望月 鏡翠
2022-12-31 16:07:43
70411文字
Public リアタイ
 

Dear Mr.Cellophane

#祝福の塔3_ミスターセロファン/1P序/2P盲目の街/3P信仰の街/4P愚者の街/5P孤独の街/6P現実世界


同行者④ 空木
 次に訪れたのは、盲目の街だった。前の街よりも現代に近い文明レベルに見える。曰く、この街の祝福は、平等な視点とものを考える力。本当だろうか。
 住人は皆研究者か何かのようで、朝から晩まで忙しく働いている。周りなど見えていないが如くにのめり込み、自分を盲目と自ら名乗るのは皮肉に思えた。
 自分の全てを捧げて進んで、何になるっていうんだ。その先に何もなかったら、相手に捧げた自分ごとぼろぼろになってしまう。
 この街は夜でも明るいのに、自分の周りにあるものが何も見えちゃいない。
 街にいる全てがそうではないのかも知れない。
 先が行き止まりとは限らないのかも知れない。
 だが、それでも俺は、この苦しみを捨てきれない。
「献身の果てにある裏切りは惨めだよな」
 それは半ば独り言だった。
 盲目的に何かを信じて、相手に誠実であり続けた結果がこのざまだ。それが惨めでなくて、何だというんだ。
「それって見返りを求めてたってこと?」
 答えたその声は聞き覚えがあるようでいて、全く知らない人間の声にも聞こえた。
 その言葉は、心に突き刺さった。
 俺は見返りを求めていたんだろうか。
 思わず振り返る。
 声の主は薄暗い街の中で、ネオンサインの色を吸い込んで様々な色に染まる、印象的な白い髪の毛をしていた。
 何度か話したことのある巡礼者だ。
 雰囲気が違う気がして、名前を顔と一致させるのに時間がかかる。前にあったときはずいぶん眩しそうにしていたが、この街の光は砂漠の焼けつく太陽よりはマシだろうか。
「え、あー、レイさん? だっけ」
「いんや、俺はレイじゃなくて始ってーの。よろしく」
 レイのことを知っているから、他人の空似ではない。双子がたまたま一緒に塔にきたということもないだろう。
「始? なんかあんたみたいなややこしいのに、最近会ったわ。まー、あんま詳しくは聞かないよ」
「ん? もしかして俺たち以外にも多重人格者にあったのか。へぇーいるんだ」
 一つの体の中に、人格が二つあるという状態。詳しく聞いたところで理解できないから、前に出会った巡礼者も空木にも深入りしなかった。野次馬じみた興味本位で突き回すくらいならば、触れない方がいい。
「いや、見返りとは、違う。いや、同じなのか。わかんねぇな。ただ捨てられたときにようやく自分がゴミだったって気づかされるのは、バカだなって思ったんだ」
「へぇ。俺は献身って見返りを求めずただ心のままにその人に尽くして何があっても構わない、そんなイメージだったんだけど鷹道はそういうわけでもないんだな」
 その言葉は、痛いところを突いていた。
 俺は、相手が何も返してくれなかったから、失望しているのだろうか。
 鷹道に期待していたんだろうか。何かを返してくれたら、惨めではなかったのか。
 そうではない、と思う。鷹道が何かを返してくれることなどなかった。期待など、していなかったと思っている。だがそれは、まだ自分の心に向き合えておらず、見えていないだけの可能性だってある。
「あんたのいう献身の方が綺麗で正しいんだろうな。俺の献身は、献身じゃない?」
「自論だけどね。まぁどんな献身を尽くしてきたかは知らないけど……捨てられた、ゴミだって思うならそれはその人に執着していたんじゃないかな」
「執着」
 ああ、そうだ。きっとそれが正しい。
 盲目の街の理念を正しいと感じながらこの街にいる人間のあり方を受け入れられないのも、鷹道から離れられなかったのも、きっと執着していたからだ。
 俺のこれは、献身なんかではなかった。
 献身の方が美しく見えたから、そう思いたかっただけだ。
「そうだな。そうかも。俺は結局、それに縋ったんだ。で、今は自分がただただ惨めなんだ」
「ふぅん? 誰かに執着して捨てられた自分が惨め……? 悲劇のヒロインみたいだね、俺と一緒だ」
(あんた、キツイこというな)
 その言葉が胸に痛いのは、きっと正しいからだ。そうやって目を閉じていれば楽だった。
 鷹道のためといいながら、俺はきっと執着のためにしか行動していなかった。
 変わりたい。
 そんな、自分を変えたい。
 俺は今傍にいてくれる人のことを大切にしたい。執着したいわけじゃない。
 祝福が、俺を助けてくれる?
