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燈 ともしび
2026-05-26 20:43:42
24329文字
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ぎゆさねオメガバ【熱と衝動】
ぎゆさねオメガバース。
教育実習生🌊×教師🍃の歳下攻です。
🍃さんの妊娠描写があります。
あとぎゆさねの子どもが出てきます。
苦手な方はご注意下さい。
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「なァ」
「はい」
「おまえはさ、死ぬつもりだったか?」
腕の中で冨岡の身体が震えた。
確信を持って問いかけた言葉だったけれど、多分合っていた。
小さな頃から運命的の番という呪いにかかった哀れなアルファー。
呪いは刷り込まれ、夢の中で見たのものが全てになり。偶然か必然かそいつに似ていた俺を全てだと思い込み、目の前でヒートを起こした俺を抱いてしまった。欲というよりも神に縋る信者のように、衝動的に。
だから正気に戻った時、もしかしたら命を断とうとしたのではないかと思ったのだ。ここに来た時に思い詰めた顔をしていたのはそのせいだろうと。
「申し訳ありません」
消え入りそうな弱々しい声が何度も謝罪を繰り返す。
「だから、謝罪は要らないって言った」
「俺は、貴方に
……
不死川先生に酷いことを」
「そう。お前のしたことは犯罪だ」
「はい」
もう一度、冨岡の身体が震えた。
こいつはそれを言うためだけにここに来たのか。俺に土下座して謝罪して、そして
……
死ぬことで呪いの連鎖を断とうとしたのか。
本来なら運命の番だなんて女の好きそうなロマンチックなやつだろうに、こいつと俺にとっては呪いでしかなかった。本人達は望んでいなかった妊娠すら叶えてしまうほどの結びつきなんて呪いだ。
でも、死ぬことでしかその呪いを解けないなんて間違っていると思う。生きて解くことだって出来ると思う。
「冨岡」
「はい」
「手ェ貸せ」
項垂れたままの冨岡の片手を取り、腹に当てる。
驚いたのか手を引っ込めようとしたので強く押さえ込む。
「逃げるな! ここにな
……
子どもがいンだよ」
「
……
」
「俺の子だ。生きてる」
「
……
はい」
返事は涙声だった。冨岡はもうずっと泣いている。感情の制御が出来なくなっているのかもしれない。死のうとするほど思い詰めたのだから仕方ないのかもしれない。
でも、腹に宿った子は元気だ。流石にまだ胎動は感じないが、話しかけると時々腹が温かくなる時がある。きっと俺の声が聞こえているんだろう。
「冨岡」
「はい」
「生きろよ」
「
……
」
「罪は生きて償え。あとな、多分この子は俺に似てめちゃくちゃイケメンかめちゃくちゃ美人だと思うから生まれてくるのを楽しみに生きて待ってろ」
「そんなの
……
」
冨岡は俺の腹に手を置いたまま黙り込み、そしてわあわあと泣き始めた。大人らしくない、まるっきり子どものような泣き方だった。多分、これが呪いにかかる前の姿なのだろう。まだ幼い冨岡義勇は、やっと呪いから解放されようとしているのかもしれない。
俺も腹に手を置く。
まだ生まれてもいないのにお前は凄えなァなんて感心してしまった。
冨岡の泣き声が向こうにまで聞こえたらしく、流石に心配になったらしいおばあがこちらの様子を見に来た。そうしたら俺の腹に手を置いてわあわあ泣いている冨岡が目に入ってきたので目を丸くしている。
「なにがあったの
……
」
「あー、感極まって泣いてるだけです」
「えええ
……
」
困惑。おばあの顔にはそうはっきりと書いてあったが、俺はとりあえずヘラっと笑っておいた。
おばあと息子さん、お孫さんの家で今夜は冨岡を預かってくれるらしい。この島には小さな民宿が一軒しかないのだが、タイミング悪く先週からご主人がギックリ腰になってしまい、泊まれる場所が無いのだ。
冨岡のことは怖くはなくなったが、流石に俺も自分を無理矢理抱いた相手と一つ屋根の下で眠れるほど心臓に毛が生えていない。だからおばあの申し出はありがたい。
「明日の定期船で帰ります」
「うん」
泣いたから目が腫れて大惨事になっているが、冨岡の背筋はシャキッとしているし、口調もしっかりしている。これならもう死のうとは思わないだろう。
「見送りはしねェけど、元気でなァ」
手を振ると冨岡は微妙な顔をする。
なんだよ。まだ何かあるってのか。どこまでも手のかかる奴だな。
「不死川先生」
「おう」
「俺は一度帰ります。でもまた来ます」
「ア?」
「だって、無理です。好きな人が俺の子を宿しているのに離れるなんて無理です。身の回りの整理をしたらまた来ます」
「アァァア??」
なんだこいつ。何を言ってるんだ?
