燈 ともしび
2026-05-26 20:43:42
24329文字
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ぎゆさねオメガバ【熱と衝動】

ぎゆさねオメガバース。
教育実習生🌊×教師🍃の歳下攻です。
🍃さんの妊娠描写があります。
あとぎゆさねの子どもが出てきます。
苦手な方はご注意下さい。



 落ち着いたら子どもと共に元の職場と家に戻る。俺の当初の目標はそこだった。
 ただ、元の地域ではニュースになるくらい保育園に入るのが難しく、もし保育園に入園出来なかったら俺は働くことが出来ない。それならば今のままこの島で子どもが三歳になるまで過ごして、幼児クラスになってからこども園などの入りやすい施設を探しても、なんて最近では考えていた。
 俺自身もこの島で過ごすうちに愛着が湧いてきてしまったのだ。空気は綺麗だし、魚も野菜も新鮮で美味い。おばあ始め周りの人達は皆親切だし、職場も一貫校ではあるけれどのんびりとした校風のためか子ども達ものびのびとしていて雰囲気が良い。子育てにも向いていると思う。
 そう思い始めたらこのままここで過ごすのが最適なのではと。

 冨岡は俺の話を黙って聞いた後、
「俺は春に大学を卒業します。そうしたらこの島の学校へ赴任希望を出します」
 迷いもせずにそう言い出した。
「人生の大切な一歩をそんな簡単に決めんなよ」
 俺は焦って説得しようとしてしまったが、
「良いに決まってます。俺の望みは不死川先生と子どもの側にいたい。それだけです」
 冨岡から真っ直ぐな瞳で見つめられて、鼓動が跳ねた。

「突然やっぱり向こうの学校が良いって言い出すかもしれないぞ?」
「そうしたら俺も異動願いを出します」

……俺は、お前のプロポーズを断るような奴だぞ」
「そうですね。でも俺が側に居たいので」

「お前のことを番として一生受け入れられないかもしれない。それでも?」
「それだけのことを俺はしてしまいましたから。でもさっき不死川先生は今の俺は信用していると仰って下さいましたよね? それだけでも充分です」

 そこまで言われて俺は唸ることしか出来ない。
 父親としては良い男なんだろうなァ、冨岡は。なんせ子どもの為にせっせとこんな遠い島まで休みを潰してでもやって来るような奴だし。着いたら着いたで長旅で疲れているだろうに、ひと休みもせずに子どもの面倒をみたり家のことをやろうとしてくれるし。

 しまった。
 冨岡を説得するために言ったあれこれは逆に俺の首を絞め始めている気がする。 

「不死川先生」
……うん」
「お願いです。側に居させてください」
……なんで」
「え?」
「なんでそこまで俺たちの側に居たいんだ。子どもは冨岡の子どもでもあるし、まァわかるけどよ。俺よりも綺麗だったり頭の良いオメガは世の中にたくさんいるだろうがァ。ましてや俺たちはまだうなじを噛んで無いから完全な番にもなってねェ。子どもだって他のオメガにこれから産んで貰えるかもしれねぇんだ。俺たちにここまでこだわる必要もないだろ」
 卑屈かもしれないが、これが一番引っかかっていた。俺は綺麗でもないのになんでそこまで神聖視する。夢に出て来た奴と似ているとしても、もう良い大人なんだからいい加減呪縛から離れろよと。
「俺は冨岡の女神様ではないんだ。俺は番になるなら対等な関係が良い」
 キッパリと言った。
 もうここで決着を付けたい。
 俺は冨岡の事を許してる。それがはっきり分かった。もう恨んでも憎んでもない。子どもは悩んだが産んで良かった。とても可愛い。冨岡が居なければこの世に生まれてきてくれなかったのだとしたら感謝したいくらいだ。そんな気持ちでいる。なら、お互い前に進んで良いはず。

 冨岡の顔を見たら、目をまん丸にして驚いていた。え、なんで。俺も驚いて冨岡を見つめてしまった。

「不死川先生」
「なんだよ」
「あの、俺の勘違いなら申し訳ないのですが」
「だからなんだよっての」
「今の……話を聞いていたら不死川先生はもしかして俺が貴方のことを愛していないとでも思っていたんですか?」
「!」
「おまけに、それって俺が不死川先生を本気で愛していたら気持ちに応えて下さるってことで良いですか?」
「違ッ!」

 ぎゅっと。
 それまで俺と一定の距離をとっていた冨岡は俺のことを抱きしめた。

「愛してます。ずっと愛していますよ、貴方のことを。でなければあんな卑怯な真似をしてまで貴方を抱いたりしない。貴方のことを好きだから。愛してるから欲しかったんです。俺の番になって欲しかった。だから抱きました。でもうなじはどうしても噛めなかった。無理矢理意識のないままうなじを噛んで番になったとしても、起きた貴方の目が俺を拒絶したらと思ったら怖くて噛めなかったんです」

 俺の背中に回されている冨岡の手は震えている。

「抱いてしまったあと、逃げてすみませんでした。なんてことをしてしまったのだと後悔していて……死ぬつもりだったんです。でももしかしたら貴方が俺の子を妊娠しているかもしれないと思ってしまって、そうしたらまだ死ねないと思って。でも産んでくれるとは思ってませんでしたから、生きているうちに貴方にきちんと詫びなければと」
 
 話す言葉は涙声だ。冨岡はすぐ泣く。

「それなのに、貴方は俺の子を産んでくれた。それだけじゃない、あんなに可愛い子を俺に抱かせてくれた。俺は幸せで、幸せで……死にたくないって、思ってしまった。不死川先生もあの子も愛おしくて仕方なくて、ずっと側で見ていたいと願ってしまった」

「一生かけて罪は償います。でも、お願いです。俺はやっぱり貴方の番になりたい」
 またわあわあと冨岡は泣いて。
 でも最後に絞り出すように願ったのはそれだった。

「さっき、信用されてるだけで良いとか言ってなかったか?」
「はい。でもやっぱり無理です。こんなにも愛おしい人を離したくない」
「勝手な奴だな」
「勝手です。すみません。でも貴方が好きなんです。他のオメガなんて要らない。俺は貴方だけがいれば良いんです」

 あまりにも冨岡が泣くから俺の着ているティーシャツはびちょびちょに濡れた。縋りつかれて生地も伸びてしまっている気がする。

「冨岡なァ」
「はい」
「もう憎しみも怒りもねぇんだよ、俺は」
「そんな俺に都合の良いことは」
「あるんだよ。もうお前のことは憎んでない。あの子の父親としては適任だとも思ってる。後は俺が夫として、番として冨岡を受け入れられるかどうかってとこなんだけどな」
……はい」

 身体の力を抜いて冨岡にもたれ掛かる。意外と楽だった。
 そうか。一人じゃないって多分、力を抜いて楽になることなんだって気付いて。

「あの子が三歳になるまでこの島で子育てしねェ? 一緒に。協力して。ここに赴任してこい。お前がそこまでの覚悟があるなら俺もお前の人生を変える覚悟するからよォ。だから」

 意外と自分の気持ちも分からないもんだなとしみじみ思いながら。

「その期間、俺にも猶予をくれ」
……なんの、猶予ですか?」

 恐る恐る、恐々と。そんな雰囲気を冨岡から感じたからあえて笑い飛ばしながら言ってやった。

「そんなの決まってるだろ。お前と番になる覚悟をするための猶予だよ」
 って。