燈 ともしび
2026-05-26 20:43:42
24329文字
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ぎゆさねオメガバ【熱と衝動】

ぎゆさねオメガバース。
教育実習生🌊×教師🍃の歳下攻です。
🍃さんの妊娠描写があります。
あとぎゆさねの子どもが出てきます。
苦手な方はご注意下さい。



あるアルファーの独白

 決して全てを許されたわけではないと自戒はする。
 でも、最愛の人と、最愛の人との子どもを側で見る許可を貰えたのは最高に幸せなことだった。

 大学を卒業してすぐに不死川先生のいる島へ赴任することが決まった。全ては学園長の配慮だった。
 本来なら離島への赴任は準備期間を下さるそうなのだが、全て断り、すぐに島へ向かったのは俺が初めてらしい。
 荷造りもそこそこに、この身ひとつで飛行機に飛び乗る。俺の唯一。最愛。早く会いたい。
 なんせ卒業間近までやることが多くて以前ほど頻繁に島に行けなかったのだ。そろそろ禁断症状が出そうになる。不死川先生不足。
 子どももそうだ。少し会わないだけですぐに大きくなってしまうのは甥で知っている。もう歩いているだろうか。見た目は俺にそっくりだが、笑う顔や動きは不死川先生そっくりでとても可愛い。俺の子。不死川先生と俺の子だ。そんなの愛おしくて仕方ない。

 最寄りの空港から更に船に乗る。やっと島へ行ける。何度も来ているが、今日からはもう帰らなくて良いのだ。
 島の船着場にはおばあさんの息子さんが来ていた。親切に迎えに来てくれたらしい。この島にはタクシーなんてないから助かる。
「おー、おー、蕩けそうな顔しやがって」
「はい」
 否定しない。事実俺の顔は蕩けきっている。
 おばあさんの一家は皆親切だけれど、この息子さんが一番俺に同情してくれていた。実はアルファーなのだそうだ。奥さんはオメガだと。一目惚れして本島から攫って来たんだ。冗談ぽく言っていたが多分冗談ではないのだろう。
 俺もアルファーだから分かる。この人、と決めたアルファーの執着は尋常ではない。時々自分でも怖くなるほどだ。目をつけられたら最後。死ぬまで愛し抜くから諦めては貰えない。

「良かったな」
「はい」
 本当にそう思う。
 アルファーなんて、みんな狂っているんだ。


 不死川先生に早く会いたかったけれど、おばあさんの家に先に寄って貰い、お土産を渡す。これだけでかなりの大荷物になっていたのだが喜んで貰えて良かった。
 今日はお嫁さんも珍しくいたのだが睨まれた。やはり俺のことはまだ許せないらしい。本当はそれが正しい反応だ。不死川先生が普通とは違うのだ。よく俺なんかを側に置こうと考えたと思う。
 そんなんだから俺なんかに目をつけられて抱かれて子どもまで産まされてしまうのだ。

 お茶でも、と声を掛けてもらえたが、息子さんが援護射撃をしてくれたので早々に解放してもらえた。
「早く最愛の人に会いたいに決まってんだろ」
 その通りだったのでありがたい。

 少しの距離なのに全力で駆け出す。
 今日はずっと家にいてご飯を作ってくれているらしい。嬉しい。早く会いたい。
 実は不死川先生のご飯を食べるのは初めてじゃない。実習していた時、俺が緊張と疲れでフラフラしていたら、ある日突然俺に弁当を作って来てくれたのだ。
「食べられる時にしっかり食べて健康でいることが一番大事なんだ。食え」
 って。
 不死川先生はそういう人だ。その人に一番何が必要かを見抜いて、最高のタイミングで手助けをすることが自然に出来るひと。
 ずっと夢で見てきたひと。俺の番。唯一。
 なのにそんなことをされたらもっと好きになってしまう。もっと欲しくなってしまう。
 それがどれほど怖いことか貴方はまだ知らないでしょう。恋に落ちたアルファーなんて厄介なだけなのに。

