ナガレ
2020-11-21 21:46:08
12245文字
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揺れるゆりかご(ぶぜまつ) ※ソルサクパロ

ソウル・サクリファイスというゲームのストーリーの一つ「魔法使いの試験篇」を下敷きに、捏造や脚色しまくって書きたいところだけ書いたパロディ。わかりにくかったらすみません。話の都合上、殺し合って死に別れます。元ネタのゲームも死に別れてからが本編なので、ご理解ください。


翌日、二人はヴァルハラ修道院に到着した。かつての戦争では、ここの修道女達がその身を捧げて戦士達の傷を癒やしたという。しかし今はすっかり朽ち果てており、中庭の木々の枝にできた淡く光る繭だけが彼女達が存在した事を示していた。この繭は身を捧げた修道女達の成れの果てだ。祈る事に疲れてしまった彼女らと、傷ついた心の癒えなかった戦士達の魂が今もゆりかごの中で眠っている。

「暴食の魔物、ハーピー……

試験の課題は二度目の人型魔物の殺害要請。大聖堂の真ん中には、丸まると太った鳥の体に淑女の顔を持つ魔物がいた。これが食という欲望に飢えた魔物、ハーピーだ。

「飛ばれると面倒そうだ」
「よし、まずはあれの翼を落とすぞ」
「わかった。僕は援護に回ろう」

松井は豊前の指示に従うことにした。ハーピーの呪部は頭と翼なので、この二箇所を解体すれば弱体化する。松井は供物を持ち替え、投擲魔法の準備をした。後から血魔法を使う事を考え、体力はできるだけ温存しておきたかった。
松井が柱の陰で供物を構えた事を確認すると、豊前はゆっくりとハーピーに近づいていった。――豊前の歩みが止まった。空気を切り裂く不協和音の咆吼、ハーピーが豊前に気づいたのだ。豊前はすかさず魔法を発動させた。

「とうっ!」

突撃魔法で空中を走るように飛んだ豊前の蹴りがハーピーの翼の付け根を直撃した。付け根を踏み台にして方向転換し、そのまま豊前はハーピーに飛び乗った。乗った豊前を振り落とそうと地団駄を踏むハーピー。松井は鉄風車の破片から力を引き出し、鳥の脚に向かって投げつけた。脚に何かが当たった事に気づいたハーピーの動きが止まる。供物を持ち替えた豊前が、熱を帯びた刃を思いっきり振り下ろす。そして一言。

「脂肪が厚くて切り落とせねー……

さすがに一撃では落とせなかった。それでも二度、三度と攻撃を繰り返すと、熱で脂肪が溶けてきた。あと数回でいけそうだったが、ハーピーが飛び立とうと翼をばさばさと振り始めたので、豊前は急いで飛び降りた。俯瞰で食べ物を探しているのだろうか。ハーピーはきょろきょろと見回すと、頭を少し後ろに引いた。その動作に、松井が来る!と叫んだ。

「助かった!」

豊前の飛び降りた位置にハーピーが急降下してきた。豊前は間一髪で回避した。この動きは見切れそうだ。援護に回っていた松井も合流し、豊前から借りた斧の破片で剣を作り出してダメージを与えていく。ダメージが蓄積し、ハーピーの脚や腹から血が噴き出してくる。その時、不意に高笑いが聞こえてきた。

「避けろ!食われっぞ!」

ハーピーの高笑いは暴食の合図。豊前もそれくらいは知っている。豊前が松井を突き飛ばした。

「豊前!」

松井を突き飛ばすために前に出た事で、豊前はハーピーの暴食――吸い込みの射程内に入ってしまった。豊前の姿が一瞬にして松井の目の前から消えた。しかしこれはチャンスでもある。腹の中に獲物が入ったことで、ハーピーの暴食が止まった。ここからしばらくは動けないはずだ。松井はハーピーに近づくと剣から血魔法に切り替えた。単純な攻撃力なら血の方が高い。松井の手から血の斬撃が放たれた。

……ちっ。油断した」

暴食と言っても、ハーピーは食べた物を消化できない。だから常に腹を空かせているのだ。松井が斬撃を当てていると、豊前がハーピーの腹に開いた穴から吐き出された。

「すぐ回復を……
「でーじょうぶ。まだいけっから。それに、治癒の種はお前の方が使うだろ?」

体力を削られたが、今すぐ回復しなければならない程ではない。むしろ血魔法を使った松井の方が体力を奪われているぐらいだ。二人はハーピーの視界から外れるように背後に回り、物陰で回復魔法と手短な作戦会議を行った。作戦変更、遠戦でもう少し敵の体力を削ってから翼を落とす事にする。豊前は爆破魔法に切り替えた。

「離れたところからあれの体力を削る。翼はその後だ」

爆破弾を投げ込む豊前。呪部の頭に当たった。その間に松井は手数で足を狙う。距離を取ってしばらく遠戦を続けていると、ハーピーの動きが目に見えて悪くなってきた。

「僕が囮になる」
……無理すんなよ」
「大丈夫。豊前こそ失敗しないで」

ハーピーが松井をロックオンした。攻撃を避けながら、壁際に誘導する松井。背後に回った豊前が再びハーピーに飛び乗り、上段から熱刃を叩き込んだ。

――よ、っと!」

解体成功。ハーピーは両の翼を無効化されたが、それでも這いずりながら囮の松井に向かってくる。

……これは僕の間合いだ」

血魔法は松井が最も得意とする魔法。体当たりのような突進を躱して右腕を前に差し出すと、松井の呪血がハーピーに襲いかかった。豊前も攻撃の手を緩めることなく攻めている。松井の顔から血の気が失せていく。呪血もそろそろ撃ち止めになりそうだから一度回復がしたい。だが、離脱する隙が無い。そろそろ視界が霞んできた。

「こっちじゃ!」

松井がもう限界だと思ったその時だった。死角からの不意打ち、熱の剣を大きく振りかぶった豊前が、力任せにハーピーの首を落とした。――課題は達成した。松井が目を開けて立っていられたのもここまでだった。

「でーじょうぶか?」
……
「あとはやっとくから、少し休んでろ」

倒れた松井を覗き込む豊前。血を流しすぎた事で意識が朦朧としている。それでも松井には分かった。

……豊前、やっぱり君は魔法使いに向いてないよ)

豊前の左腕がほんのりと光っていた。魔物の気を取り込んだ証拠だ。魔物に身を落とした人間を生贄にせず、今度も救済したのだろう。今はまだアヴァロンも黙認しているが、度が過ぎれば掟破りとして刺客が放たれる。豊前は死にかけた松井を二度も助けた。このまま松井を見殺しにして××にしてしまえば、豊前は課題を達成できただろうに。







……二人して生き延びてしまったね」

互いの肩に頭を預けるように寄り添ってから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか。沈黙をかき消すように松井がぽつりと呟いた。二人ともここまで生き残ることができた。だが、豊前も松井も喜べなかった。試験はまだ終わっていないからだ。
まだ自分達は生贄として「あるもの」を捧げていない。松井の隣に座る豊前の顔が歪む。松井も悲痛な面持ちだった。ここで試験を放棄すれば、自分達はどこかで見ているアヴァロンの使者に始末されるだろう。豊前にも松井にも、魔法使いを志す理由がある。だから避けることはできなかった。――この、不条理で無情な殺し合いを。



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