玲緒
2021-04-27 22:16:39
11393文字
Public
 

sansbyweek2021 まとめ

sansbyweek2021に投稿させていただいた小説をまとめています!


 地上での暮らしは、大変だ。地下世界と違って気候の変化も激しくて、環境に適応しきれなくて調子を崩すものや、耐えきれなくて地下へと帰っていくものもいた。何とか環境に適応できても、ニンゲンに対する恐怖心を抱いたり、向けられる負の感情にあてられ苦しんでいるものも少なくない。
 この店の主であるこの男も、そんなモンスターの一人だった。

4日目:酔う

……すまない……
「いいって、気にすることじゃないさ」
「しかし……
「あんたは溜め込みすぎなんだ」

 酔ってカウンター席から動けなくなってしまったグリルビーの背を擦りながら、心配ないと声をかける。

 最初は、互いに一杯だけと言いながらグラスに酒を注いで飲んでいた。でもグリルビーの方が珍しくもう一杯飲むと言い出して、気がつけば一杯、また一杯とかなりのペースで飲み進めていた。流石にそろそろマズイのではと思って止めに入ったものの、その時にはまともに顔を上げられないほどに酔いが回っていたのだった。
「もう少しここで待ってな? とりあえず換気だけはしないと……
 そう言ってサンズは席を立った。その拍子に大きく息を吸い込んでしまい、気化したアルコールの匂いに一瞬ふらつく。
 炎のモンスターが摂取したアルコールは、その大半が気化して店内に充満している。スケルトンの自分だからなんとか動けるものの、他の客がいたら匂いだけで参ってしまいそうなほどに酒くさかった。
……
 店の窓を開けて回り、中の空気を入れ替える。『夏』という季節も終わりにさしかかっているのか、日中の生暖かい空気とは違う……カラッとした涼しい空気が店内に入ってきて心地よい。
 一通り窓を開けてから彼の隣に戻る。僅かながらに入り込む風に、彼の炎が緩やかに揺れ動く。しかしまだ苦しいのか、吐き出した息と共に炎が爆ぜるような音を立てた。
 他のモンスター相手なら水を飲ませてやるところなのだが、炎でできた身体の彼にはそれができない。そもそも何を飲めるのか、サンズには見当もつかなかった。
 こういう時、何もしてやれないのが悔やまれる。内臓もなければ肉体もない、骨しかないこの身体では、酒による目眩という感覚も、吐気も、身体が火照るという感覚も、よくわからない。わからないから、カウンター席に突っ伏し炎を燻らせる彼の心情を、しっかりと汲み取ってやることができなくて……
……ごめんな……
……?」
 僅かに顔を上げたグリルビーと目が合った気がして、。
「オイラ、こういう時どうしてやればいいのかわからなくて」
 せめて、少しでも楽になれるように、と相手の大きな背中をさすってやる。ゆっくり、優しく、あやすように……。それが心地良いらしくて、ほっと息をつく音が聞こえた。
「お前、が……
 低い声が、炎の爆ぜる音に混じって聞こえてくる。
……お前が、居てくれるだけで……充分だ……
「!」
「これからも、傍に……居てくれ……
「そ、それって」
 どういう意味だよ、と尋ねようとするも、グリルビーが寝息を立ててしまっているのに気づいて聞くことができなかった。