サブさぶれ
2026-06-07 19:01:53
14307文字
Public 原作軸
 

Gift to me , Gift to you

【2024.2.9 執筆・公開】
バレンタインのスグアオ。(アカ→タロ要素もあります)
番外編クリア後時空、のつもりです。付き合ってます。
※視点がコロコロ切り替わります!ページ上に【side S】と書いてある方がスグリ、【side A】と書いてある方がアオイ視点です。読みにくいかと思いますがご了承ください。
大したことないですが、モブおばさんが出ます。


【この世界にあふれる、たくさんの意味を】

 教室の前でバレンタインの交換をしたものだから、他のクラスメイトたち(二人の仲は一年四組公認だから今更ではあるが)から、またも生温かい目を向けられてしまった。
 二人揃って顔を真っ赤にして、教室の中に入る。貰ったプレゼントで頭がいっぱいだったせいか、先生がどんな話をしていたのか全く分からなかった。
 アオイとスグリは二人で相談しあい、極力同じ授業を受けるようにしている。今日も昼休みまではずっと同じ時間割だ。まずはサバンナエリア。同時に席を立ち、同時に頷いて、教室を出る。
 いつもだったら二人並んでの移動。だけど今日は、朝の出来事があったせいで少し気恥ずかしくて、どうにも隣を歩けなかった。
 少し前を歩くスグリの、グローブをしていない左手に指をチョンとつけてみる。骨が目立つようになってきた長い指がピクリと動いた。
 もう一度つついてみる。反応なし。
 もう一回。ねえ、好きだよ。嬉しかったよ。気持ちを指先に乗せて、手のシワをなぞってみる。
 途端、ギュッと掴まれてしまった。驚いて顔を上げると、唇をとがらせたスグリがアオイをやんわり睨んでいた。

「イタズラ、しねぇで」
「う、うん……

 狼藉者の手は、屋外教室に着くまで捕えられたままだった。目の前を歩く人は顔を隠すように背中を丸めていた。チラッと見えた耳と首の後ろは、コライドンよりもはっきりした赤色に染まっていた。

*

 四限目の終わりを鐘が告げる。同じ授業を受けていた生徒たちが、思い思いの場所へ解散していく。
 アオイは隣にいる人を見上げた。私たちはどうしよっか、と視線だけで問いかける。スグリはアオイの右手を掬い上げるようにして持ち上げ、指先だけを優しく握った。

「あ、のさ……。アオイからもらったの、早く開けたい。俺のも、早く見てほしい。だから、」

 続きの言葉はいらなかった。

「行こ」

 アオイがそう答えると、スグリはほわわっと笑って、手を繋ぎ直してくれた。腕と指を絡めて、けっして離れないように。
 心臓の、バクバク鳴る轟音がスグリにバレてしまってもいい。歩きにくくなっても構わない。アオイはスグリの腕に頬を寄せて、好きだという気持ちを噛みしめた。


 スグリの部屋までの道、すっかりお馴染みの廊下を行く。他愛のないおしゃべりも、今日は一段と甘くとろけていた。

「髪、いつもと違うね」
「うん。アオイが前やってくれたやつ。かっこいいって言ってくれたから……。もっかい見せたくて、結ぶ練習して、覚えた」
「何回見てもかっこいい。すごくドキドキしちゃった」
「アオイも、いつもと髪型違う。頭ん横さ三つ編みなってて、わやめんこい」
「編み込みって言うんだよ。気に入ってくれてよかった。ていうかさ、私たち、今日髪型までおそろいだよ!すごくない?」
「うん! すごい! 奇跡みたい」

 振り返ったスグリは、テラスタルなんかよりもっと美しく、キラキラ輝いて笑っていた。キュンと高鳴る甘い痛みを、アオイは嬉しく受け止めた。


 部屋に入った直後、スグリが振り返った。顔に影がかかる。アオイは目を閉じて、スグリの次の行動を待った。
 期待通り、唇に柔らかなものが触れてきた。手をスグリの背中に伸ばそうとしたが、スグリは一瞬のふれあいが終わるとすぐに離れていってしまった。

「ごめん。朝からずっと我慢してたから……。座ろ」

 再び手を繋ぐ。
 お昼休みでなければ、あと一時間もしないで次の授業が始まってしまうのでなければ、このままその先までしちゃおうよと誘っていたかもしれない。誘いたかった。
 火がついたみたいに熱い顔を抑えながら、アオイは静かにスグリの後ろをついて歩いた。


 モンスターボール一個分程度あけてベッドに横並びで座る。いつも以上にドキドキして落ち着かない。
 開けていい? そっちから開けてみて。……それとも、もう一回キスしようって言おうか。
 指が無意識にクルクル遊び始める。先に口を開いたのはスグリだった。

