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燈 ともしび
2026-05-26 20:43:42
24329文字
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ぎゆさねオメガバ【熱と衝動】
ぎゆさねオメガバース。
教育実習生🌊×教師🍃の歳下攻です。
🍃さんの妊娠描写があります。
あとぎゆさねの子どもが出てきます。
苦手な方はご注意下さい。
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小さな手が服の袖を握りしめてくるから視線を合わせるとにっこりと笑う。
この前までは寝返りすらうてなかったくせに、今では和室内を好き勝手に動き回って探検している。その動きはこちらが思っている以上に早いし、おまけに気になったものは何でも口に入れてしまうから遊ばせる場所はかなり慎重に掃除するようになった。
小さき命を守るのは大変だ。
でも抱き上げた時の温かさ、甘い匂い、笑う声。全てが愛おしくて仕方ない。
「よォ」
「お邪魔します」
冨岡はあれからも週末を利用して定期的に島へ来ている。
一応、子どもの父親ではあるので本人の望み通り面倒を見させているのだが、初めは危なっかしくぎこちなかった抱っこも徐々に上手になり、オムツも一人で手早く替えられるようになり、寝かしつけまでも出来るようになった。今も眠くてぐずぐずし出したところを抱っこであやし、ゆらゆらさせながら子守唄まで歌ってあげている。俺とは違う人間である冨岡を安心出来る存在だと認識し始めたようで、無防備に身体を委ねてあやされている。
産まれた時からずっと冨岡に似ている子どもだったので、抱っこされているとミニチュアのようでちょっと可愛い。
安産だったとはいえ俺が腹の中でずっと育てて産んだのに、子どもの外見に俺の成分があまりないのは何故なのかとも思うことがあるが、最近では二人を見ているとまあ、これはこれで可愛いから良いかと気にならなくなってきていた。
「まつ毛が長いのは不死川先生に似ている」
「えぇー
……
それだけかよ」
「あとあくびの仕方が同じ」
「それはもう聞いた。なんで気付くんだよちょっとキモいだろやめれ」
こんな軽口も叩き合えるようになっていたが、それでも一線は引いたまま冨岡とは過ごしている。
冨岡がこちらに来るたびに話し合いはしている。向こうの言い分は子どもの認知をしたいということ、あと俺と子どもの経済的援助をしたいということだった。
一応、あいつは父親だしそれは受けようかと思っている。俺ではなく子どもの権利でもあるかと思うので。
でも『俺と籍を入れたい』という願いは断った。
「俺にその権利はないことは分かっていますし、勝手なことを言います。俺は不死川先生と結婚したいです」
何度も話し合っている時、真っ直ぐな瞳で俺を見ながら跪き、冨岡はそう言った。
でも俺は断った。
冨岡は俺の返事が分かっていたかのように少し笑って引いた。でも諦めないとも言った。
「貴方が俺の全てです。そして産まれた子どもも俺の全てだ。二人の側に居たいんです」
だから諦めない、と。
「そこの裏山に花が綺麗に咲いているところがあったのでこの子と一緒に散歩をしても良いでしょうか?」
お昼寝から起きた子どもは機嫌も良く元気いっぱいで、今日は日差しも気温も穏やかだし、散歩にはちょうど良い日だ。
「良いぞ。行ってらっしゃい」
「ありがとう。行ってきます」
冨岡の腕に抱っこされて子どもはきゃあと嬉しそうに笑う。すっかりあいつの抱っこが気に入ったようだ。今日もやっぱりそっくりな二人で可愛い。
今のうちに掃除と片付け、と思っていたが、この家はとても日当たりが良いから障子を開け放っていると、ポカポカしてとても気持ちが良い。洗濯物を畳むために座り込んでいたら一気に眠気がきてしまった。昨日は珍しく子どもがぐずって寝なかったので寝不足だったことを思い出す。
さっき出て行ったばかりだし、少しなら大丈夫か。
誰も見ていないのを良いことに思い切って寝転ぶ。子どもが産まれる前に入れ替えて貰ったので、まだ井草の良い匂いがする。
うとうとと微睡みながら、俺は冨岡とどうなりたいんだろうと考えた。
父親と母親なのは受け入れた。でも夫婦になれるのかはよく分からない。元々恋愛感情のない相手と事故のように番になって妊娠してしまったのだ。好きとか嫌いとか愛してるとか難しい。
いま俺が冨岡に抱いている感情は哀れみと同情。それは確定している。怒りは子どもが産まれた時に薄れてもう無い。あと一緒に嫌悪感も無くなった。
でも。
でも、と思う。
やっぱり俺はパートナーとは対等でいたい。まだ冨岡からは俺のことを神聖視している雰囲気を感じているから、現状ではパートナーにはなれないと思っている。
自分でも面倒な性格してるなァとは思うが、そこは譲れないので仕方ない。冨岡が俺に対してずっと敬語なのもその印象を強くさせている気もするし。だから何度話し合いをしても平行線のまま一線をひいて接することしか出来ずにいる。