 だが、なんの祝福を選べばこんな自分を変えられるのか、まだ俺にはわかっていないのだ。

同行者⑤ 一華 風也
 一体何を感じ取っているのか自分でもわからないが、底辺は同じ暗がりにいる人間の匂いを嗅ぎ分ける。
 エントランスで会ったときから、俺はその男が自分と同じであることをうっすらと感じていた。
 一華 風也。
 酒に溺れて死んだと語る、どこか卑屈な笑い。もちろん人生も、腹の底に抱えているものも違う。彼の痛みは自分の痛みではない。それでも膿んだ心の傷の臭いを嗅ぎ分けるのだ。
 同族を見かけたときに抱く感情は様々だ。
 自分が目を逸らしている汚いものを、鏡写しに見せられたときのような嫌悪。
 同族のくせに真人間のふりをしている姿を見たときに対する嘲笑。
 こいつもどん底にいるのだという同情。
 その直後に、俺なら同情など欲しくないだろうに勝手にそれを抱いてしまったという罪悪感。
 そしてもしかしたら相手と分かり合えるかも、なんていう一欠片の身勝手な期待。
 それら全てを、言葉にするほどの頭も態度に出すほどの素直さも持ち合わせない俺たちはお互いが傷ついていることを知っていながら、隠す。隠されていることを承知で傷の輪郭をなぞるように、遠回しに触れる。
 同じだからこそ、関わりたくない。最初にあったとき、俺は友達になろうという提案を拒否した。同じ痛みを抱いた者同士で傷を舐め合うなんてゾッとする。あのときの俺には人と仲良くするなど考えられなかったし、人の手をとるしなやかさも他人に手を伸ばす余裕もなかったからだ。
 盲目の街で再会した一華は傍に人がいて、あいつにもどうやら友達というか、知り合いらしきものができたのだろうと理解した。
「お友達? できたみたいでよかったじゃん」
 それは大部分が皮肉で、ほんの少しだけ相手に対する興味が混じっていた。
「えへ、友達に見えた? へへ」
 素直な笑いが、なぜか癪に障る。
 言葉を意味通りに受け取られただけなのに、逃げられたような避けられたような気持ちになる。自分と同じどん底にいると思っていたやつが勝手に進んで、置き去りにされた気分だ。
 それが俺の言葉に刺を生やした。
「まぁ、相手が友達だと思ってくれてるかどうかは知らないけどな」
 相手が俺の悪意に気がついて、傷ついた顔をしたことに満足する。自分たちがまだ同じ場所にいることを確かめたがる。
 それは不毛だったが、俺や鷹道が当たり前のようにやってきたことだった。
「あ……ッ、お兄さん友達いなさそうだもんね〜! 嫉妬してんのぉ」
 一華の声は、少し上ずっていて早口だった。前のめりになった思考を表しているようだった。それが彼の防御反応。
 余計なことを言ったその首をつかんで、威圧する。
「嫉妬されるほどのもの、テメェが持ってんの? 自覚あるクソのお前が?」
 俺と同じくらい底辺で、そのことに疑いをもってもいないはずだ。
「今、こうやってんのが嫉妬してるってことなんじゃないの〜? 本気にしちゃって」
 ニタニタと笑うその顔は、俺を嘲笑っていた。
「そぉかも。嫉妬してんのかもな。嫉妬のあまりお前のこと壊して何もかも奪っちゃうかもな?」
……お兄さん可愛いところあるんだねぇ。えへぇ、なにすんの。なーんもないけどなに奪われんのぉ」
 そういう強さを、知っている。何ももっていないから、何も奪われることはない。他人にどう思われても関係ない。自暴自棄なあり方には心当たりがある。
「人としての尊厳とか? お前のその薄っぺらいプライド叩き潰してやろうか」