「ただいま戻りました」
 もしかしたら子どもは寝ているかもとそっと声をかけるが、奥からパタパタと音がしたと思ったら以前よりも大きくなった子を抱いた不死川先生が出迎えてくれた。
「よォ。お疲れェ」
……はい。帰ってきました」
「うん。おかえり」
「ただいま」
 このやりとりだけでちょっと泣きたくなってしまう。

 顔を忘れて人見知りされるかもと思っていたが、子ども──義一は俺の方へ手を伸ばしてきてくれたので喜んで抱き上げた。
「ば」
「そう。パパだよ」
「まあ、まだ仮のな」
「意地悪言わないで下さい」
 不死川先生が笑ってくれたのでつられて俺も軽口をたたく。幸せでまた泣きそうだ。
 少し見ない間に義一は大きくなって重くなって、あと前よりも不死川先生に似てきた気がする。
「まあ、子どもは顔が変わりやすいからなァ。両親どっちに似ててもおかしくねェだろ。血が繋がってんだし」
 そんなことを言われたので義一を抱きしめたまま座り込みそうになった。
 家族。そうだ。家族なんだ。幸せだ。

「ちょっと歩けるようになったんだぜ」
「え、本当ですか?」
 恐る恐る降ろしてみると、確かによろよろとだけれど数歩ほど歩いている。
 嬉しい。もう一度抱きしめれば義一は褒められたことが分かったようでご機嫌だ。
 可愛い。
 でも出来れば最初の一歩を歩くところを見たかったなと思う。贅沢な悩みだけれど、最愛の人たちの大切な一瞬を見逃したくない。
「これからは全部見られるから安心しろ」
 よほど俺は険しい顔をしていたようで、不死川先生から眉間の皺を解くように撫でられた。
 すぐに撫でられた箇所を手で覆い隠す。不死川先生は無防備にこんなことをしてくるから困るんだ。
 貴方の目の前にいるのは頭のおかしなアルファーなのに。


 俺に割り当てて貰った部屋を片付け、義一と遊び。そろそろ日が暮れる。
 向こうで一人でいる時は時間がとても長かったのに、今はあっという間に時が過ぎていく。
「そろそろ飯にするか」
「はい」
 前の時はおばあさん手作りのご飯が冷蔵庫にたくさん入っていて、それを温めて二人で食べた。
 でも今日はテーブルに不死川先生作の食事が並べられている。
「義一もご飯食べてるんだぞ」
「え、俺が上げても良いですか?」
「じゃ、俺が少し手本見せるな」
「はい。ありがとうございます」
 前に会った時はまだミルクだけだったのに。ここもまた知らない間に大きくなっていた。

 大人用よりも柔らかめのご飯やすり潰した野菜、果物。義一はなんでもよく食べてくれるから助かると先生は言う。
 実際に俺があげても嫌がらずにパクパクと食べてくれた。
「ここは俺に似たな」
 ふふ、と不死川先生が笑うので一緒に笑った。
 俺は密かに目が離せない。先生の静かな笑い顔は実はとても色っぽい。
 変な想像をするな。まだ、許されてないだろう。
 頭の中で暴走しそうな気持ちを抑え込む。

 でも、無理かもしれない。
 先生はヒート暴走で意識を失っていたけれど、俺は触れたことがあるのだ。あの身体に。唇に。
 全て覚えている。
 先生の身体がどれほど甘いのかを俺はよく知っている。意識がなくても俺が触れるたびに漏れる甘やかな声を、全て覚えているんだ。

「どうした、大丈夫か? 代わるか?」
「あ、いえ。大丈夫です。俺が上げてもよく食べてくれるからびっくりして」
「そう。親思いの子だろ」
「はい」
 冗談にでもしないと心の奥底が焼き切れそうだ。