「許して貰えるとは思いません。でも俺が出来ることは全てやりたい。あと、近くで貴方と子どもが大きくなっていくのを見ていたいのです」
頬をうっすら染めて冨岡は言う。
ええええ
……
。先ほどのおばあの困惑が移った。俺も冨岡のことがよく分からない。自分で呪いをかけて死にそうになっていたくせに突然ポジティブにならないで欲しいのだが。
俺もどっと疲れてしまったのでそれ以上藪蛇にならないよう突っ込まずに自宅に帰ることにした。
おばあ、息子さん、お孫さんすみません。腹の子に障らないように俺は離れます。
翌朝、俺は宣言通りに冨岡を見送らなかったのだが、律儀にも見送ってあげたらしいおばあが言うにはやたらと目をキラキラさせて船に乗って行ったらしい。
「世界ってこんなにも綺麗なんですね」
それが最後の言葉だったらしいのだが。いや、前とは別の意味で怖い。思い込みが激し過ぎる。
「あの子が戻ってくる前に島を出たほうが良いかもなあ」
おばあがぽつりと言うのに黙って頷く。色々考えて現実には無理なのだが、そんな気持ちになった。
「義勇は悪い子ではないんだけどね」
「悪い子ではありますよ、俺には」
珍しく俺が言い返したので学園長は黙ってしまった。
結論から言うと冨岡はすぐに島にくることはなかった。大学を卒業もせず職がない状態でこちらに来ても何の役にも立てないと理解したらしい。なのでまずは大学を卒業し、就職してから島に移住計画をたてると。それはそうだ。
けれど、週末になると度々島へ顔を出した。
俺を訪ねてはくるが、一定の距離をとって挨拶だけの言葉を交わす。決して近寄ってこないし、触れようともしてこない。
「お元気そうで良かったです」
ふわっと笑ってそれだけを言うとすぐに帰る。
ここにくるだけで旅費も馬鹿にならないだろうに、本当に俺の様子だけを見て帰るのだ。それはあいつなりの反省なのかと思うが、まだ俺は冨岡に対し「許す」とは言ってない。生きて償え。それだけだ。
やがて俺も正産期に入り、誰が見ても分かるほど腹もパンパンになった。腹の子どもは俺に似たのか元気いっぱいで胎動も強く、時に夜も眠れないほど蹴っ飛ばしてくることがある。
医師からは性別の告知はどうするかと聞かれたが、あえて聞かないことにした。
どっちでも良いのだ。
元気に生まれてきてくれたら、あとは全力で愛するだけだから男でも女でも関係ない。
そしていつ産まれてもおかしくない週になってから、冨岡は島で寝泊まりするようになった。大学は休学しているらしい。
そこまでされても絶対に立ち会いなんかさせねェし、産まれた子どもを抱っこさせる気も無いのだが、それでも俺と子どもの側に居たいと言う。
『やだ、健気』
同じく島に泊まり込みに来てくれている母さんが危うく絆されそうになっていたが、危ない。イケメン危ない。冨岡は黙っていれば綺麗な顔をしているから油断も隙もあったもんではない。
「母さんは七人全員安産だったから実弥もそうかもねぇ」
「まあ、楽な方が良いけどなァ」
久しぶりの母の味を堪能していたところで陣痛がきた。間隔を測り、十分間隔になったところでおばあの息子さんの運転で病院へ向かう。
まあ多分いるよなァと思ったが、冨岡も病院に居た。情報漏洩の犯人は母さんだろう。いつの間にか連絡先を交換していたらしいので。イケメンに弱いのは本当に困る。
「それだけじゃないのよ。だってあの子なんでしょう?」
腹の子の父親が冨岡とは言ってないが、母の勘で気付いているらしい。
「だって冨岡くん、実弥よりも真っ青で死にそうな顔してるから可哀想になっちゃって」
「役に立たなそうな父親だなァ、おい。いててて」
母さんの予想通り、医師や看護師さんが驚くくらいの安産で産まれたのは、真っ黒な髪の元気な男の子だった。
立ち会いも抱っこも許すつもりはなかった。けれど、ガラスの向こうからベッドに寝かされた赤ん坊を見ることだけは冨岡に許してやった。
付き添った母さんが言うのには
「小さい。可愛い」
「髪の毛、真っ黒だ。瞳は何色なんだろう」
好奇心と喜び全開で赤ん坊を見つめていたが、やがてあくびをする姿を見て泣き出したらしい。
「不死川先生とおんなじあくびの仕方だ」
どんなだよ。どこを見てるんだよ。引くわ。
気持ち悪い発言を母さんにするな。そう説教するつもりで病室に呼びつければ、冨岡は俺の顔を見るなりまた泣き出した。
「ありがとう。ごめんなさい。でも可愛かった。本当にありがとう。小さくてすごく愛おしいんだ」
発言も支離滅裂で、子どもみたいにわあわあ泣くから俺はすっかり毒気を抜かれてしまい、ここにきてまだ俺と距離を取ろうとしていた冨岡を側まで来させて頭を撫でてしまった。
そうしたらなんだか色々どうでも良くなってきて、母さんが補助するのを条件に冨岡に赤ん坊を抱っこさせてやることにした。
新生児なんてぐにゃぐにゃのふにふになので産んだ俺でも少し怖い。弟や妹、合計六人抱っこしてきた俺ですらそうなのだから、赤ん坊に慣れていない冨岡は緊張し過ぎて顔が真っ白、冷や汗だらだらだった。
けれどいざ赤ん坊を渡すと、冨岡の顔つきが変わった。抱っこの仕方は見るからに慣れていないが、一瞬でも目を離すまいとするかのようにしっかりと抱きしめ、微笑み、可愛いと何度も口にする。
俺はまともな父親の顔なんて知らない。うちの父親はろくでなしだ。けれど、それまで頼りなく見えていた冨岡の顔が『父親』に見えた。
小さな赤ん坊の手が冨岡の指を握ると、冨岡は泣いた。
「不死川先生、可愛い。ありがとう」
泣きながらも礼を言われたから
「当たり前だろ。俺が産んだんだから最高に可愛いんだよ」
と軽口で返す。
けれど、いつの間にか俺も泣いていた。
涙が流れていくたびにふわっと心が軽くなった感覚がある。
やっと、冨岡のことが許せそうな気がしていた。
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