「なにそれぇ、そんなもんないってぇ」
 何もないなんて、嘘だ。そんな人間が、言葉一つで激昂するわけがない。
 俺が知っている一番惨めな行為を、教えてやろうか。
 服の下に手を入れる。
 一華の体が強張った。
「ぅわ! お兄さん溜まってんのぉ?」
 顔に笑いを貼り付けたままだったが、少し気勢は削がれたらしい。
「生憎、相手に困ってないよ」
「よっぽど暇なんだねぇ」
「お前こそ、俺のこと怒らせて、誰かに暴力でも振われたかった?」
「えへぇ、んなわけなくない〜? お兄さんこそ、すぐ手が出るのって自分がそうされたいからだったりしてぇ」
 言葉に詰まり、手が止まった。
 その言葉は心臓に打ち込まれた楔だった。胸のうちにあった子供じみた負けず嫌いも意地も怒りも、全てを叩き落として突き刺さった。
 咄嗟に俺は、痛いところを突いてきた相手から距離をとっていた。
 動揺を悟った一華の目が嬉しそうに輝いた。
「当てちゃった? 俺そういうやつ殴るの嫌いじゃないよ〜、殴ってあげよっか。ね?」
「お前に、俺の何がわかんの」
 隙を見つけたのが嬉しいのか早口になる。
「分かんないよ〜、お兄さんにも俺のこと何にも分かんないでしょ?」
 その言葉は、俺を責めているように聞こえた。
 一華のいう通りだ。同類の臭いを感じ取っていたのは、俺がそうであれば良いと思っていたからだ。そうであれば俺が救われるからだ。
 進もうと思っても、すぐに素直になれるわけじゃない。
 自分の弱さを知っても、すぐに受け入れられるわけじゃない。
 何よりこの年になって性格が、劇的に変わるわけでもない。
 俺はそんなにできた人間じゃない。
 正しくなれない。変われない。
 まともな良い人間には、到底及ばない。
 それでも、変わるんじゃなかったのか。
……ちょっと前の俺なら頼んだかも。俺のこと殴って、酷くしてくれた?」
「ぇ、いーよ! いくらでもっ……なにそれ、何でそんなことされたいの」
「殴られたい理由? そうでもしないと俺みたいなやつ一人ぼっちだから」
 正確には、一人〝だった〟から。
 更に何かを言い募る前に、一華の唇に触れて言葉を止める。
「お前は、誰かにわかって欲しいの」
 さっきの言葉は、俺が理解者じゃないから、怒ってたんだろ。
「んな奴居るわけないでしょ。俺には何にもないんだから」
 逸らした目が、不安げに泳ぐ。
「居るわけないってことは、居たら知って欲しいんだ? それともお前の中に何かあったらいいの」
 自分に手を伸ばしてくれる誰か。
 どん底の中でそれをずっと探している。
 他人に手を伸ばすに足る理由を求めている。
「居ないって! 居ないッ俺にはあいつしかなかったのに、もう無理なんだってぇ!」
「なんで無理なの。居てくれたのに、お前がどん底のやつだったから自分で台無しにした?」
 今の一華にその言葉を投げたら、傷つけるということはわかっていた。既に彼は涙目になっていたからだ。
 だから、殴られることはわかっていた。
「は? 惨めな思いしないと一人ぼっちな愚かな奴が何言ってんのぉッ!」
 頭蓋の中に火花が散る。殴打の瞬間に遠のいた音がすぐに、鼓動に合わせて疼く痛みとともに戻ってくる。
 膝を突く。頭がぐらぐらとする。地面に鼻血がぼたぼたと滴り落ちた。
 一華がこうされたかったんでしょうと嘲笑う。
 俺はと言えば、避けられないんじゃなくて避けないんだなと、動かなくなる体を自覚しながら、ぼんやりと考えていた。自分を守ることもできない。そのことの自覚もなかったなんて、確かに愚かで惨めだ。
