鹿
2022-07-03 15:58:23
22526文字
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スペース土斎連作集

土斎WEBオンリー開催おめでとうございます。七夕番外編ということで、スペース土斎です。
不死の呪いを受けて宇宙をさすらい続けるスペーストシゾーと、彼に様々な形で出会うスペースハジメサイトーのいろいろなお話。捏造しまくりなのでセイバーウォーズの設定とは異なる点が多々あります。
ツイッターにあげたものにちょこちょこ新エピソードを足した感じです。

「あんた、なんでこんなことしてんだい?」
 答えが返ってくるとは思っていなかった。元よりこちらも本気で会話がしたかったわけではない。この随分旧式の小型艇に、銀河警察の仲間が突入の準備を整えるまでの時間稼ぎ。最低限注意を逸らせればそれでよかった……しかし、星と星の間の無限の暗闇にも似た髪と目の男は、意外にも素直に口を開く。
「俺が、ここにいると示すためだ」
……どこの、誰に?」
 宇宙海賊スペーストシゾー。内乱の起きた星に現れ、どちらの勢力も焼き尽くす。当然、この銀河の誰の味方というわけでもない。さりとてテロリストと呼ぶには思想が見えない、否、誰にも理解できない。次の星へ行くための燃料と食料を(律儀にも両勢力から等量)持っていくので、銀河警察が賞金をかける際、とりあえず海賊と呼んだだけの存在である。
「この銀河のどこにいるかも、どんな立場であるのかも、いつ現れるかもわかりゃしねえ。なら、どこであっても知れるようにしてやらにゃならねえだろ?」
「そんな、誰ともつかねえやつのために?」
「まあリポップてのはそういうモンだからな。俺は縁遠くなっちまって随分経つから、もうどんな感覚かも忘れちまったが
 まさしく狂人の行いである。先の全宙を巻き込んだセイバー化騒動でも、この男は変わらずバーサーカーのままであったと言う。そんな誰に理解されることもない狂気の沙汰を、噂によれば二千年以上ずっと続けている。
「人格を引き継いでようと一度死んじまったら記憶だって無くなる、転生先によっちゃ立場も変わる、そんなのはもう別人でしょうよ。そんなやつのために、この宇宙のどこに属することもできずに、たった1人で彷徨うって?」
「俺がいる限り、ここがスペース新選組だ。何の問題もありゃしねえよ」
……そのスペース新選組自体、もう何のためにあった組織なのか、あんた以外誰がいたのかさえ、わかるやつはいなくなっちまってるんですよ」
 ああそうだ、彼を追う銀河警察も賞金稼ぎ達も、誰も彼のことをわかりはしない。銀河中にその顔を知られていたとしても、彼はただひとりなのだ。俺は手配書で初めてこの顔を見た時から、なぜかそのことがどうにも腹立たしくて、見過ごすことができなくて、気がつけば銀河警察に就職していた。
「この宇宙に不滅のものなんて無いのに、あんたひとり、ずっと変わらずいるなんて、虚しくはないんですか?」
「そうでもねえよ」
 そう言って男は表情を和らげた。険のある目つきが緩められると、顔の造作が整っていることがことさら意識されて、なぜか、ひどく動揺してしまう。
……お前のその顔も変わんねえよ」
らしくなく小さく呟いた言葉は俺の耳には届かなかった。そして何と言ったのか聞くこともできなかった。

 唐突に鳴り響く轟音。それと共に重力制御が効かなくなる。時限爆弾か何かが船に仕掛けられていたのだと気付くと同時に、手を伸ばして何とか壁にしがみつく。この男を逃してはならないと、ほぼ無意識に身体が動いていた。
「ってめえ⁉︎」
「ああ、脱出ポットはそこだ。オンボロだが、そこの惑星にたどり着くくらいなら十分だろう」
こともなげに言い放つ男は、しかし自分はポットの方に近寄る素振りすら見せなかった。
「何、俺の霊基は特別仕様なんでな。このまま落っこちたところで死にゃあしねえよ、お前はひとりで脱出して、仲間を集めてまた来てもいい。こんな目にあってまで狂戦士ひとり追うなんざ割に合わねえって諦めたっていい。自由だろう、お前は」
 ああくそ!なんだその顔は!誰からも忘れられ、全てを焼き尽くしながら、宇宙をただひとり駆ける男が!何なんだ、その、愛おしいものでも見るような目は!
……ざっけんな!もう二度と、ひとりで行かせてなんかたまるかよ!」
 とうとう男は声を上げて笑い出した。その人の気も知らない態度が、俺はそれこそ生まれる前から苦手だった。
「そんなに熱烈に見つめてもらっちゃあ、今回は二百二十年、いやそろそろ二百三十年だったか⁉︎待った甲斐があったってもんだ!」
 覚束ない足を無理矢理動かして、からからと笑う男に手を伸ばす。銀河に住む人間の身体がエーテルに置き換わろうと、どうしてか変わらず脈打つ心臓がうるさくて仕方ない。
「お前がお前である限り……何千年だろうと飽きる気はしねえよ!」
 名乗ったはずのない俺の名を、男が小さく呼んだ気がした。