錘(つむ)
2026-05-24 23:38:32
13108文字
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緑色の目の

ドゥリーヨダナに声をかけられ、弟にされてしまう!と怯えるジョン・ラックランドだったが…


 宝具を散々撃たされてやっと解放された。マスターはまだ残ってシミュレーターを使っている。支援があったにせよくたくたで、すぐに休める場所に戻りたかった。カッツとパリスに呼び止められて、煩わしい顔を向けてしまったが、向こうは用向きがあったらしく構わず近づいてきた。パリスは「アポロン様」は今日は連れていない。
「今日の出撃、ドゥリーヨダナと一緒だったんだってな。なにかされなかったか?」
 真剣な顔をふたつ向けられて、ジョンは面食らった。
 なにかもなにも、挨拶をしてテスト戦闘を行った内の一人というだけだ。ああ、でも。宝具の最後に、こちらを振り向いたまま消えた一人。覆面に隠れて表情は見えなかったが、身構え方からこちらを大変警戒していたような。その印象が強かったので、ジョンは明言を避けた。
「なにかって……どんなだよ」
「あいつはヤバいんだよ。弟っぽいサーヴァントを自分の弟にしたがるんだ」
「おとうとっぽいさーゔぁんとをじぶんのおとうと??」
 カッツの言葉を意味が飲み込みきれないままに繰り返す。二人が頷いたので、聞き間違いではないようだ。
「隙あらば弟にしようとして、弟に勧誘してきます。迷惑ですよね、僕には兄さんがいるのに」
「なんで姉上でもないのに褒め称えると思うんだろうな、図々しい」
 何かの冗談でもなさそうだし、色々な奴がいるのがここだとは知っていたが、来て早々に自分に降りかかるとは思ってもみなかった。
 ジョンは当然の疑問を口にした。
「マスターはなんでそんなやつを野放しにしているんだ?」
「マスター! ハッ、この件に関しては、全ッ然当てにならない、むしろあっち側くらいに思っといたほうがいい」
「ドゥリーヨダナさんは周回のアタッカーですから。最高レアのみなさんよりは編成コストが抑えめな所を、マスターが聖杯で強化しているんです。最高値まで。絆値も深まりすぎたから、引退になるとマスターもドゥリーヨダナさんもみんな思ってたんですが。絆が上がり切ると他のサーヴァントに良い影響を及ぼすと分かってしまって、それからはもう引退話も消し飛んじゃいましたね」
「思い出した。立てこもって大変だったよな。キャスターのアルトリアもそうだそうだやれやれやっちまえー! って焚き付けて。結局いろんな条件を飲んだらしい、よく知らないけどな」
 絆などという内的なものを数値化される事自体あまり気持ちの良いものではないが、ジョン自身は他の多くのサーヴァントのように、カルデアに深く馴染んだ目安としての絆値5まで至っている。それでも、かなりの数の戦いを繰り返した。次からは上がりにくくなり、正確な数値は聞いていないが、何倍どころでは済まないらしい。感知できる範囲では10が最高だが先はさらに特別なアイテムを使う。このあとは想像すらつかない。それを、最高値まで。想像したジョンは小さく身震いした。
「それは……、周回のやりすぎでおかしくなってしまったんじゃないか……?」
 おそるおそる尋ねてみると、カッツとパリスは哀れみのぬるい眼差しを双方から注いできた。
「それだけは違います。はじめからですね。元からです」
「バーサーカーだぞ。おかしくなかったらおかしいだろ。人がいいんだな、騙されないように気をつけたほうがいいぞ」
 もとからおかしいそうなので、ジョンは素直に頷いておいた。
 パリスはえへんと小さく咳払いのようなものをした。
「周回とか、同情すべき点は多々あるんですけど。マスターも、お願いしてる手前があるみたいで強くは言えないみたいで」
「なんならご機嫌取りに売り渡すかも知れない」
 うんうん、とうなずき合っている。
 マスターまで疑うのはどうだろうか。マスターのことは、憎きロビンフッドとの決闘代理人に指名するくらいに信用している。
 いや、あの時も結局応じてくれたわけではないが。無言で耳とか引っ張られて痛かったしその後滾々と説教された。よく考えるとマスターはあんまり庇ってくれないかもしれない。味方と思っていたら売り渡されるとか、普通にあり得た時代を曲がりなりにもくぐり抜けてきた。うん、あてにできないかもしれない。
「あれでカルデアのサーヴァントでも屈指の資産持ちなんだからな。ただでさえ出撃で報酬が出るのを、出資だ金貸しだのでものすごく稼いでるって」
「あー、ヘクトール兄さんもそこは褒めてました。当たりが大きいのにも手を出すから派手に見えるけど、分けて運用してるからああ見えてだいぶ手堅いとか」
 時代も場所も違うなら王の役割や権限も異なるのは当然だが、財貨を徴収や支払い引き伸ばしだけに頼らず運用できているのは素直に凄い。
 それにしても、ジョンの疑問は尽きない。
「宝具で見たけどあんなにいてまだ足りないのか? 一人に睨まれてたかもしれないんだが、顔見えないけど」
「あっそれ。きっとヤキモチですよ! 実の弟がこんなにいるのに泥棒弟! って」
「てことは、やっぱり狙われてるんだよお前。気をつけろよな」
 カッツとパリスはもう巻き込まれるのが確定の、同情の眼差しでこちらを見ていた。