「そうだよ。お前が大事なもんなくしたから、俺みたいな惨めな思いしないと一人ぼっちなやつしか話聞いてくんないの」
「そうだよ、俺のせいだよ。でも俺のせいだけじゃない、お前とは違うからさぁ」
 否定の言葉に力はない。
「どうせ、同じドブに使ってるだろ。何がお前と、何が違うの」
「うるさい、だまれよ」
 立ち上がろうとした体を一華が引き倒した。首に両手がかかる。その両眼からは涙が溢れて滴り落ち、頬を濡らしていた。
「なあ、ここで大怪我しても天使が時間戻してくれるって、知ってた? 頼むからこのまま一回死んでくんない? 俺と同じ死に方でさぁ」
「いーよ。お前の気が済むようにしていいよ」
 落ちるとこまで、落ちてみたら良い。
 現実でそれをしたら、行き着く先はない。俺は死んで、一華は人殺し。
 それで人生おしまい。
 だが幸いここでは、やり直しが許されている。考え直す時間が与えられてる。
 お前が否定したがってることは、お前が受け止めなくちゃいけないことだよ。
 俺がそうだったからお前もそうなんじゃないかって、勝手に思ってるだけだけど。
 やりたいようにやってその先をどうするのかは、自分で決めたらいい。
 徐々に力のこもっていく指が皮膚に食い込む。首にあった火傷の痕が痛んだ。
 息が苦しくなり、反射で一華の手を引き剥がしそうになる。投げ出した両腕で地面を掴むようにして耐えた。
 皮膚が擦られる。筋肉と喉が押し潰されて口から声にもならないような音が出た。
 遠ざかっていく意識の向こうに泣いている一華が見える。
◇◆◇
 眠りから起きるように目が覚める。
 殴られた痛みはなく、首にもなんの異常もない。
 一度死んだのだろう。
 一華の手はまだ首に掛かっていたが、力はこもっていなかった。
 声もなく涙を落として泣いている。滴り落ちた涙の量で、泣いていた時間を推測することしかできなかった。
「気ぃ済んだ?」
………よくわかった。俺は愛されてなんかなかったって、こんなに力入れないと、こんなに相手のこと殺したいと思わないと、人って殺せないんだって」
 それは俺に言っているのではなく、独り言のようだった。
 同じやり方で死んでくれと言った。
 初めて会ったとき、一華は死因を酒の飲み過ぎだと言った。
 俺が鷹道を名乗っていて、いまだにその仮面を脱げないでいるように、彼もその傷に蓋をしたのだろう。
 泣いている相手を慰めるためには、どんな行動をするのが適切だろう。
 迷った末に、俺は一華の頭を撫でることにした。相手が馬乗りになった状態でできることといえばそれくらいで、彼が話を聞けるまで落ち着くにはもう少し時間がかかりそうだったからだ。
「いつまで撫でてんの」
 憎まれ口を叩く余裕があるのなら、大丈夫だろう。
「お前が話聞くようになるまでだろ? 殴ってどかされたかったのか?」
「話聞いてる。殴られたい奴が何言ってんの」
 そうだよ。殴られたいのは、お前じゃなくて俺の方だ。
 だから、殴らない。
「ふ、底辺自慢でもして、傷の舐め合いでもするか? 俺のこと見てくれるのは俺を殴ってくれる奴だけだったから、殴られてると安心すんだよ。無関心よりはマシだった。それに悪意は裏切らないだろ? 結局俺は自分を殴るやつにしか縋れなくて、自分の足で立つ力もなかった。笑えるだろ。そいつに突き落とされたんだよ」
「悪意は裏切らないって。ふは、惨めだね。あんたも、俺も……。あんたとは違うって言ったこと撤回する。俺ら馬鹿みたいに似てるね。俺もあいつしか居なかった。なのにあいつに殺された。何が生き返りの旅だ。馬鹿にしてんだろ」
