玲緒
2021-04-27 22:16:39
11393文字
Public
 

sansbyweek2021 まとめ

sansbyweek2021に投稿させていただいた小説をまとめています!

 今日はいい日だ。雲も少なく、日差しも柔らかく、暖かい。こんな穏やかな日には……二人で店の買い出しに行くのが一番だ。

1日目:ありがとう

 夜営業に必要な食材やアルコール、リキュールなどを書き出したメモを片手に、一足先に店を出る。今日の日差しは骨しかない身体でも暖かいと感じられるほどに穏やかだ。
 地上に出てからかなりの年月を過ごしてきたが、何度体験してもこの『春』と呼ばれる時期の陽射しは柔らかくて心地が良い。
 暖かな太陽の光で温められた草木や土の匂いを胸いっぱいに吸い込み身体を伸ばす。がらんどうな胸腔に浮かぶソウルが新鮮で暖かな空気で満たされる、この感覚がサンズは好きだった。

「待たせた」

 背後から低くもよく通る声が聞こえてくる。振り向けば、そこには暖かな日差しの下で緩やかに炎を揺らすマスターがいる。

「準備できたか?」
「ああ」
「んじゃ、いくか」

 上目遣いで笑いかければ、マスターはこくりと頷きサンズと並んで歩き出した。


 モンスターたちが地上に移り住んでから、幾度目かの春。未だニンゲンとモンスターとの間に見えない壁はあれど、最近ではそれなりに距離を保って暮らすことができるようになってきた。隣を歩く長身のモンスターがマスターを務める店もまた、ニンゲンとモンスターの垣根を越えて賑わいを見せるようになってきている。

「あ、マスターだ! おはよー!」
「あら、マスター。今日は二人でお出かけかい?」
「グリルビー、今日は何時から店開けるの?」
「サンズってば、ツケをため過ぎて買い出し手伝わされてやんのー」

 街を歩けば種族関係なしに声をかけられ、仲の良い常連客にはからかわれる日々。一見すれば穏やかなこの日常も、当たり前の光景になったのは本当に最近のことだ。
 地上に出てきたばかりの頃など本当に大変で……まさかこんな日が来るなんて、にわかには信じられなかった。それほどに、この地上という世界はモンスターたちにとって未知の世界であり、ニンゲンという生き物は複雑な存在だった。

……サンズ……

 呟く様に呼ぶ声に反応して、視線を上げる。
 身体が炎でできている彼は、骨しかない自分に負けず劣らず表情が読めない。ほんの僅かな炎の揺らぎだとか、空気が熱せられて発する匂いだとか、火力や色合い、そして彼自身の声のトーン。付き合いの長い自分だからこそわかる些細な変化。それが彼の……グリルビーの表情なのだとサンズは思っている。

「ありがとう」

 唐突に言われた感謝の言葉に首を傾げつつ、改めてグリルビーの様子を窺う。
 穏やかに燃える炎は、優しいオレンジ色をしている。揺らぎ方を見るかぎり、感情を揺さぶられている様子はない……緊張しているわけでも、照れているわけでもない。むしろ、その逆だろうか……とても優しそうな、楽しそうな、そんな感じ。ただ共に歩いて、街中で声をかけられて、からかわれたりしながら買い出しに出かけているだけなのに。

「どうした? 突然、改まっちゃって」
「別に、言いたかっただけだ」

 そう言うと、僅かに口と思われる部分の裂け目が緩やかに弧を描く。

……

 眼鏡の奥、僅かに浮かぶ白っぽい部分が柔らかく細められていく様が見えた気がして、サンズは眼窩に浮かぶ白点を僅かに揺らした。