラリーマンが、開拓民として向かった星だった。
 
 はじまりは、苦労に苦労を重ねてようやく新天地にたどり着き、文字通り死に物狂いで惑星資源を開発した開拓団から、母星は我々を切り捨てたのだ、なぜ従う必要があると主張する者が現れたこと。彼らは自治政府を樹立、母星に対し独立を主張した。暴力も辞さぬとまで言う者は最初は多くなかったようだが、新たに採掘された資源に他所の星系の者たちが目を付け、独立政府の活動を煽りだしたことから状況が悪化し始めた。自治政府内でも派閥争いが起き、独立を認めない母星は鎮圧のための軍を送り、捨てられてなお母星を支持し続けた開拓団の者たちもやがて武器を取り……対立は泥沼化し、せっかく手に入れた惑星資源は終わりの見えない戦闘に費やされ、もはや勝者も敗者もない地獄ばかりが広がっていた。
 トシゾーは己に向かってくるものを陣営の区別なく焼き払いながら、ひとりの男とその家族の痕跡を探した。しかしとうとう見つけられないまま惑星から人の姿がなくなっていく。あの男は戦況が悪くなる前に逃げ出せたのだろうか、あるいはもう……
 全てを焼き尽くしながら、トシゾーはあの日別れた男の笑顔をぼんやり思い出していた。
 
 
 それからさらに時が過ぎたある日のこと。オンボロの小型艇を操り宇宙を行くトシゾーの目にあるコロニー、いや、その周辺部に浮かぶ屋台が目に入った。
 ある種の予感があった。トシゾーは迷うことなく屋台に船を向ける。重力制御圏内に降り立った瞬間、耳になじむ声が響いてきた。
「ごちそうさま~。美味しかったよ」
 果たしてそこにはトシゾーの思った通りの男がいた。
 しかし、のれんをくぐって出てきた顔を見た瞬間、思った通りの男ではないこともわかった。
……え」
 男は鋼色の髪の毛を、肩の辺りまで伸ばしている。あのサラリーマンは伸びると癖が強くなるので面倒だと言い、短く切っていた。
「副長……?」
 うねった長髪の男は、かつてのトシゾーの肩書を知っていた。当然、あのサラリーマンは知るはずもない呼び名だ。目に涙を浮かべ、顔をくしゃくしゃにして笑う顔には見覚えがあり、またここ数百年見ていない顔でもあった。
「あんた、なんでこんなとこに、ああくそ、カッコつかねえな」
 この男が自分の部下であった頃のことを覚えているのは、いったいいつ以来のことだろうか。腕も頭も良かったが、喧嘩っ早くいつまでも青臭さの抜けないところのある男だった。
「ずっと、会いたかったです、副長」
……ああ、俺もだ」
 その言葉に嘘はない。再会を願われるのも、この上ない喜びに間違いなかった。
 しかしそれは、あの日のサラリーマンは最早失われたことも意味していた。
 
 トシゾーが諦めない限り、サイトーには何度だって出会うことができる。しかし一人として同じサイトーは存在せず、出会うことはいずれ彼を失うということでもあった。リポップごとに胸に違う形の穴をあけるような行いでしかないのかもしれない。
……それでも俺に、諦めるって選択肢はねえがな)
 己の胸で泣く男の背中を撫でながら、トシゾーは思う。いずれまた、心にこの男の形の穴が開くのだとしても、今この男を抱きしめない理由にはならないのだ。