錘(つむ)
2026-06-22 22:54:03
9241文字
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Riddle me ree. -on the wall-

先天的女体化、暴力表現、死にネタ、産卵、近親あるのでGつけていますが描写自体はぬるいと思います
大丈夫そうでしたらよろしくお願いします

男として育てられたジョン♀とその理由を知るリチャード 前編 後編はジョン♀視点


 ジョンは、体が弱かった。口数が少なくなったり、上の空になったり。きょうだいなら体調が悪いだけとわかるのだが、事情を知らないと不機嫌のせいにされ、そのせいで気まぐれや気難しいと誤解を受けがちだった。
 その日は別荘の一つで、母とジョンと自分しかいなかった。こういう時は母はジョンに裾の広がる服を着せていて、どうせばれているのでよいと思っているのかも知れない。手持ちハープで適当な歌を作って歌っているのを、ジョンは楽しそうに聞いていてくれたが、次第に反応が薄くなって、顔色もただでさえ色白なのに、血の気が失せてきている。
「体調が悪いんじゃないか、ジョン」
……平気です。もっと、聴いていたくて」
「今日はここまでだ」
 残念そうな顔をされても、体調のことを考えたら喜ばせるためだけに無理をさせられない。聞き入れられないと悟ってか、しょげた様子で歩き出した。こういう時について行くとジョンは子供扱いをしたと怒るので、いつも通りのその背中を見守っていたが、ふらりとよろけた。だいぶ調子がよくないのだろう。姿が見えなくなってから、そっと足音を忍ばせて後を追った。無事にたどり着けていればそれでよいのだし。
 館の前の庭には誰もいない。もう、戻ってしまったのかと見回すと、四阿に人影がちらついた。そちらに向かうと、ジョンは四阿の腰掛けに縋るようにして、床に腰を落とし、裳裾が広がっていた。青ざめて呼吸は浅く、先ほどより苦しそうだった。
 こちらの姿を認めたジョンは、ひどくおびえた顔をして反射的に身を引いたが、なにか、足下に光る丸いものが転がった。思わず、手を伸ばす。
「なんだ……?」
「触らないで!」
 ジョンは悲鳴じみた声を上げるとそれをひったくるようにして胸に抱き、隠そうとした。拳より少し大きいくらいの、ぼんやりと光る、卵型のなにかだった。それはすぐに剥がれ落ちるように光が消えて、何も残らなかった。
 ジョンは何もなくなった腕を解かずに、そのまま床に蹲り、顔を覆った。
 泣いている。
 今まで、泣き顔は何度も見ているが、こんなにも絶望を込めたすすり泣きは初めてで、どうしていいか解らなくなった。先ほどの消えてしまった何かなどもはやどうでもよく、泣き止んでほしくて細い手首を掴むと、ジョンは力なく首を振った。
 ふと、四阿が一段暗くなった。肩で息をした母が、陽が差していた方の入り口を塞いでおり、低い声で名前を呼ばれた。
「リチャード。……一体、あなたは何をしているのかしら?」
 改めて問われると、何をしているのだろうか。説明をするために思わず自問した。泣いているジョンの腕を引っ張っている。慌てて手を離すと、ジョンは母の前に転げるように身を投げ出した。
「母上! 私が悪いんです。母上が仰るように今日は休んでいなかったから。お願い、兄上を叱らないで、」
 母は肺の空気をはききるような深い深いため息をついた。ジョンがおびえて後ずさったが、その圧力はジョンを飛び越えて全力こちらに向かっている。
「リチャードは、ここで待っているのですよ」
「ははうえ、あにうえは何も、」
「わかっています、大丈夫。大丈夫だから、まずあなたは休みなさい」
 宥めながら、二人は館に向かう。言いつけ通りに待っていた。

 母だけが、間を置かずに戻ってきた。
「ジョンは?」
「休ませています。まず、昔言ったとおりにあなたにも説明が必要ですね」
 お座りなさいと指示されて、母が戻ってからずっと腰を浮かせていたことに気づいた。おとなしく座り直す。
「あれは、私の家系に産まれる女児に、稀にあることなの。産まれたときに光る殻の欠片があった子は、大人になってからも子供は成せず、あのような空の卵を生むようになる。私の娘たちには今まで一人もいませんでしたし、だいぶ薄れたと思っていたのだけれど、最後の子で出てしまうんなんてね。かわいそうだけれど、王家の女としての務めを果たせないのが明らかである以上、陛下と示し合わせて、男の子として育てることになったのです」
 多額の持参金をつけて送り込むのは産まれた跡継ぎに血を入れるためであるので、子を成せない姫君の末が明るいはずがない。
「生まれてすぐのジョンに、渡す土地がないと父上があだ名までつけていたのは……
「実際にそうなので男だったとしても同じ事をしていたと思いますが」身も蓋もない言い方をした後、苦笑を添える。「あの子が独り立ちできない理由を先に示して、後々疑われないようにしたという点では、あの子の為ね」
「父上はジョンをどうするつもりなんですか」
「そうねえ。陛下は自分のもとで政務に関わってほしいみたいだけれど。補佐に使えそうな学問を教えているし」
「えっ」
 母の何気ない言葉に、思わず大きな声が出てしまった。母がそこで話の腰を折られると思わなかったとまじまじと見返してくるので、慌てて問いで誤魔化す。
「でも。父上だって、いつまでも生きているわけでは」
「その時は次の王がいるでしょう」
 自分の心音を不自然に大きく感じた。
 この時、初めて。こんなことで、妹への邪恋を意識した。ただのきっかけで、ずっとここにあったのかも知れないが。
 邪であっても恋は世界を彩る。ジョンに、たまらなく会いたくなった。母はまだ話があるようだったが、気づかないふりをして立ち上がる。
「ジョンに、会えますか」
……そうね。もう眠っているかもしれないけれど、かまいませんよ」
 母は少し考えてから、了承した。