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鹿
2022-07-03 15:58:23
22526文字
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スペース土斎連作集
土斎WEBオンリー開催おめでとうございます。七夕番外編ということで、スペース土斎です。
不死の呪いを受けて宇宙をさすらい続けるスペーストシゾーと、彼に様々な形で出会うスペースハジメサイトーのいろいろなお話。捏造しまくりなのでセイバーウォーズの設定とは異なる点が多々あります。
ツイッターにあげたものにちょこちょこ新エピソードを足した感じです。
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「叡智の結晶で貴方の宇宙にさらなる煌めきを。スペース・アイグラス・マーケットにようこそお客様~」
店内に舞い込んできた黒い影に店員が声をかける。影は、癖のある黒髪と険しい目つきの、ヒト型男性サーヴァントであった。
「
……
ああ、悪いがこれ、預かってもらえるか」
男のまとった黒い外套には、店に入る前に払ったのだろうが、細かい粒子がわずかに残っている。受け取った店員も見覚えがあるそれは、このマーケットの存在するコロニーに、自動運転の定刻船ではなく、わざわざマニュアル操作の小型艇に乗ってやって来る物好きが使う発着場の砂塵である。
「はいはい、本日はどのような眼鏡をお探しで? 個人用小型艇をお持ちの方なら、こちらの新商品はおすすめですよ。宇宙船のモニターと同期できるようになっておりましてねえ、周囲の宇宙船運航状況や彗星、デブリの情報を取得、最適なルートをレンズに表示することが可能なんです」
銀河に住む人間の肉体が全てエーテルに置き換わった蒼輝銀河において、視力の低下というのは滅多に起こる現象ではない。衰えやすい肉体を使っていた頃の視力矯正器具は、遥かな時の流れの中で視覚情報補助デバイスとしての役割が大きくなった。
「いや、そういうのはいい」
「では、戦闘補助用眼鏡ですか? それならこちらの弱点透視などご好評いただいておりますね。他にも存在限界観測、こちら範囲は限られますが未来視などもご用意して
……
」
「逆だ。見るためじゃねえ、隠すもんが欲しい」
そう言って男はサングラスをひとつ手に取った。
そう、眼鏡の用途はより良く見るだけではない。強すぎる宇宙線や、混在し予想不能な挙動をするアルトリウムなどの粒子を遮り、目を保護する役割もある。あるいはもっと単純に
……
「
……
そうですねえ。目元の印象は強いものですから、色付きのグラスをつけるだけでもずいぶん違って見えるかと」
「指名手配の賞金首だってわからねえくらいにか?」
戯れのようにサングラスをかけた男はそう言ってからからと笑う。
「ああ、それなら、わからないかもしれないですね」
顔を隠しているからというよりは、その悪戯小僧のような笑みが、手配書の厳しい表情とはあまりにかけ離れているためだ。
「いやあ、理解が及ばず失礼しました。まさかかの宇宙海賊が、身を潜めて逃亡生活を選択するなんて思いませんでしたから」
宇宙海賊スペーストシゾー。どこの星のどんな勢力にも属さず、どんな戦いでも誰の味方になることもなく、ただ平等に焼き尽くして去っていく。そんな男でも何かを恐れて自分の存在を隠したいものだろうか。
「俺もこんな男前の顔を隠したい訳じゃねえさ。けどどうしても欲しいのがひとつあってな」
「はあ、それは一体」
「お前がかけてるやつだ」
「は」
サングラスを外した男は、素のままの瞳を真っ直ぐ店員に向けた。
「
……
ええと、このフレームですかね、それならそちらのコーナーに同じものが」
「とぼけんな。それ、認識阻害機能付きの変装用だろう?」
目を逸らす黒いスーツの店員に、男はゆったりと歩み寄る。
「何にも覚えてねえなら俺も見逃すつもりだった。けどわざわざ隠すってこたあ、そういうこったろ?」
男の瞳には、漆黒の中に綺羅星のような輝きがある。目を合わせてもいないのに、自分はそう知っていた。この宇宙に転生した時から。
「
……
でも今の僕は、単なるサラリーマンなんですよ。前回までの転生で自分がどうしていて、なんであんたのこと知ってるかもわかりません」
知っているが知らない男。会ったことも話したこともないのに、いつか出会う気がしてならなかった男。
「会ったところで俺は何がしたいのかも、あんたがどうしたいのかもわからない」
俯く顔に、男の手が近づいてくる。
「それなのに、これを外してあんたのこと見たりしたら
……
きっと、忘れられなくなります」
遮るものもなく星を見て、目に焼きついてしまうように。
「ああ、そりゃあいい」
悪巧みをするような顔をした男の手が、ゆっくりと眼鏡を外していった。
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