錘(つむ)
2026-05-24 23:38:32
13108文字
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緑色の目の

ドゥリーヨダナに声をかけられ、弟にされてしまう!と怯えるジョン・ラックランドだったが…



 ドゥリーヨダナがカルデアをぷらぷらと歩いていると、マスターが早足で回り込んできた。
「わし様ちゃん!」
「『偉大なるドゥリーヨダナ様』ー。」
「偉大なるドゥリーヨダナ様さあ、ジョンのこと追いかけ回してたんだって? ジョンは来たばかりなんだから、その、なんか、威光? でびっくりさせないであげてほしい! 私とか実の兄の居ない間にこそこそ口説いたりするのも感じよくないよ。偉大なら偉大にしててよ」
 あの日はジョンの宝具威力確認の後はジョンの本物の兄であるリチャードが似たようなテストに入っていた。横槍が入りにくい時間帯を狙ったのは確かだ。ドゥリーヨダナは露骨に口を曲げてみせたが、小娘のマスターはまったく頓着せず腰に手を当てて物怖じ一つなく反り返るくらいに見上げてくる。不本意ながら末の妹に重なるのも上がりすぎた絆のせいであることを、ドゥリーヨダナは未だに認めたくはなかった。
「ふん、用があったから酒を奢っただけだがぁ?」
「えっ、酒って。大人の方のジョン? 私もあんまり会えてないよ。レアだよ。どんな手を使ったの」
「何もしとらんが」
 嘘ではない。ドゥリーヨダナの感覚では何もしていない。向こうが勝手に大人化をしただけである。
「ほんとかなー。とにかく、偉ダナ様は偉大なんだから、もうちょっと手心と言うか。現地弟ばっかり追いかけてたら、本弟たちが悲しむよ」
「不敬ライン完全にぶっちぎっておるな?」
「名前に偉大が食い込んでいるんだからむしろ敬意溢れてるよ!」
 じとりと睨んだが特に効果はなかった。諦めて歩き出すと、マスターも来なくていいのについてきた。
「まあね。確かにジョンはすごく弟なので存在しない記憶とか無限に作り出せちゃうのわかるけどさ」
「弟というよりは」

『この目さえ、光があれば。
 愚かな王だと皆が言う。おのが血も残せなかったひ弱な弟よりも、目が見えぬ私のほうが王として劣ると。母さえ、目を閉じなければ、今頃は』
 足音を立てずに、そっと、宮殿の廊下を引き返した。このような泣き言は、父はけして息子たちには聞かせたくないであろうから。昼間にパーンダヴァ兄弟を穏やかに迎え入れ、ユディシュティラを後継ぎ候補に入れることを否定せず、終始微笑みさえ浮かべていた父王の弱腰を詰った。父はドゥリーヨダナを諭し、自分はこのような目であるから玉座を預かっているに過ぎないのだとまで言った。その場は引き下がったがやはり面白くなく、もう一度直談判しようと気配を消して潜り込んだのだった。
 翌日、対面した父は同じ穏やかさを向け、ドゥリーヨダナも忘れようと思った。

「ん? わし様ちゃん?」
「なんでも無い! 今はわし様の気分で手を引いておるがすぐに第二第三の気分が現れ弟増やしの計画が再始動するであろう……
「全然私の話聞いてないー。今に始まったことじゃないけど」
 マスターの嘆きを、ドゥリーヨダナはそっぽを向いて、だいぶ無理がある聞こえない振りをした。