錘(つむ)
2026-05-24 23:38:32
13108文字
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緑色の目の

ドゥリーヨダナに声をかけられ、弟にされてしまう!と怯えるジョン・ラックランドだったが…


 狙われているとまで言われては心穏やかでいられない。カッツたちと分かれた後、小さな休憩スペースに置かれている誰でも使える情報端末を触り、データベースで軽くデータを確認してみた。百人もいるなら父王の側女の数がすごかったのだろうかと考えたが、同じ肉を分けて培養したと分かった。それなら全員よく似通っているのも得心が行く。父王が存命中に戦死したため王子のままであったようだが、摂政ならほぼ似たようなものだろう。
 などと、ちょうど、考えていた相手がひょっこりと現れたら、奇声も上げようしのけぞった挙句変なポーズになってしまうのも致し方ないではないか。
「うわあああ、ドゥリーヨダナ」
 挨拶したときより近く、見下されているのもあって本当にデカい。厚い。
「わし様をきっちり覚えておるとは当然とはいえ良い心がけだ」
「だ、だって。聞いたぞ、弟っぽいやつを捕まえて、弟にするやつなんだろ!」
 ドゥリーヨダナはきょとんとまぶたを持ち上げ、自分のあごひげを撫でるように手をおいた。
「ん。おまえ、そんなにわし様の弟になりたいのか」
 身を翻し逃げた。
 撒けると思って、逃げた。その判断の稚拙さはさすが俺だと、ジョンは今自分を罵っている。このままなら間違いなく捕まる。
……仕方ない」

 鎧の中に長身痩躯を沈め、晩年の姿のジョンは嘆息した。我ながらこんな方法でやり過ごそうとしているのは本当にどうかと思う。バレないと言うよりは、年齢が上になれば興味から外れるであろうという目論見である。
 だが鼻歌でも歌いそうな足取りで通りかかったドゥリーヨダナは、意外なことを口にした。
「このくらいの坊主が走ってこなかったか?」
 実際の身長よりかなり低い位置を振った手のひらで指し示していたが、今のジョンにとっては背丈などどうでもいいことである。
「あちらに駆けていった」
「情報、感謝する」
 ドゥリーヨダナは大股で三歩ほど、先に進んだ。
 まさかこんな手でやり過ごせるとは。あとはもう、マスターたちが戻るまでどこかに籠もっていようと元来た方向にさり気なく移動しようとした。が、全く同じ動きを逆回しに戻ってきたドゥリーヨダナと目が開い、にっこりされた。通用しなかったらしい。それはそうだ。
「おまえ、なかなか愉快であるな。気に入ったぞ。この高さで見るとよく分かる、よい瞳の色だな。昔そんな宝石を持っていた気がするぞう!」
……故郷ではあまりよい言われ方をしない色だが」
「そんなもの。やっかみであろう! 追いかけっこも無事、飽きたことだし。大人同士、酒でも飲まんか」
 笑顔を威圧に使い倒してきた者らしい笑顔を向けられ続け、断り文句も見いだせず、ここで逃げるほうが後々面倒そうだという後ろ向きな理由で、ジョンは諦め頷いた。