 和やかに三人で食事をして。その後は長旅の疲れのせいか夢も見ないでぐっすり眠った。良かった。そうでなければ暴走してしまいそうになるところだったから。


 少し早めにこちらに来ているから、二週間程度はまだ自由に出来る。先生は育休を取得したのでしばらく休みだ。
 慣らしも兼ねて義一は週に三日だけ保育園に預けているらしい。やけに保育園が気に入ったのか、行かない日は不機嫌になることもあると聞いて笑ってしまった。
「だから今日は朝からご機嫌なのか」
「なぁー」
「うん。俺も今日は行くな」
「ぶぁー!」
 今日はその保育園の登園日だというので俺も付き添いで行くことにした。園には俺が父親だと届け出しているので先生達にもご挨拶しないと。

 園に着いて乳児室のドアを潜ると、義一と同じくらいの大きさの子ども達が遊んでいるのが見える。
 可愛い。でも親ばかなのでうちの子が一番可愛いと思ってしまう。
「義一の父です」
 担任の先生へ挨拶すると
「お父さん、若い」
「義一くんにそっくり!」
 と何故か爆笑されてしまった。
 義一は担任の先生が好きなようで俺の腕の中から手を伸ばして抱っこをせがんでいる。
「はい。おはよう。おいでー」
 呼び込まれたらあっさりと俺の腕から先生の腕に収まってしまった。心なしか顔つきも満足そうだが、父親としてはちょっと寂しい。
「じゃ今日はお昼寝もしますので十六時お迎えですね」
「はい。よろしくお願いします」
 
 不死川先生と担任の先生とのやり取りを聞いていたら、こんなに小さな子をそんな時間まで預かってくれることに驚いた。
「ばか。当たり前だろ。俺が仕事復帰したらもっと長い時間預けることになるんだぞ」
「あ、そ、そうですね」
 俺だって仕事が始まってしまえば日中は義一の面倒を見ることも出来なくなる。分かっているようで分かっていなかった。寂しいがそれも仕方ない。
 ご機嫌に手を振る義一に手を振りかえして自宅に戻った。

 家に着いて片付けの続きをしながらも俺がずっと凹んでいるので不死川先生はずっと笑っている。
「義一の親離れは出来てるのに、冨岡の子離れが出来なかったか」
「はい。すみません……
「いやマジで」
 ケラケラと楽しそうだ。
 ちらっと横を見る。
 不死川先生は周りを明るくする感じの先生だった。巻き込んでパワーを与えるというか、俺とは真逆の。だからいつも元気な印象だった。
 でも、義一を産んでからちょっと変わった気がする。なんというか、艶っぽさのような。そんな感じがするようになった。
 義一と落ち着いて離れることも出来ず、先生に二度と触れてはいけないのに、ふとした仕草にドキドキしてしまうだなんて未熟でいけない。

「冨岡ァ」
「はい」
「一応、一緒に暮らすから報告しとくな」
……はい?」
 なんだろう。何かあったか。考えても分からない。
「義一が生まれてからしばらくこなかったんだけどな、多分そのうちきそうな気がするんだわ」
 なんだろう。本当に思い当たらず。困った顔になる。
 すると先生は、とん、と俺の胸を指で押した。

「俺はオメガだがお前はなんだよ」

……え」

 それは、つまり。妊娠、出産によって止まっていたヒートが近いうちに先生に起こりそうだと。そういうことだろうか。

「アルファーが……冨岡が近くにいるからかもしれねェけど、多分くる。だから」

 だから。なんだろう。次を聞くのが怖い。
 でも聞かないとだめだ。

「きたら、俺も覚悟を決める。だから冨岡も覚悟を決めろ。今後、俺たちはどうなりたいのかを」

 そんなことを最愛の人に言われて、泣かずにいられるかと思った。
 それは、幸せで。
 そして、ずっと欲しかった許可だった。