なんか疲れた。
ここまで色々あり過ぎた。
少しだけ寝よう。起きてもやることはたくさんある。少しだけ、と言い聞かせて目を閉じた。
誰かに髪の毛を撫でられている感触がする。
小さい頃に母さんに撫でて貰った時とおんなじ、優しい感触。
「実弥は良い子ね」
「私の可愛い子」
寝ているから何を言われても覚えてないだろうに、母さんはいつも俺に愛を囁いてくれていた。だから気持ち良く眠れたんだ。
「何度伝えても信じては貰えないですよね。でも、貴方に伝えた言葉は俺の本当だけなんです」
「実弥さんを愛しています」
ふわっと水面に浮き上がるように目が覚めた。
睡眠不足からくる頭痛まで消えている気がした。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなって慌てて身体を起こすと、そこは見慣れた自分の家。
「あ、すみません。起こしてしまいましたか?」
「え、いや
……
」
視線の先では冨岡が俺のやり残していた洗濯物を畳んでいるところだった。俺よりも几帳面に畳んでいるからちょっと面白い。
「! 子どもは?」
姿が見えなくて叫ぶと
「ここにおるよ」
後ろからおばあの声がした。その腕には赤ん坊が抱かれていたからほっとした。
「オムツが濡れていたから替えといた」
「すみません。ありがとうございます」
「たいした手間でもないから謝りなさんな。それよりも寝不足だったのかい? いつでも預かるから休めそうな時はちゃんと寝ないと」
「はい
……
すみません」
俺はずっと弟や妹の面倒も見て来たから、子ども一人くらい楽勝だと思っていたところがある。
でも子どもを産むということは思っていたよりもずっと体力を奪うようで、以前より少しのことでも疲れやすくなっていた。
おばあや息子さん、お孫さんが隣にいてあれこれ世話を焼いてくれているのにも関わらず、だ。子育てに恵まれている環境なのに。
おばあは側にくるなり俺の目の下を指差す。
「隈出てる。今夜はうちで子どもを預かるからしっかり寝なさい」
「いえ、そこまて甘えるわけには」
「この子は生まれる前から面倒見ていたからうちの子みたいなもんだよ。今日は嫁も帰ってきているから安心しな」
おばあの家のお嫁さんは島で看護師をしていて、俺がこの子を産んだ時も側に居てくれた人だ。お孫さんが大きくなってからは夜勤もしているから忙しくしていてあまり会えないが、今日は明けか休みなんだろう。
「私が休みの日には絶対この子とたくさん遊ばせてね!」
赤ちゃんの匂いがたまらなく可愛いと言ってくれた人だ。おばあの家の人はみんな優しくて温かい。
「あの、お言葉に甘えてお願いしても良いですか?」
「もちろんさ。明日また連れてくるよ」
今日はうちで遊ぼうねえ。おばあが話しかけると子どもはきゃあと楽しそうに笑う。
「で、若いのはどうする?」
「え?」
「子どもは預かるよ。で、冨岡くんはどうする? こっちに泊まるかい?」
「え!」
冨岡と同時に叫んでしまった。それは予想外だった。
島に来る時、冨岡はおばあの家に泊らせて貰っていたが、今日もそのつもりでいたのだ。
でも、これはチャンスかと思った。
今夜、おばあが子どもを預かってくれるのなら、いつもよりもしっかりと冨岡と話し合いが出来る。
子どもがいるとどうしてもぶつ切りになって進まないのだ。
「冨岡は、今夜はこっちに泊めます」
「え!」
俺がそう返すと冨岡はまた叫んでいたが、おばあは気にした風もなく
「そうかい。なら後で息子に冨岡くんの分の布団を持って来させるよ」
と言ってくれたので助かりますと返した。
俺は落ち着いたら島から出て元の生活に戻るつもりだった。冨岡は卒業したらこっちに来るつもりでいたようなので、その辺も深く話し合いをしなければ。
おばあと子どもを見送ると俺は冨岡に向き合う。
「冨岡」
「はい」
「まず腹ごしらえの準備だ」
「え、は、はい」
「で、その後はいつもよりもちゃんと今後の話し合いをしよう」
「
……
はい」
そう言ったら冨岡が少し微妙な顔をしていた。なんだよ。大事なことだろうが。
「不死川先生」
「なんだァ?」
「あの、お忘れかもしれないのですが、その
……
俺は貴方を一方的に抱いた男です。そんな奴を同じ家に泊まらせるって正気ですか?」
正気って、お前なァ
……
。
今度は俺が微妙な顔をする。
「あの時はヒートでまともな状態じゃなかった。今の状態ならぶっちゃけ俺の方が冨岡よりも腕っぷしは強いわ。おばあの家もすぐ隣にある。あの時と違って逃げ込める場所もある。あとな」
「
……
はい」
「今のお前は
……
信用してる」
続けて言うと冨岡は泣き出してしまった。
すみません。ごめんなさい。ありがとうございます。
それらを繰り返しながら泣いてるから笑い飛ばしてやる。
自分でも不思議なくらい、心が晴れていた。
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