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玲緒
2021-04-27 22:16:39
11393文字
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sansbyweek2021 まとめ
sansbyweek2021に投稿させていただいた小説をまとめています!
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これから語る物語は、今よりもずっと昔のお話。
まだ、グリルビーが地上に店をかまえて間もない頃。まだサンズとグリルビーの関係が、ただの店主と常連客という間柄だった頃の
……
地上にある『四季』というものが、まだモンスターたちにとって馴染みのないものだった頃のお話である。
2日目:Run!
季節は本格的な『夏』が来る少し前のこと。
土地が変われば客層も変わる。客層が変われば、当然ながら必要な食材も、アルコールもリキュールも変わってくる。消費される量が増えたり、新たなメニューを取り入れることもあった。リクエストを受けることに関してはあまり乗り気ではなかったが
……
それをきっかけに新たな顧客を得られることもわかったので、最近では少しずつ受け付けるようにはしていた。
収納棚を開き、在庫を確認する。普段の買い出しリストに加えて、減りの激しいものをメインにピックアップし、メモをとる。思ったよりも多い量に、頭の炎が僅かに揺らいだ。一人で持てない量ではないが、両腕で抱えなければならないのは安易に想像できた。
「
…………
」
これだけの種類を買うとなると
……
いくつかの店舗を回らなければならない。しかし、モンスターである自分が入店を許可されている場所はまだまだ少ない。許されている店舗を選んで行くと、確実に遠出をすることになる。
正直な話をするならば、あまり長時間、外を出歩きたくはない。だが、購入しなければ確実に店の営業に支障が出る。
「
……
行くしかない、か
……
」
思わず漏れたため息に、炎の爆ぜる音が混ざって響いた。
*
最後の店舗で、必要なものをカゴに入れていく。耐火性能のある黒革の手袋をつけてはいるが、体温に気を付けなければ品物に熱が伝わってしまうので、買い物の時はどうしても緊張する。
ニンゲンの社会に流通する食材は、保存に最適な気温や日の当たり具合が存在するらしい。特に温度管理に関しては気を付けなくてはならず、あまり温かい状態にしてしまうと劣化し『腐る』という現象に見舞われる。そうなると
……
客に提供してはいけないモノに変わってしまうのだそうだ。
食せばすぐに魔力として吸収されるモンスター社会に流通した食材とは、似ても似つかぬ『食材』の扱いには本当に苦労をさせられている。特に、冷やされた状態で保存されている『食材』の扱いは苦労を通り越して恐怖すら覚える始末だ。
メモを確認し、取りこぼしがないことを確認してからレジに目をやる。たまたまそういう時間帯だったのか、レジには大勢のニンゲンたちが順番待ちをしていた。
モンスターの入店を許されている店とはいえ、まだモンスターの存在が完全に受け入れられているわけではない。友好的なニンゲンも居てくれるが
……
職業柄だろうか
……
心のどこかに恐怖心を抱いているのは表情を見ればわかってしまう。
「
……
」
炎のエレメントである自分を怖がるニンゲンが居る以上、迂闊には近づけない。早く帰りたいという気持ちを必死に抑えながら、レジ待ちをするニンゲンの数が減るのを待って最後尾に並んだ。極力、距離を取るようにして
……
。
「あら、マスター。いらっしゃい」
レジにカゴを置くと、たまたま顔を覚えていてくれたのか、対応してくれたニンゲンが声をかけてくれた。
「こんな遠くまで買い出しかい?」
「
……
」
バーコードを通しながら親しげに話しかけてくれるニンゲンにどう答えてよいかわからずコクリと頷く。
「早く帰った方がいいよ? 夕立が来るから」
「
……
?」
聞きなれない単語に目を丸くするも、表情が伝わらなかったのだろう。ニンゲンは黙々と会計作業を済ませていた為、こちらも聞き返すことができぬまま店を出ていった。
両腕に荷物を抱えて歩くこと数分。ふと視界が薄暗くなり始めた事に気がついて空を見上げた。自分の店を出た時には青かったはずの空は、今は灰色とも黒とも言い難い色の雲に覆われていた。
嫌な予感がする。そう思った直後だった。
頭上から、ぽつり、ぽつりと滴が落ちてきて、すぐに大粒の雨へと変わったのだ。
「!」
顔に当たる雨粒が音を立てて蒸気へと変わる。その度に、顔に鋭い痛みが走った。
もはや考えている時間などない。購入した荷物を抱え直し、雨をしのげる場所を求めて全速力で走り出した。
徐々に激しくなっていく雨足に衣服が濡れては身体の炎で熱せられて、乾くと同時に痛みが走る。ウォーターフェルと違って、アスファルトの地面は雨を吸収できずに水たまりを作り、地を踏みつける度に弾かれた水滴がスラックスを濡らして痛みを与えてくる。
早く、雨やどりのできる場所を探さなければ
……
。
しかし、考えることはニンゲンも同じだった。狭い軒先には雨に濡れるのを避けるように集まったニンゲンたちが身を寄せあっていて、炎でできた身体の自分では近寄る事ができない。かと言って、このまま雨に打たれ続ければ確実に塵になる。
「ぐ
……
!」
じわじわとHPが削れていく感覚に焦燥と恐怖が募る。全身を襲う痛みに耐えられず、とうとうその場に膝をついてしまった。
万事休す、か
……
そう思われた、まさにその時だった。
「グリルビー!」
唐突に、頭上から聞き慣れた声がしてハッとする。
顔を上げた先には、なぜか晴れ空のような青色をまとった見慣れた常連客の姿があった。
「バカやろ! 掴まれっ!」
懸命に伸ばしてくるミトン手袋をはめた小さな手。必死な形相で見下ろしてくる彼に驚きつつも、反射的にその手を取った。
*
その後のことは
……
正直に言うとほとんど覚えてはいなかった。ただわかったのは、あいつの
……
サンズお得意の『ちかみち』を使って自分の家まで連れ帰ってもらえたことと、暖炉に灯された魔法の火の中に投げ込まれたらしいことだけだった。
「
…………
」
パチパチと薪が爆ぜる音に意識が浮上する。すっかり低くなってしまった視線の先に複数人の足が見えた気がして、自然とそちらに意識が向いた。
ピンク色をしたスリッパと、ニンゲンの子供の素足と、紫色のローブに隠れた白く大きな獣の足
……
どうやら彼一人では対応しきれなくて応援を呼んだらしい。となると、今いるこの炎は
……
あのお方の魔法でできたものだろうか。
ぼんやりとする意識の向こうで、不安げな彼の声が聞こえる。
「じゃあ
……
もう大丈夫なんだな?」
「ええ。回復までには少し時間がかかるけれど、火の中に居れば安全よ。その代わり、薪をくべるのを忘れないであげてね? 回復するまで、絶対に火を絶やしてはダメよ?」
「わかった
……
」
それじゃあ、と別れを告げる声と共に、足音が遠ざかっていくのが聴こえる。
ピンク色のスリッパは、足音が聞こえなくなってもなお、その場から動くことはなかった。その代わりに「もっと早く気づいてやれれば
……
」という辛そうな声だけが、火花の音に混じって聴こえてきた。
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