「アオイから先開けて。早く見せたい」
……いいよ」

 鞄からプレゼントを取り出す。アオイの好きな色ばかりで構成された、完璧に可愛いプレゼント。ラメの入ったオレンジのリボンを解く。淡いピンク色の袋から出てきたのは、赤いバラに金のハートがぶら下がった、小ぶりのイヤリングだった。

「わぁ、かわいい……! すごい、すごい可愛いよ! ね、これ、付けていい?」
「もちろん!」

 満面の笑顔でスグリを見上げると、彼は空気が抜けたみたいに胸を撫で下ろした。
 台紙からイヤリングを外す。そのまま耳へ持っていこうとして、ふと思いついた。こてん、とわざとらしく首を傾げて、スグリを熱っぽく見つめる。

「スグリに、付けてほしいな」
「うえっ!?」
「お願い」
「ああ、うぅ……。わ、かった」

 バラのイヤリングより顔を赤くさせ、スグリはわずかに首を縦に振った。爪の整えられた指がイヤリングを持つ。緊張で震えているせいで、金のハートが必要以上にゆらゆらしていた。髪が邪魔にならないように手で押さえて耳を差し出すと、息を呑む音が一瞬聞こえた。冷たい金属が耳たぶを挟む感触がする。少しだけ触れたスグリの手の温かさとのギャップがくすぐったかった。

「ねえ。バラってさ、その……花言葉とか、」

 もう片方の耳を差し出しながら聞く。野暮だと思ったが、どうしても直接スグリの口から聞きたかった。すぐ側で、「うぐっ」と息が詰まった音がした。

「や、やっぱり知ってたんだ……。うん、アオイの、思ってる通り……。ぁ、いして、ます……

 消え入りそうな声で、でもまっすぐに、アオイの耳に愛の言葉が届けられた。胸から沸き上がった喜びが一瞬で全身を駆け巡る。このまま宙に浮いてしまうんじゃないかとすら思えた。
 両手で口元を隠してにやけ顔を隠していると、鎖骨まで真っ赤にして俯いていたスグリがパッと顔を上げた。

「あ、でもそれだけでねくて。……イヤリングの意味は、知ってる?」

 首を横に振る。すぐそばで、シャラシャラと金属が揺れた。『愛してる』のほかに、どんな意味を込めてくれたのだろう。アオイは、さっきからまばたきしてばかりの睫毛を見つめた。

「ピアスとかイヤリングってな、昔は魔除けだったんだって。だから……、あなたを守りたい、て……。あ、とは、側に、いたいって……
「あっ……

 キュンと胸が締め付けられたのと同じタイミングで、顔の前に置いていた手を奪われた。アオイより大きい手にすっぽり包み込まれる。

「俺、アオイの側さいて、アオイんこと守れるようになりたい。今はまだ、頼りないかもしんねけど、絶対、必ず。アオイのこと、守れる人になるから」

 生きてきた中で一番、スグリに告白された時よりも顔が熱い。鼻の先がツンとして、目の周りがじわじわしてきた。このまま目を合わせていると本当に泣き出してしまいそうだったので、アオイは慌ててスグリから顔を逸らした。

「わ、たしの! プレゼントも……、開けて、みて」
「あっ! ご、ごめ……じゃなくて、うん」

 照れてキャパオーバーを起こしたのがバレたのだろう。スグリも慌ててアオイから離れ、黄色の鞄の中からプレゼントを取り出した。スグリは金色のリボンを解き、青いチェック柄の包みを開いた。
 中に入れていたのは、日曜日にゼイユたちと作った物、とはまた別のカップケーキ。ココア生地にチョコチップを混ぜ、ハート型にくりぬいたリンゴをトッピングした、愛情たっぷり特製カップケーキだ。

「わやじゃ、チョコケーキだ! りんごも載ってて美味しそう! アオイは料理も上手なんだな」
「ううん、全然。タロちゃんにやり方教わってから、昨日までずっと練習してたんだよ。いっぱい焼いて、いっぱい失敗もしたけど、何とか上手くできるようになったんだ」

 おかげでここ最近は毎日カップケーキばかり食べている。食べるのが大好きなコライドンでさえ、カップケーキの型紙を見ただけでそっぽをむくようになってしまった。スグリに渡したのは、色々作ってみた中でも一番美味しくできた、プラス見栄えがいい特級品だった。
 早く食べて、とスグリに声を掛けようとしたが、アオイが口を開く前に、スグリがアオイに一歩近づいてきた。膝がぶつかる。真剣な眼差しに、心臓がギュッと苦しくなった。

……自惚れたいから聞くんだけど……。それって、俺に渡す、ため……?」

 俯いて瞼を強く閉じる。スグリが気持ちを伝えてくれたように、自分も込めた想いを伝えなきゃ。
 アオイは大きく息を吸い、ちょっとだけ気持ちを落ち着かせてからスグリの問いに答えた。

