サブさぶれ
2026-06-07 19:01:53
14307文字
Public 原作軸
 

Gift to me , Gift to you

【2024.2.9 執筆・公開】
バレンタインのスグアオ。(アカ→タロ要素もあります)
番外編クリア後時空、のつもりです。付き合ってます。
※視点がコロコロ切り替わります!ページ上に【side S】と書いてある方がスグリ、【side A】と書いてある方がアオイ視点です。読みにくいかと思いますがご了承ください。
大したことないですが、モブおばさんが出ます。


【side S】
 二月十一日。約束の日曜日。
 スグリとアカマツはアカマツの故郷・タチワキシティに来ていた。花屋から縁遠い二人は、広いイッシュのどこに目的地があるのか、検討すらつかなかった。アカマツの父親から情報提供してもらわなければ、永遠にイッシュ中を彷徨っていたかもしれない。
 アカマツ家御用達の花屋は小さな店構えをしており、隣にはこれまた小さなアクセサリーショップが並んでいた。建物の一角全体から『場違いだ』と言われているようで恐縮してしまう。隣にいたアカマツは勇敢にも「何あんのかな?」とズンズン中へ入っていった。
 花屋の中は何だか少し薄暗く、思い描いていた可憐なイメージとだいぶ違っていた。人ひとりがようやく通れるほどの狭苦しい空間を、二匹のアブリーがせわしなく飛び回っている。彼らの羽音以外には、奥の方にあるガラスのショーケースが放つ、低い冷蔵音が小さな店内中にずっしり響いていた。レジの前に座っていた気難しそうなおばさんがジロリと二人を見る。が、すぐに新聞へ目を戻してしまった。
 おびただしい量のバケツに、これまたおびただしい量のカラフルな花が刺さっている。バケツには一つひとつ、花の名前と花言葉が書かれたカードが付けられていた。
 スグリでも知っている有名な花、見たことあるけど名前は知らなかった花、見たことも聞いたこともない花。花、花、花、ときどき葉っぱ。
 花たちと同じ数だけ、はてなマークが頭上に浮かんだ。それは隣にいたアカマツも同じようだった。

「花、全然分かんない……

 フライパンの柄を持つ両手が小刻みに震えている。何か言って励まそうとしたが、スグリもまったく同じなので何も言えない。賑やかな花の中で、少しずつ首を絞められてるような心地がした。その時だった。

「そこのアチャモ共」

 突然しわがれ声に話しかけられ、二人は驚いて辺りを見回した。店内にいるのはスグリとアカマツ。それからレジの前に座ってるおばさんだけだ。おばさんはバサリと大袈裟な音を立てて新聞を置くと、重たそうに立ち上がった。

「アンタ達、おおかたバレンタインだからって慌てて来たんだろ。え?」
「あ、その……
「こちとら五十年以上花屋やってんだ。常連でもない子供が来たらすぐ分かるさ」

 言い当てられたのが恥ずかしくて、スグリとアカマツはもじもじと床を見つめるしかできなかった。

「切花贈るのはいいけどね、そもそも相手が花瓶持ってるか知ってんのかい? 花瓶を置くスペースがあんのか、花の世話が億劫じゃないタイプだとかは? 何より、アンタ達は今買って、水曜日までピンシャンに管理できんのかい? 出来ないだろう。だったら花束なんてやめときな。相手もいい迷惑だ」
「あ、うぅ……

 まくしたてられたが、大ベテランの言葉はもっともだった。アオイならきっと花と、ついでに花瓶もセットで贈っても大切に飾ってくれるだろう。
 だが、自分は? スグリは寮備え付けの植木鉢を枯らした前科がある。四日も管理できる自信なんて、これっぽっちもない。
 それにしても、花屋のおばさんに「花はやめろ」と言われるとは。『何かよさそうな花束』としか考えていなかったスグリは途方に暮れてしまった。

「じ、じゃあどうすればいいんだよー!」

 アカマツの咆哮が小さな花屋に響く。彼の目にもうっすら涙が浮かんでいた。
 半ベソ状態の少年たちに盛大なため息を吐いてから、おばさんは植木鉢コーナーの奥を指差した。

「奥の方にギフト商品があるから、そっからガールフレンドが好きそうなの見繕いな」

 生い茂る緑に囲まれてまったく見えなかったが、確かに奥にもう一部屋ある。男たちは顔を見合わせて頷くと、迷うことなく未知の国の奥地へ足を進めた。


 奥の部屋は先ほどまでの薄暗い雰囲気と打って変わり、リーグ部を『ファンシー』に模様替えしたときと同じくらい可愛らしい内装をしていた。
 籠に入った花、瓶詰めされた鮮やかな花、なんか枯れてるっぽい花、ガラスのドームに入った花。ぬいぐるみ、ぬいぐるみ、なぜか食器やタオル。

「め、めんこい……

 タロみたいな可愛いもの好きの子が来たら大はしゃぎしそうな空間に、スグリはたじろいだ。
 隣にいるアカマツはどうだろう、と彼がいた方向を振り返ったが、いつの間にかぬいぐるみコーナーに移動していた。かと思いきや、すぐさまスグリの元へ戻ってきた。

「なぁなぁなぁ! これタロ先輩っぽくない? ブルーの!」

 アカマツが持ってきたのは、一輪のバラを抱えているブルーのぬいぐるみだった。

「確かに……。手持ちポケモン贈るの、センスあんな……
「オレ、これにする! ちょっと予算オーバーだけど……。オレ、これ渡して今度こそ告白するんだ!」
「け、けっぱれ!」

 アカマツは、スグリが知る限り、入部して早々にタロに恋をしている。何回も告白しようとして、その度に失敗してるのも。今度こそ上手くいってほしい。明るく気のいい友達のまばゆい未来を、スグリは心から応援した。

「んじゃオレ、先お会計行ってくるな!」

 そう言うと、アカマツは「おばさーん」と叫びながら、ドタドタ手前の部屋へ戻っていった。
 一人取り残される。再度、ファンシー空間をぐるりと見回してみた。

「どうしよう。アオイ、何なら喜ぶんだろう……

 懸命に思考を回す。何でも喜んでくれそうだけど、贈るなら自分の気持ちが目いっぱい伝わるものがいい。好きだよ。いつもありがとう。尊敬してる。でも、本当は、本当に伝えたいのは……
 ふと、壁に貼ってあったポスターに気がついた。
 『プレゼントに困った時に見たい、贈り物の意味一覧』と書いてあるポスターには、花の種類だけでなく、花の本数、雑貨、アクセサリーなどが持つ意味が、事細かに紹介されていた。
 その中の一つを見て、スグリは電気ショックを受けたような衝撃を感じた。
 パアッと目の前が開ける。アオイに想ってること、伝えたいことの全てが、その一文に詰め込まれていた。

「アカマツ、ごめん! 隣も見ていい!?」

 スグリは大慌てで友人を追いかけた。薄暗いと思ったはずの花屋は、いつの間にか鮮やかに光り輝く素敵な場所に変わっていた。