錘(つむ)
2026-06-13 22:14:00
11117文字
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STRENGTH

人外✕転生 パロだよ ぬるいですが性描写があります



 スープとパンを喉に通したが、それ以上は消化に疲れて受け付けなかった。リチャードは少しでも食べたことに喜んで、それ以上の強要はしなかった。同室にいて、見守っている気配は常にあったが、疲労で口を利く気にもなれず、向こうもあえて構っては来なかった。浅い眠りとゆるい覚醒を繰り返しているうちに、いつの間にか夜になっていた。その時も、眠りを偽っていたのではなく、眠ってはいたのだ、浅かっただけで。

 ふと、夜着の襟元を広げられている気配があり、汗でもかいていたかと眠気に支配された頭の片隅で考える。ベッドに体重がかかり、リチャードが覆いかぶさってきた。これは。努めて身じろぎをしないようにしているが、まずいのではないか。首筋に絡んだジョンの髪を指先で払われ、微妙な刺激にぞくぞくする。

 顔が寄せられ、次いで、激痛が走った。

 だというのに声も出ず、体がこわばって身じろぎも出来ない。悪夢の中でもがいているときのように、体が自由にならない。同時に思い出した。あの夜と同じだ。あの夜も首を噛み切られ、気を失ったのだった。

 痛みは、だが、急激に散った。唇が離れても、血が流れる様子はない。身を離したリチャードは「ふぅ、」と息を吐き、そのまま、部屋を出ていった。

 戻ってくる気配がないと確信できるまで、ジョンは息を潜めていた。

 それから、明かりを灯す。鏡台があったので首筋を広げてみたが、傷口は名残もなかった。ついでに、昼間に握りしめられた手首の痛みが、溶けるように消えていた。確かに刻まれていた内出血の跡も。

 備え付けの小さなクローゼットに、いくつか服が掛かっている。コートを羽織れば暗い外を歩くくらいは問題ないだろうと、借りることにした。

 ドアから出てみれば、廊下にドアが並んでいる。番号も振ってあり、やはり宿だった。他にも宿泊客はぽつぽつといるようだが、周りは空き部屋だった。足音を廊下の絨毯に忍ばせて、ゆっくりと階段を降りる。受付に明かりはあるが呼び鈴だけが番をしており、そのまま外に出た。

 時計もないので時間はわからないが、街の盛り場は賑わっている。探すまでもなくリチャードは、なにやら騒いでいる中に当然のような顔で座っている。おそらく今知り合ったような連中と笑い合っており、飲み歩いているならいつ終わるかもわからない。遠巻きに覗いていても仕方ないので、一旦戻ろうか考えていると。

 なにやら突然、剣呑な雰囲気になっている。なんと言っているかまでは聞こえないが、ぶつかったとか飲み物をこぼしたとかそんなものだろう。リチャードは謝るどころか楽しげに、恐らく煽るようなことを言っている。相手は酔いと怒りに顔を赤くしており、今にも殴りかかりそうなところを店員に二人まとめて追い払われている。

 酔客に送り出され、喧騒から離れたあたりで、路地裏に引っ張りこまれている。嘘だろう、あんなに威勢よく喧嘩を買っておいて。

 刃物でも使われていたら。早足で追いかけ、覗き込むと、目を疑う光景があった。

 背中に腕が回っている。どういう急展開だ。思わず、眼の前を見たくないがため、目を細めたが現実は消え失せはしない。何事もなかったかのように部屋に帰ったほうがいいのか、それとも自分の見の安全のためこのまま逃げたほうがいいのか、着の身着のままだが。そっと後ろに足を引きかけた時、男の背中がずるりと脱力し、崩れ落ちた。リチャードが蹴り離したのだった。

 食事の後の獅子のように、唇を拭う。

 そして、目が合った。とたんに人懐こい青年の表情が灯り、わたわたと慌てだした。

「うわっ、ジョン! いつから。というか出歩いて大丈夫なのか、体は」

 見られた方はいいのか。転がる男を踏む勢いでこちらに向かって来る。無言で生きているんだか死んでいるんだかわからない地面の男を指さすと、リチャードは言いつけを守らなかったのがバレた犬のように視線を動かした。

「あの、これはだな。ええと。そのだな、なんというか」

「これは、このままでよいのですか?」

「うん? ああ、放っておいて大丈夫だ。おっと、死んではいないぞ! 騒ぎになるからな」

 深々とため息を付くと、背を向けた。慌てて追ってくるリチャードを振り返る。

……取りあえず、宿に戻りましょう。リチャード兄上」

 リチャードは特に否定せず、笑顔のように口を開けた。産まれてもいない兄と同一人物なら、やはり、人ではあるまい。