「お菓子にもね、プレゼントする時の意味があるんだって。チョコは『同じ気持ちです』とか、キャラメルは『安心する』とか。そ、れで……、カップケーキはね、」

 あの時、タロが指差した豆知識の一文を思い出す。直接伝えるには少し恥ずかしい、スグリにぴったりな、魔法の言葉。

「あなたは、特別な人……

 スグリを振り返る。スグリは目をまん丸くして、口をぽかんと開けていた。が、すぐに顔をリンゴ色に染めて、笑ってるのか泣きたいのか、よく分からない表情に変わっていった。きっと困っているんだろう。先ほどの自分も、スグリから向けられた愛情があまりにも大きくて、幸せで、どうしたらいいか分からなかったから、よく分かる。さっきの彼の真似をして、アオイもまっすぐに気持ちを打ち明けた。

「私の特別な人は、スグリしかいない、から。だから、スグリにどうしても渡したくて、練習して、スグリの分だけ、作ったの……

 今こそ『穴を掘る』を覚えるべき時だ。恥ずかしい。照れる。恥ずかしい。スグリの告白に「私も好きです」と返事した時よりはるかに恥ずかしい。初めてスグリと一緒のベッドで夜を過ごした時……、よりはマシだが、それでもだいぶ恥ずかしい。またしても顔をそむける。
 少し待ってもスグリが何の反応も返してくれなかったので、どうしたんだろうと振り返る。彼は今まで見た中で一番ふにゃふにゃな笑顔を浮かべていた。

「俺、これから一生、アオイが作ってくれたカップケーキしか食わね」

 一生。アオイが作ってくれたものだけ。
 スグリはアオイを喜ばせる天才だ。いつだって、どんなことだって最高に幸せな色に仕立て上げてくれる。嬉しさでへにょへにょ曲がる口を誤魔化すため、下唇をキュッと噛んだ。恥ずかしくて言えなかったが、どうかそうしてほしいと思った。アオイの特別な人は、スグリだけでよかったから。
 スグリは型紙からケーキを慎重に剥がし、大きな一口で五分の一ほどをいっぺんに食べた。

「甘くて、すっぱくて、美味しい」

 美味しいの一言がこんなに嬉しいなんて思わなかった。これからは料理も頑張って、スグリに毎日「美味しい」って言ってもらえるようになりたい。新たな目標が胸の内に生まれた。
 それからスグリは「美味しい」「世界一」「幸せ」と一口ごとに感想を言い、あっという間にカップケーキを平らげた。眉毛を下げて優しく笑う顔は、まだちょっと子供っぽさが残っている。そんな可愛い表情に見惚れていると、あることに気が付いた。

「スグリ、口についてるよ」

 下唇についたチョコを取ろうと人差し指を伸ばす。淡い色の上を、見ることもなくなぞる。見なくても、スグリの唇がどんな形をしているかなんて、十分に知っていた。
 そっちよりも、今はスグリと見つめ合っていたかった。アオイの熱視線に気付いたスグリは、同じくらいの熱量を返してくれる。手首を掴まれ、軽く引き寄せられる。空いていた手をスグリの肩に乗せ、瞳を閉じる。

「アオイ、大好き」

 言葉の後、唇が触れ合った。今度こそ離さない、と首の後ろに腕を回す。

「私も。大好きだよ」

 二回目のキスの後、すぐに三回目、四回目と、『好き』の気持ちの分だけ唇を重ね合わせた。
 自分の気持ちを伝えられてよかった。スグリの気持ちを知れて、本当によかった。
 チョコのカップケーキを食べたばかりだからか、スグリのキスはいつも以上に甘くて、優しくて、幸せな味がしていた。


 自分たちの世界には、どうやらたくさんの意味が込められているらしい。これから先、他にもどんな意味があるのかを、スグリと一緒に知っていきたい。スグリと一緒に、時間をかけて、この世界に溢れるたくさんの意味を知って、二人の世界を広げていきたい。
 アオイは心から、そう願った。

 キスの嵐が落ち着いた頃、スグリがアオイのイヤリングを揺らしながら問いかけてきた。

「今日の放課後は、一緒にいてくれる?」
「いさせて。夜まで、ずっと」
……朝まで、じゃ、ダメ?」

 スグリの親指が、アオイの丸い手のひらをそっと撫でる。蜂蜜色の瞳の奥がとろけている。『お誘い』を受けてるのだと、すぐに分かった。身体が、甘く痺れた。

「それなら、いっそ……

 手のひらをひっくり返して、スグリの手を握る。もう片方の手で、最近丸みが少なくなってきた頬を包む。
 スグリは持っていたカップケーキのゴミを床に置くと、アオイを抱き締めて背中からベッドに倒れこんだ。


 ――二人の甘ったるい時間は、放課後、ゼイユからの着信が来るまで続いた。