Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ドル閣下
2026-06-05 20:23:26
18320文字
Public
Clear cache
きっと君を照らす泡影(かけら)
野薔薇が渋谷で退場してから最終決戦に戻って来るまでの間に、どこかも分からぬ不思議な場所で出会う人々。野薔薇の体験と感情を通し、傷ついた仲間たちと触れ合いを深めていく追想記。誰かの記憶の中に漂う欠片があるだけで、人には生きた価値がある。原作軸完結後if。オールキャラ。
出演…釘崎野薔薇、虎杖悠仁、伏黒恵、七海建人、五条悟、脹相
1
2
3
4
5
6
六、 記憶の
泡影
かけら
たち
虎杖は、黙って私の話を聞いていた。一言ひとこと噛み締めるように。一言も聞き漏らすまいとするように。
「ありがと、釘崎」
背中を丸め、膝の間に両手を挟んだまま、やがて言葉にした。
「脹相は釘崎に会いに行ってくれたんだな。俺や、皆のために。それが聞けて嬉しいよ。俺の兄貴のことを思い出してくれて、ありがとう」
「私の方も、今の今までアンタの兄貴とあの人が結び付かなくて、悪かったと思ってる」
正直なところ、特級呪物と虎杖の間に何が生まれ、どういう関係ができあがったのか、私には知りようもなかった。とは言え、私はこれでも呪術高専の生徒だし、何より呪術師なのだ。少なくとも、呪術に関しては一般人ではない。虎杖と九相図兄弟に何らかの呪術的血縁がある、と言われれば、陰陽と因果の世界ではそういうこともあり得る、と呑み込むことはできる。私のいない間にこの二人は、他人には分からない特別な絆を築いたらしかった。
「話を聞いた時はびっくりしたわよ、そりゃ。そもそもおかしいと思ったのよ。史上最悪最強の呪物を飲み込んで、ヘーキな顔をしてるアンタを。よく考えれば、アンタが九相図兄弟入りしても何も違和感ないわ。それにさ、お兄さんは五条先生とはタイプが違うけど、ちょっとその辺にはいないくらいの爆イケで、思わず見惚れちゃったし」
嬉しそうな顔をするな。虎杖のくせに。天涯孤独だったアンタに、少しの時間でも兄貴と言える家族が寄り添ってくれて、なぜか私も嬉しいわよ、全く。
「釘崎にそう言ってもらえたらホンモノだな。あれでも、皆に結構馴染んでたんだぜ。兄貴風は吹かしてたけど、天然の百五十歳の子どもだったからさ、皆優しくしてくれたと思う」
「皆が彼のことを『脹相が』って親しげに呼ぶし、猪野さんも会いたいとよく話題にしてるし。あの人は皆にとっても、すっかりアンタの兄貴だったのね」
そして、忘れてはいけない。私たちを共犯にしたあの兄弟の兄でもある。彼にとって、私は間違いなく仇敵だった。
「あの、あのさ、兄貴は壊相と血塗
…
あの二人について何かお前に言ってた?」
私たち二人の心に刺さった大きな棘だ。私はともかく、兄弟同士が殺し合うことになった一部始終を、この兄と弟はどう乗り越えたのだろうか。そのことを考えると、心臓を掴まれたように苦しくなる。
「何も。何ひとつよ。恨み言なんて一切口にしなかった。せめて言ってくれてたらよかったのに。だから、呪胎九相図だなんて気付きもしなかった」
「そっか
……
そういうヤツなんよ」
憎んでいるはずの私に、なぜ大切な弟を託し、願いを置いて行ったのだろう。そのことは言葉にしなくても、虎杖も痛いほど感じているはずだ。私はその意味をこれからずっと考えていくのだろう。いつか心の傷が平らになって少し色褪せてきたら、アンタとこの話ができるといい、と思う。
「アンタに、あの兄貴がいてくれて本当によかったわ。どっちにしろ私には何もしてあげられなかったけど」
「うん、そーね
……
もっと長くいてほしかったよ。ナナミンにも、先生にも、そして兄貴にも」
虎杖の声が突然震えて、背中が小刻みに揺れていた。あの虎杖が泣いている。コイツが泣くなんて。気付くと、手を虎杖の背中に当てていた。鍛えられて飛び出た肩甲骨が、悲しいほど揺らいでいた。私は黙ったまま、そっとさすり続けた。声を殺していた虎杖は、堪えきれずに嗚咽し、しばらく背中を預けたまま泣いていた。
大丈夫、そばにいるから。先生、このことよね。うん、大丈夫、任せて。
⭐︎⭐︎⭐︎
「悲しい時は悲しいと言っていいって、さすが最強ね。すぐ役に立ったわ」
思いっ切り泣いてしまったせいか、虎杖は魂が抜けたように呆然としている。虎杖はずっと我慢してきたのだ。頼りになる先輩や、大好きな先生を失ったことを。同じ血で結ばれた掛けがえない存在を喪ったことを。自分の孤独が遥か昔からの因果によって紡がれて来たことを。泣いていいよ。私がそばにいる時には。
「
……
なんか久しぶりに泣いた。変にすっきりした。力が全部抜けちゃったよ」
「単純なヤツめ。でも分かる。私も死ぬほど泣いたことあるから」
「お前でも泣くの? 意外
……
」
「失礼ね、か弱いレディに向かって」
いつだって理不尽は目の前にある。私にも、虎杖にも。それを嘆いても仕方がない。でも、悲しい、悔しい気持ちは吐き出していい。そうやって前に進むしかないのだろう、と思う。先生、約束守れているよね、私。
「そろそろ戻ろっか。俺、全然試験勉強してねぇわ」
「ホント、なんで座学なんかあるのかしら。術師は術式の鍛錬が全てでしょ。私たちだけ体練多めで成績付けて欲しい」
「いや、お前こそ勉強した方がいいんじゃねぇの、せめて英単語くらいはさぁ」
「アンタに言われたくないのよ」
どうでもいいやり取りの途中で、彼の目に陽の光が差し、あっと思った。光を通して淡く輝く琥珀色の瞳。あの兄と同じ色、同じ煌めきだった。似てるところは一つもないなんてガッカリしてたようだけれど、あるじゃない、そっくり同じものが。
そう思ったが、虎杖を喜ばすだけなので、まだ今は教えてやらないことにした。いつかアンタが『もう限界』という時が来たら、とっておきの秘密として教えてやることにしよう、と思った。
ー了ー
きっと君を照らす泡影(かけら)
1
2
3
4
5
6
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内