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ナガレ
2020-11-21 21:46:08
12245文字
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揺れるゆりかご(ぶぜまつ) ※ソルサクパロ
ソウル・サクリファイスというゲームのストーリーの一つ「魔法使いの試験篇」を下敷きに、捏造や脚色しまくって書きたいところだけ書いたパロディ。わかりにくかったらすみません。話の都合上、殺し合って死に別れます。元ネタのゲームも死に別れてからが本編なので、ご理解ください。
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次に二人が向かうよう命じられたのは大陸東部のオリンピア平原、ロムルス人とセルト人の古戦場跡地だ。馬車を乗り継ぎ野宿を行い大陸を横断、数日かけて辿り着いた。試されている立場とはいえ、なかなかハードな行程だった。そして試験の課題も。
「殺害要請、ジャック・オ・ランタン
……
」
「人型魔物だ。いきなり難易度が上がったね」
「気を引き締めていかねーとやられるぞ、これ」
移動の合間にも下級魔物を排除してきた二人だが、人型魔物と対峙するは初めてだ。豊前の脳裏に一抹の不安が過ぎる。
――
大丈夫だ。あの時とは違う。忘れたくても忘れられない別れの記憶が甦り、豊前は要請書をぐしゃりと握りつぶした。
「
……
大丈夫?」
「問題ねーよ」
すぐに見つかるとは限らないので、二人は先に野宿できそうな場所を探す事にした。平原内をうろつくと、水源の近くでいい感じの岩陰があった。魔物や獣にも見つかりにくそうで、多少の雨も凌げそうだ。見つからなかったら今夜はここで過ごすことにしよう。
「そうだ。盾魔法の使える供物があると、かなり楽になるよ」
「そうなのか?」
「うん。僕も文献で見たことしかないけど、ジャック・オ・ランタンってごろごろ転がるんだって」
「なるほど。盾で止めればダウンしてくれそうだな」
松井は勤勉なのか、実物を見た事のない魔物についても知識がある。彼と相棒になってからの日は浅いが、豊前はかなり松井に助けられてきた。松井は色んな知識を授けてくれる。代わりに豊前は自分の経験談を語った。初日、二日目辺りはどこか余所余所しかった松井も、随分と豊前に心を開いてきたと思う。だが、深入りは禁物だ。深入りすれば後悔しか残らないのだから。
「
……
豊前、ためらいは禁物だ」
松井の目が訴えかけてくる。魔物はすべて殺せ、と。そこに貴賤は無い。たとえどんな背景があろうとも、魔物は悪なのだ。松井は豊前の葛藤に気づいているのかもしれない。
「わかってる」
豊前は独り言ちた。
――
魔物は嫌いだ、と。
*****
結局その日は標的を見つけることができず、見つけた岩陰で一夜を明かした。焚き火の明かりで地図を確認し、捜索の目星をつけておく。交互に仮眠を取りながら火の番をし、静かな一夜を過ごした。夜が明け、火の後始末をし、捜索を再開。二人は平原の反対側で彷徨う標的を見つけた。
豊前の供物は剣士の氷刃、氷細工の蓋、雪樹の根、癒しの種。剣と盾と追尾弾と回復という、いつものラインナップだ。隼の羽は松井に渡した。ごろごろ転がるというジャック・オ・ランタンの行動に巻き込まれそうになっても、隼の羽を使えば瞬間に近い速さで動けるからだ。
「危なくなったら、それ使えよ」
「心配性だね。でも、ありがたく受け取っておく。豊前こそ気をつけて。止まって燃え始めたら爆発の予兆だ」
「りょーかい」
豊前は氷の剣を構えた。ジャック・オ・ランタンは氷属性に弱い。今回は囮役の豊前が敵の動きを止めたところで松井が加勢する作戦だ。松井は遠距離から攻撃できる爆破魔法弾の供物を持っているが、豊前を巻き込む可能性が高いので今回はできるだけ使わないことにした。
「
……
これが僕達の使命だ」
松井の殺意が豊前にも伝わってきた。だが、それは松井が自分自身に言い聞かせているようにも見えた。もしかしたら本当は
――
。いけない。今は目の前の魔物に集中しなくては。豊前は気持ちを切り替えた。
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「これで終わりっちゃ!」
豊前のとどめの一撃に、ジャック・オ・ランタンはガラガラと音を立てて壊れた。壊れたジャック・オ・ランタンからどろりとタールのようなどす黒い塊が流れ、その中から、生きている人間が現れた。
――
魔物は人間の欲望や絶望から生まれてくる。この人間は生欲によって魔物と化してしまったのだろう。生への渇望と死への絶望。生きようと、必死にこちら側に手を伸ばしている。死にたくないと悲痛な叫びが聞こえてきた。
その叫びに耳を貸してはいけない。なぜなら、魔法使いの仕事は魔物を殺す事
――
「豊前?」
だが、豊前は思わずその人間に向かって左手を出していた。予想外の豊前の行動に松井が目を見開く。右手は生贄、左手は救済。左手はアヴァロンの、魔法使いの使命とは相反する手だ。黙認されているとはいえ、これが本当の任務なら失敗になる。殺害できなかったのだから。
しばらくすると、豊前の左腕がほのかに青白く光った。青い光は魔物を救済した証しだ。救済された元魔物の人間は立ち上がると、豊前に「ありがとう」と感謝の意を述べると静かに去って行った。行くべき場所があるのだろう。無事に辿り着ける事を願った。
「
……
帰りたかったんだろうな」
ジャック・オ・ランタンは、戦場に散った兵士達の未練や無念が装備品の残骸に宿ったもの。ジャック・オ・ランタンになってしまったこの人間も、きっとどこかの国の兵士で、きっと今も誰かが彼の帰りを待ち続けている。だから故郷に帰してやりたかった。
独りよがりだと、偽善だと言われてもいい。ありがとうが嬉しかった。魔法使いになってしまえば、その言葉はもう聞けなくなるから。小さくなっていく背中を見送る豊前に松井がそっと声を掛けた。
「その優しさはいつか君を苦しめるよ」
「だろーな。そんな気がしてる」
松井の指摘に豊前は苦笑するしかなかった。殺す覚悟はできていたはずだ。でも、豊前は非情になりきれなかった。松井はそんな豊前を責めなかった。責めることができなかった。松井も本当は血なんて大嫌いなのだ。
*****
その夜の事だ。火の番で起きていた豊前は、隣で丸まっている松井の小さな呻き声に気づいた。
「松井?」
豊前が顔を覗き込むと、松井はうっすらと脂汗を浮かべて苦悶していた。何か悪い夢を見ているのかもしれない。悪夢で死ぬ事はないそうだが、絶対に無いとも言えない。豊前は松井を揺すり起こした。
「
……
豊前」
起こされて目を覚ました松井が、焦点の合わない目でぼんやりと豊前を見上げてくる。松井の光彩が緑青色だという事に、豊前は初めて気がついた。
「魘されてたから起こした。このまま起きててもいーぜ」
「そうしたいところだけど、今日は少し血を流しすぎたから体を休めたくて
……
」
「そーだな。寝れそうなら寝とけ」
完全に情が移っている。これ以上踏み込んではいけないと分かっているのに。それでも今は
――
「しばらくこうしてやっから」
何も見なくていいように、豊前は松井の閉ざしたまぶたの上に手を置いた。こんな事をしても意味は無いと思うが、悪夢を見ませんようにというおまじないだ。いつしか松井の呼吸が静かな寝息に変わっても、豊前はずっとそのままでいた。遠くない未来に後悔すると分かっていても、手を離す事ができなかった。
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