 マンションの天辺から突き落とされた瞬間、俺は絶望した。
 裏切りを知った。自分が信じていたものが、虚構だったと知った。
 この裏切りを受け入れて生きるくらいなら、死んだ方がましだった。
 生き返りたくなんてない。
 確かに俺も最初はそう考えていた。
 馬鹿みたいに似ている二人の、そこだけが違っていた。
「もう少し早く会ってたら、俺はお前に喜んで殴られてたよ。お前をいなくなった奴の代わりにして、俺たち案外うまくやってたかもな?」
 お前には〝あいつ〟の代わりが必要で、俺には鷹道が必要だった。
 パズルのピースみたいに、ぴったりハマったかもしれない。
「でも俺はここで、俺のことちゃんと見てくれるやつを見つけた。人の話、ちゃんと聞くってこと教えてもらったし、人にちゃんと話すってこと教えてもらった」
 最初の俺のままではきっと一華を受け入れられなかった。他人の痛みを受けいれる余裕などなかったし、自分を曝け出す勇気もなかった。
 俺たちがそっくりだなんて、気づきもしないままだったに違いない。
 そっくりな俺ならば、現実の世界で一華を助けに行けるのかもしれない。
 だが俺はいる場所を、もう選んでしまった。
「今は、あいつのために生きたいから、生き返ってもお前のことはたぶん迎えに行ってやれない。生き返ってからどうすんのかは、お前が決めんだよ。でも、話はできるだろ。今ここでさ。なにもならずに死んだお前と、同じくらいのどうしようもないクソの俺でも、お前の苦しいところ引き出すくらいはできただろ」
 慣れないことをしている俺の笑顔は、ぎこちないんだろうな。
「だから、まあ初めましてのときの続きじゃねーけど、仲良く? するっての、どう?」
 一度は自分で断った手を、今度は俺の方から伸ばす。
 一華はようやく笑えるようになったらしかった。
「あんたは生きる理由見つけたんだね。はは、幸せな話、突き刺さるんだけどぉ〜」
 幸せかどうかは知らないが、どこまで落ちても一人ではないと信じられるのは、とても贅沢なことだと俺は思っている。
 伸ばした手が、握られる。
「仲良く。はは、いいよぉ。あと半月限定ね。俺はあんたの首絞めて惨めになってまだ生き返りたいかどうか分かんない。あんたみたいに生きる理由見つけられるかどうかも、はは……分かんないから、だからまた話し付き合ってよ」
 一華が立ち上がり、握ったままの手を引っ張って俺の体を引き起こす。
「幸せじゃなくていい。俺たちみたいなのはまともじゃないから、普通の連中がいう正しい生き方はできない。真っ当な幸せも見つけらんないよ。でもそれでいいだろ。不幸なままでも惨めなままでも苦しいままでも、俺はいいと思ったんだ。半月だけ、よろしくな風也」
「俺もそう思えるといいな。よろしく鷹道さん」
 そういえばようやくまともに、名前を呼んだ気がする。
 お兄さんから鷹道に。
 お前から風也に。
「ふ、鷹道ね、それ偽名。つーか俺を殺したやつの名前。俺に自分の身代わりになって死んで欲しかったんだよ」
「あ、そうだったんだ。ごめん」
「いーよ、俺が鷹道って名乗ったんだし」
 初めて自分の意思で、自分の名前を相手に教えた。
 鷹道・ファリントンではない俺。
「まだ、こっち名乗って自分で生きてく勇気ないけど、お前ならいいわ。でも他のやつには秘密な?」
 唇の前に指を立てる。
 友達なら、名前くらい知らないとおかしいもんな。